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34話 突撃晩御飯

 夕方、フィルとホープは寮の部屋でその日の出来事について話していた。


「いやー、今日は本当に大変だった」


 フィルはベッドに座り込んで、疲れたように頭を枕に押し付けた。


「そうだね、でもシェアト様のチームに入れたんでしょ?凄いじゃん!」


 ホープは机に向かって宿題をしながら答える。


「それはそう。シェアト様はすごい人だったし、トニカも元気で良い子だった。レイバンはちょっと分かんないかな、決闘始めたりさ」


「決闘って…まさか初日から?」


 ホープが振り返って驚いた表情を見せる。


「うん、でもまあ、大した怪我もなかったし、良い結果だったからやってよかったよ」


「もう僕はフィルの話についていけないよ〜、まぁフィルが満足してるんならいいんだけど」


「うん、ホープのチームはどうだった?」


「僕はチームないんだよ、そっちのコースじゃないから」「コース?」


「えっとね、この学園には大きく分けて二つのコースがあるんだ」


 ホープが振り返って説明を始める。


「大きく分けると『戦闘コース』と『勉学コース』がある。もっと魔法や剣とかで細分化されるんだけど、フィルは戦闘コースに入ったから班を作って実戦演習とかがあるんだ」


「なるほど、それでチームがあるのか」


「そう。戦闘コースは将来騎士になったりする人のためのコースだね。実戦重視で魔物との戦い方とか、チームワークとかを学ぶ」


「ほうほう」


「僕が入ったのは勉学コースで、こっちは魔法の研究とか、魔物の生態研究とか、そういう学問的なことを学ぶコースなんだ。まぁ本当は戦闘コースに入りたかったんだけどね」


「へー、そんな分かれ方してるんだ」


「それで勉学コースは基本的に個人研究が中心だからチームは作らないの。でも時々グループで研究発表とかはあるよ」


「ほー、でホープは何を研究をしてるんだ?」


「僕は魔法理論を専攻する予定。未来国で作られてる機械って物と魔法を合わせるんだ」


「機械?ってのは分かんないけどそれって結構すごいことなんじゃない?」


「どうかな。フィルみたいに実際に魔物と戦える人の方がすごいと思うけど」


「一概には言えないと思うけどな」


 コンコンっ


 二人がそんな話をしていると、部屋のドアがノックされた。


「うん?誰だろ?」


 フィルが立ち上がってドアを開けると、そこには今さっき話題になったばかりの少年が立っていた。


「レイバン!?どうしたんだ?」「え?レイバンが訪ねてきたの?」


 流石のホープも机から離れこちら側へ、レイバンは無表情のまま一言。


「…お前達、今日の夕食は食べたか?」


「いやまだだけど」


「なら入れさせろ、俺が作る」


 そう言って袋を持ち上げる、中を覗けば色々な食材があり果物まである。


「作るって、行動が分かんなすぎるから説明して欲しいんだけど」


「俺とお前は一緒のチームになった、そうだな?つまり俺たちはチームワークを高めなければならない、その前提として親交を深めなければならない。その方法として一緒に食卓を囲むのが最適だと思った。異論はあるか?」


(異論しかないよ。意味わかんないもん)


 後ろのホープが凄い顔してるのが分かる、意味不明過ぎて。レイバン本人は今も無理矢理じわじわ入ってこようとしている。


「なんだフィル、先刻のことを気にしているのなら謝ろう。俺も冷静でなかった」


「先刻ってか今かな、あと今冷静でこれなの?」


「レイバンってこんな人だったんだ、もっと真面目かと思ってた」


 ホープはこんなこと言ってるが真面目ではあると思う、なんか方向がちょっとおかしなだけで。


「悪いが入らせてもらう」「あちょ」


 こんな訳で突然の食事会が始まった。




「手際いいね…」「そうか?トニカはもっと上手い」


 野菜や肉を細切れにする、その手捌きは慣れた人のそれ。俺は後ろからずっとそれをみていた。


「ん〜いい匂いだなぁ、ついつい手が止まっちゃうよ〜」


「冗談はよせ、ホープ・ケッペル。この程度で止まる集中力じゃないだろう」


「僕の名前知ってるんだ?」


「毎回学年テストでトップ3に入ってる男を知らないと思うか?貴様の論文を見た、あぁいう解釈があることに驚いたよ。一度話して見たかった」


(ホープってそんな頭良かったんだ…というかレイバンは一体なんなんだ。昼と態度が違いすぎるだろ)


 昼のレイバンと目の前で卵を割るレイバンが同じ人なのかどうか分からなくなってきた。


 頭を抱えてると料理ができた様で机に並べられる。


「オムレツだ、食べるぞ」「おう」


 三人で食卓を囲み食べ始める。いい機会なので俺はレイバンに聞くことにした。


「なんで急に親交を深めるなんて…急ぐ必要ないだろ?」


「…お前には酷いことを言った。それでお前に悪感情を持たれたままではチームワークなど育たず、いずれシェアト様などに迷惑が掛かる。だから多少強引でもこうして謝罪と親睦を深めようとしたのだ」


(確かにチームないに亀裂があったらいずれ取り返しのつかないことになる場合もある)


 どうやらレイバンは不器用なだけで嫌なやつではないらしい、それに仲間のことも大事に思っている。


「じゃあ今日の昼と態度違い過ぎない?なんであんなに怒ってたの?」


 ホープも気になる様でじっと見つめている。返答を待ってると少し考えた素振りを見せ、口を開いた。


「…イラついていた」「「え?」」


「突然だが、お前はトニカをどう思う」


「トニカ?なんでトニカが…」


「いいから答えろ、答えられないのか?やましい気持ちがあるのか?出会って一日も経ってないのにか?あ?」


 真っ当な疑問を投げかけた筈がとんでもないぐらいキレられた、なんでだよ。


(どうやらレイバンは同一人物ではあるらしい、そこは良かったと言えるだろう?)


 現実逃避をしていると凄い形相でこちらを見てきている…何か…何か返答しなきゃ…


「やましい気持ちなんかあるわけないだろ」


「それはトニカが魅力的でじゃないと言いたいのか?」


(ダメだ、何答えでもダメだし何処にキレてるのか分かんなすぎる、こんなんで一緒にやってけるのか?)


 絶望していると無言を貫いていたホープが聞いた。


「…もしかしてレイバンってトニカのことが好きなの?」


「「!?」」


(成る程!天才だお前は!そうゆうことか!)


 トニカが好きだからそれに誘われた俺のことが嫌だったのか、なるほどなるほど……


 あれ?俺悪くなくないか?


 でもどうやらホープの考えは当たっていたらしく…


「そうだな、俺はトニカが好きだ」


「だから俺にキレてたの?理不尽じゃない?」


「ついな、悪気はなかったぞ」


「じゃあレイバンは今までトニカが誘った子をフィルみたいに決闘で潰したんだ」


 ホープの言う通り、私情でそんなことしまくっていたらトニカが可哀想だし誘われた子も可哀想だ。


「確かにそうだが誤解がある、まず俺程度に勝てない奴はいらん。そして実際にシェアト様を狙ったりする輩もいた」


「四代貴族の力なんて誰もが羨むからね」


 ホープの言う通り、四代貴族が国に与える影響は図り知れない。その権力の甘汁を吸える可能性があるなら入ろうとする奴もいるだろう。


「最後に一つ、これが一番大きい理由だがシェアト様に言われたんだ」




 ▲▽▲▽▲▽▲




「レイバン、トニカが私達のチームに誰かを誘うだろうが断れ。誰であろうとな」


「何故です?あと一人いなければ二年次に…」


「大丈夫だレイバン、必ず私達に相応しい者が現れる。だからその時を待て」



 ▲▽▲▽▲▽▲



「そう言われていた」


「ん?待って?その話だとフィルを元から誘うつもりだったってこと?」


「多分な、あの決闘もキレてはいたが元からする予定ではあった。でなければトニカが納得しない可能性もあるからな」


「なるほどな」


 その後、三人は食事を続けながら、レイバンの意外な一面や複雑な事情について話し合った。


「それにしても、シェアト様がフィルのことを予想してたなんて不思議だね」


 ホープがオムレツを一口食べながら呟く。


「シェアト様はまるで未来を見えてるかの様に語る節があるからな。俺には分からんが、きっと何かあるんだろう」


 レイバンは淡々と答えながら、自分の分を食べ終えた。


「まあ、とりあえずこれで親交は深まったってことでいいのかな?」


 フィルが苦笑いを浮かべながら言うと、レイバンは少し考えてから頷いた。


「そうだな。だが改めてお前が入ってくれた事を感謝しよう」


「いいよ、俺も何処かには入らなきゃいけなかったしね」


 食事が終わると、レイバンは食器を片付け始めた。


「あ、洗い物は僕がやるよ。作ってもらったんだし」


 ホープが立ち上がると、レイバンは首を振る。


「いや、俺がやる。料理を作った者が最後まで責任を持つべきだ」


「真面目だなぁ」「当然だ」


 食器を洗い終えると、レイバンは荷物をまとめて立ち上がった。


「それでは失礼する。明日からよろしく頼む、フィル」


「こちらこそ。あ、レイバン」


「なんだ?」


「今日はなんやかんや楽しかったよ、またやろう」


 レイバンは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに小さく微笑んだ。


「…あぁ、またやろう」


 そう言ってレイバンは部屋を出て行った。


「なんか思ってたより不器用なんだね、レイバンはもっとなんでも器用にこなす人だと思ってた。でもそんなことないよね、同じ歳なんだから」


 ホープが机に戻りながら言うと、フィルも頷いた。


「うん、これからが楽しみになってきた」


 こうしてフィルは眠りについた、ほんのり違和感を感じる首をさすりながら。

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