32話 学園は大変で
「フィル君、ご入学おめでとうございます」
かつてここまで不愉快な声があっただろうか、耳が生理的に拒絶する。
「おまえ、どうしてここに居る?」
何故居るかなんてどうでもいい、殺す。剣はない、だけど創造で作ればいい。
(今なら分かる、こいつは魔法タイプだ。この距離ならこっちが有利)
頭が沸騰してるのかと錯覚するほど熱くなってる、握りしめた拳から血が垂れる。
「エーヴェル先生?フィルと知り合いなの?」
後ろのトニカが言った言葉が自分を正常な思考に戻す。
(先生?誰が?こいつが?)
「はいまぁ知り合いです、出来ればトニカ君には少し下がってもらいたいんですがよろしいですかね?」
「はい!じゃあ教室で待ってるねフィル!」
トニカの後ろ姿を見て冷静を取り戻した状況を整理する。
「あっちで話しますか」
人がいない空き教室で二人は相対する。
「どうしてここにという質問には今の通り、私はここで教鞭をとっていまして。名前はエーヴェル・テロル、いつぞや名乗った名ではなくこっちが本名ですよ」
あの時と同じように飄々とツラツラ言葉を並べるエーヴェルにフィルは怒りが再燃してきた。
それでも心を押し殺し我慢したのはどうしても聞きたいことがあったから。
「レイラ達は無事なのか?」
眼鏡を拭きながらエーヴェルは答える。
「はい、傷ひとつつけてませんよ。優しいでしょう?これでも約束は守る方です」
「傷つけてたら分かるな?」
「こちらにメリットがありません、それに私はいたずらに子供を傷つける狂人でもない」
「…」
「今のはつっこんで欲しかったですねぇ。まぁいいです、それにしても成長した様で、レベル4を討伐とは素晴らしい」
機嫌良さそうに手を叩くエーヴェル。
「私の見込み通り成長してくれて嬉しいですよ、この調子で頑張って下さい。ではこれで、これ以上話したら貴方のコンディションが落ちそうですし」
「気分は地の底だ、でも良かった」「?」
「レイラ達は無事なんだろ?なら良い、安心しろエーヴェル」
エーヴェルはこの時フィルの目を見て自分の見込み以上だったことを理解する。
「死んでもとってくるから」
「よもやここまで成長しているとは、びっくりですよ。フィル君、本当に君で正解だった。では最後に一つこれを」
不機嫌を全面に出しているフィルに差し出されたのは紫色の針。
「これを首に刺してください、そうすれば私はあなたの思考や場所が分かるようになるので。勿論拒否権はないですよ」
「勝手に刺せばいいだろ」
「誠意ですよ誠意、じゃあ刺しますよ。えい」
(痛くは無いな…)
「ではまた、フィル君、期待してますよ」
その声にフィルが反応することはなかった。教室に戻ると、トニカが笑顔で迎えてくれた。
「エーヴェル先生と知り合いだったんだ?」
「まぁね、ちょと昔に会ってさ」
フィルは努めて平静を装いながら答えた。エーヴェルへの怒りはまだ心の奥で燻っているが、今はそれを押し殺すしかない。
オンドルフ先生が入ってきて、クラス運営について改めて説明がなされていた。フィルは話を聞いているふりをしながら、頭の中でエーヴェルとの会話を反芻していた。
(レイラ達は無事…それだけでも良かった。なら助けられる)
「それじゃあ本日はここまでだ!明日から本格的な授業が始まるから、しっかりと準備しておくんだぞ!」
オンドルフ先生の言葉で、フィルは現実に引き戻された。生徒たちがざわめきながら立ち上がり始める。
「フィル!約束覚えてるよね?」
トニカが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「約束でしょ?行くか」
「よし、じゃあついてきて!」
トニカに手を引かれるまま、フィルは教室を後にした。廊下を歩きながら、トニカが振り返る。
「それでそろそろ聞いて良い?何するのか」
「あっ!そうだよねごめんね、一人で舞い上がっちゃった…えーとフィルは知らないかも知れないんだけど。この学校は四人一組で実戦演習をやるの」
「実戦演習って魔物と戦うやつでしょ?四人組なんだ」
「そうなの、で一年生は三人でも班は成立するの。でも二年からは四人じゃなきゃダメで…だからお願いフィル、私達の班に入ってほしい!」
トニカのお願いポーズを見て、フィルは少し考える。
(王を目指すなら、弱い班に入るわけにはいかない…トニカには悪いけどちょっと考えなきゃ、だって三人班だったことには理由があるはずだし)
「トニカ、悪いけど俺は王を目指してる、はっきり言って弱いとこには入れない」
それを聞いたトニカは意外なことに安心した表情を見せた。
「良かった〜!それについては大丈夫。私達の班が一番強いから」
トニカが胸を張って断言する。
(嘘をついてる様には見えないけど、なら尚更なんで三人なんだ?入りたい人なんかいっぱいいるだろ)
「一番強い?本当に?」
「うん、先生に聞けば分かるよ!本当にすごい人達だから。フィルも驚くと思う」
トニカは嬉しそうに手を叩きながら、廊下の奥へと歩いていく。
(まぁ会って見てから決めよう、本当に強いから願ったり叶ったりだ)
「じゃあ、会ってみるか」
フィルがそう答えると、トニカの顔が一気に明るくなった。
「やったぁ!ありがとうフィル!」
二人は校舎の奥の方へと向かった。人通りが少なくなる廊下を歩きながら、トニカが指を弄りながらこちらをチラリ。
「あのね、最初はちょっと驚くかもしれないけど、みんな本当に良い人達だから」
「驚くって何が?」
「えーと、まぁ会えば分かるよ!」
漠然とした不安が込み上げてきたが無視、こうゆうのにはもう慣れた。
トニカがある教室の前で立ち止まった。扉には「第4教室」と書かれている。
「ここだよ」
トニカがノックをすると、中から声が聞こえてきた。
「いいぞ」
トニカが扉を開けると、中には一人の男が席に座っていた。綺麗な深紅色の髪で、見定める様な視線でこちらを見つめている。
「トニカ、なんだそいつは。ここに部外者を入れるな」
第一声は不機嫌なのが丸分かりなほど怒気が込められていた。
「噂のフィル君だよ、あと部外者じゃないよ、チームに誘ったもん」
「おいトニカ…いつも言ってるだろ?勝手に誘うなと、足手纏いを連れてくるな」
「フィルは強いよ、レベル4だって倒してるし!」
「噂のか…だがそいつは平民だ、まともな礼儀も知らない奴をあの方に会わせるわけにはいかない。どうしてそれが分からないんだ?トニカもいい加減従者としてな」
(平民差別か、師匠も気を付けてって言ってたか)
こちらも黙ってばかりじゃなく少しは言い返そうとでも思ったがトニカが叫ぶ。
「でも実際私達のチームに入ってくれそうな人はもういないじゃない!いっつもレイバン君が追い返すせいで…ここでフィルを逃したら後悔するよ!」
強めに言うレイバンに対し一歩も引かないトニカ。言い争いはどんどん過激になり…
「それはいつもおまえが連れてくる奴が愚図しかいないからだ!剣を持ちながら近距離戦で俺に勝てん奴などいらん」
「フィルなら勝てるもん!ねぇフィル!」
トニカからのキラーパス、フィルは正直言い争いに押され、来なければ良かったと若干後悔しているとこだった。
「まぁ勝てるよ」
だからこそ勝てると安易に言ってしまった。
「ほう?俺に勝てると……分かったトニカ、いつも通りだ。こいつが俺に勝てたらチームに入るのを認めてやる。勝てなければ認めない、それでいいな!」
「いやちょ…」「もちろん!フィルなら余裕で勝つもん!」
「はいた唾を飲むなよフィル」
「なんで?」
吐いたどころか吐かれた唾、こうして入学早々決闘が始まった。




