33話 決闘
訓練所に移動する道中、フィルは心の中で少しため息をついた。
(なんで俺がこんなことに…)
「大丈夫だよフィル!レイバン君は確かに強いけど、フィルならきっと勝てる!」
トニカが励ますように言うが、フィルの表情は冴えない。
「もう後悔してるのか?今なら逃げるのを許してやる。去れ」
レイバンがわざわざ挑発する為に振り返る、その言葉には明らかな軽蔑が宿っていた。
「…逃げないよ、やるって言ったんだから。それにチームには入らなきゃいけないし」
訓練所に到着すると、すでに数人の生徒が個人練習をしていた。
(広いなぁ、設備綺麗だし今度使おっかな)
フィルが辺りを見回してる間レイバンが訓練所の管理をしている教師のところへ向かう。
「すみません、決闘の許可をお願いします」
「決闘?またか?初日からか元気なのはいいが、怪我のないようにやりなさい」
教師は慣れた様子で許可を出した。どうやらこの学校では決闘は珍しいことではないらしい。
「それじゃあルールを確認するぞ」
レイバンが振り返り、フィルと向き合う。
「ルールは単純だ。武器は何を使っても構わない、魔法も使用可能。相手が降参するか、戦闘不能になるまで続ける。ただし、致命傷は与えてはならない」
「分かった」
「それと、俺が勝ったらもう二度とトニカと話すな。班に入りたいなどと寝言は言わせん」
「それで構わないよ」
「フィル君が勝ったら、レイバン君は文句言わずに班に入れること!」
トニカが割って入る。
「構わん」「じゃあ、早速初めようか」
訓練所の壁には様々な武器が並んでいた。フィルは迷わず剣を手に取る。普段使い慣れたものとは違うが、感触は悪くない。
レイバンは杖を選んだ。
(闘気の感じからして魔法使いなのは分かっていたけど…問題は一般魔法主体か固有魔法主体かだよな)
「準備はいいか?」「ああ」
二人が向き合う。訓練所にいた他の生徒たちも練習の手を止めて、こちらに注目し始めた。
「いや、待て」
レイバンが手を上げて制止する。
「おまえの能力については既に知っている。固有魔法「創造」、そしてアスター流の剣術だろう」
フィルは軽く眉をひそめる。
「良く調べたんだね」
「貴族の情報網を甘く見るな。平民出身がレベル4を討伐したなどという話はすぐに耳に入ってくる」
レイバンが杖を構え直す。
「だからこそ、俺も手の内を明かしてやる。フェアにいこう」「別にいいけど」
「俺の固有魔法は『念動力』だ。自由な力を操れる、言葉にするのは難しいが…見えない力の様なものを何処からでも出せると言うものだ」
レイバンの杖の先端に小さな水が灯る。
「一般魔法も使える、水属性と火属性だ」
(なるほど、魔法使いだけど固有魔法のおかげで近距離も出来るんだな)
フィルは分析する。相性は決して悪くないはず、近づければ勝てる。
「と言うか思ったより優しいね、わざわざ言うなんて」
「…決闘とはフェアな状態で行われるべきな物だ、だから当然のことをしたまでに過ぎない…始めるぞ」
二人は中心から別れ互いの間が二十m程度の所で止まる。トニカは二人の様子を見て、合図の準備をする。
「フィル、頑張ってね!」
トニカの声援が響く中、フィルは剣を構える。
「よし、よーい、ドン!」
合図とともに突風が吹いた、トニカの髪が靡く程の風。そのせいでトニカは目を瞑ってしまった。
それでもほんの二秒程度か…
「んー…え!?」
目を開けた瞬間、その光景にトニカは驚愕した。
瞳に映ったのは倒れいくレイバンと宙を舞うフィル。
どさっ、と音を鳴らし膝から倒れるレイバン。3秒間の決闘の決着はフィルの勝利で幕を閉じた。
「え?レイバン君!?」
トニカは慌ててレイバンの元へ駆け寄った。他の生徒たちもざわめき始める。
「ごめん、手加減したから怪我はしてないと思うけど」
レイバンは膝をついたまま、肩で息をしていた。
「レイバン君、怪我はない?」
トニカがレイバンの肩に手を置く。レイバンは数秒間黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「…俺の負けだな」
「レイバン君?」
「あの間合いから反応できない速度でくるとはな」
レイバンが悔しそうに呟く。フィルは静かに立っていた。
「でもそれは事前に魔法について教えられてたからだよ、じゃなきゃ様子見してた」
レイバンがゆっくりと立ち上がる。服に付いた埃を払いながら、フィルの方を見た。
「それは違う、これは決闘だ。そんな事前知識で勝った所で意味はない、お前は勝ったんだ」
その言葉に訓練所がざわめいた。レイバンの実力を知っている生徒たちにとって、これは予想外の結果だった。
「レイバン君…」
「約束は約束だ。だがあの言い方では語弊があるな」
「ん?」
レイバンはフィルと改めて向き合う。
「俺たちのチーム入ってくれ、お前の力が必要だ」
レイバンは深く深く頭を下げた。
「…もちろん、よろしくレイバン」
(やっぱりレイバンのこの感じ…気のせいじゃなかったかな)
「やったあ!これで4人チームの完成だね!」
トニカが全身で嬉しさを表すようにはしゃいでる。
「ああ、よろしく頼む」
レイバンが手を差し出す。フィルはその手を握り返した。
「ところで、もう一人は誰なの?」
フィルがふと疑問を口にする。トニカとレイバンを見回しながら続けた。
「4人チームって言ってたけど、まだ一人会ってないよね」
「もう一人はシェアト様って言うの。今頃教室で待ってるかも」
「シェアト様?」
「あぁ、俺たちはその方に従えてるんだ。このチームのリーダーもシェアト様だ。実力的にも人格的にも、俺たちが認めた人だ。お前も会えば分かる」
レイバンの表情が少し和らいだ。さっきまでの高圧的な態度とは違って、尊敬の念が込められているのが分かる。
「それじゃあ、教室に戻ろうか。シェアト様を待たせちゃダメからね」
トニカが先頭に立って歩き出す。
「そうだな、あの方を待たせるのは申し訳ない」
三人は訓練所を出て、さっきの空き教室へと向かった。「第4教室」の前に到着すると、トニカがノックをした。
「シェアト様〜、戻りました」
「入っていいぞ」
中から凛とした声が返ってきた。
扉を開けると、窓際の席に一人の少女が座っていた。灰髪が揺れ、読書をしていたのか手には本。顔を上げると、澄んだ青い瞳がフィルを見つめた。
まるで俺がくるのが分かってたかのように、一切の動揺も見られなかった。
「ほう、噂の転校生だな」
少女が立ち上がってこちらに歩み寄ってくる。
「シェアト様、紹介しますね。フィル君、私たちの新しい仲間です」
「初めまして、シェアト様。フィルです」
フィルも軽く頭を下げた。
「堅苦しくするな、私の名はシェアト・シュヴァリア。貴公の様な強い戦士がチームに入ってくれたこと嬉しく思う」
「あの〜?普通に受け入れてますけどいいんですか?俺が班に入るのは」
(リーダーはシェアト様なんだからこの人が最終的に決めるはず…不思議なのは何故か俺がくるのも分かってた様な気がすること)
「あぁ、初日にトニカと同じクラスなのは分かっていたからな、トニカなら誘うと思っていた。それにここに来る、そんな予感がした、それだけだ」
「そうですか…」
フィルが答えると、シェアトは満足そうに頷いた。
この時既にフィルはシェアトの人間離れした勘?に舌を巻いたが、それより気なる点が一つ。
(シュヴァリア家、この人が二年の四代貴族か…ファスカ様といい四代貴族は凄い人しかいないな)
「それで、お前の目標は何だ?」「目標?」
「この学校に入った理由だ。ただ何となく入学したわけではあるまい」
シェアトの青い瞳がフィルを見つめる。その視線は鋭く、見定めるような…
「…王になることです」
「王か、良い目標だ。なら、私たちの班はお前にとって最適だろう」「ですね」
王になるには試験で一番になるしかない、その班で選ばれた一名が王に挑める。そのチャンスが半年に一回だ。
その為王になるには班が強くならなければならない。
「よろしくお願いします、シェアト様」
「改めて歓迎しようフィル、共に目指そう」
シェアトが立ち上がり、フィルに手を差し出す。
フィルはその手を握り返した。思ったより小さく、しかし確かな意志を感じる手だった。




