30話 入学式
翌朝、フィルは制服に袖を通しながら鏡を見つめていた。ノジオン学園の制服は深い紺色のブレザーに白いシャツ、エンジ色のネクタイ。
胸元には昨日もらった徽章が光っている。
「似合ってる?これ?」
隣で同じ制服を着るホープに不安そうに尋ねる。
「うん、似合ってるよ。多分僕より」
ホープは恥ずかしそうに頬を染めた。制服姿の彼は昨日のヒーローポーズとは違って、普通の学生らしく見える。
「大丈夫、すごく似合ってる」
フィルの言葉にホープは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。じゃあ、一緒に朝食食べに行こう」
二人は寮の食堂で軽く朝食を済ませ、クラスへ向かう。その途中オンドルフ先生が現れた。
「「おはようございます」」
「やあフィル君、ホープと仲良く出来てそうで良かった良かった。ホープとフィル君は同じクラスだから丁度良かった、一緒に向かおう」
「じゃあ先行ってるよ、一緒に入ると気まずいからね」
そう言ってホープはそそくさとクラスへ向かっていった。
「行ってしまったね、まぁそれよりどうだいフィル君、ホープは」
「いい子だと思います」
まだ会って一日も経っていなかったがフィルはホープを友人だと思っていた。今まで同じ歳の子と触れ合ったことがないフィルには新鮮、初めての友人だ。
「それは良かった、実はホープは小さい頃から知っていてね、少し心配だったんだが…杞憂だったようだな」
そんな会話を続けてついにクラス前に来た。
「先に私が入る、名前呼んだら入ってきなさい」
「はい」
フィルは深呼吸をした。
(よし、少し緊張するけど、いける)
「フィル君、入りたまえ」
今フィルは新たな第一歩をふみだした。
▲▽▲▽▲▽▲
このノジオン学園は学年が変わってもクラスのメンバーは変わらない、つまり繰り上がり制。よって特にクラス替え特有の緊張などなく普通に世間話などを楽しむ…それが例年の入学式だった。
だが今年は違った、今クラスには異様な空気が流れてる。誰も話さず扉を見つめている、原因はそう、フィルだった。この学園に編入は珍しい、だがいない訳ではない。普通ならばどんな転入生が来るかなどの話題で盛り上がる、だがとある者が転入生の情報をリークした。
これは別に良かった、だが入った情報に問題があった。
《《レベル4》》単独討伐を成し遂げた奴が入ってくる。
瞬く間にこの情報広まり学校中で話題になった。レベル4単独討伐はそれほどの快挙…否、偉業であった。
実際この学園生徒全体で単独討伐を成し遂げているのは10人にも満たない。2年ではたった一人のみであった。そんな傑物が入ってくる、自分のクラスにだ。
もし入った瞬間にうるさかったら殺されるかもしれない、そんな緊張が全員の意識にあった。まぁそんなことはある訳がないが…
そんな緊張抜きにしてもクラスは静かだったろう、この中にレベル3を単独討伐しろと言われたら挑める者達も多いだろう、だがレベルが1変われば次元が変わる。そんな怪物を倒した者に同じ年齢ながら尊敬の眼差しを向けざるを得ない。
そして今オンドルフがフィルの名を呼んだ。
「フィル君、入りたまえ」
そう言って入ってきたのは男だった、綺麗な銀髪でサファイアの様な目、端的に言えばカッコよかった。
この時クラスの数名がフィルの《《異常性》》に気づく。
(魔力量は大したことないけど…なんて闘気!シェアト様より遥かに高いんじゃない?いや、ファスカ様とも比べても…)
そして服の下から分かる引き締まった身体に姿勢、クラスの実力者は理解した。
(((レベル4討伐は嘘じゃない)))
転入生のの口が開かれる。
「どうもこんにちは、フィルです、是非仲良くして頂けると幸いです。それと…
王になる為に来ました。よろしくお願いします」
宣戦布告とも取れる自己紹介が終わった。
▲▽▲▽▲▽▲
教室に足を踏み入れた瞬間、フィルは違和感を覚えた。
(あれ?結構静かだな)
もうちょっとやかましいぐらいのを想像してたけど、教室は水を打ったように静まり返っている。三十人ほどの生徒全員が、まるで申し合わせたようにこっちを見つめていた。
フィルが教室に入ると、何人かの生徒の表情が微妙に変化するのを感じた。驚き、緊張、そして…畏怖?
(なんだこの空気。俺何かしたっけ?)
オンドルフ先生がフィルを教室の前へと促した。
「皆さん、今日から新しい仲間が加わります。フィル君、自己紹介をお願いします」
フィルは教室の前に立ち、クラス全体を見渡した。生徒たちの視線が痛いほど集中しているのを感じる。その中で、ホープだけが励ますような笑顔を送ってくれていた。
(みんな緊張してる?なんで?まぁとりあえず普通に挨拶すればいいか)
「どうもこんにちは、フィルです、是非仲良くして頂けると幸いです」
一呼吸置いて、フィルは真剣な表情になった。
「それと…王になる為に来ました。よろしくお願いします」
その瞬間、教室の空気がさらに重くなった。何人かの生徒が息を呑む音が聞こえる。
(あれ?なんか変なこと言ったかな?目標ぐらい言うべきかと思ったけど)
困惑しながらもフィルが深々と頭を下げると、教室からは拍手が起こった。
「ありがとう、フィル君。では、席は…」
オンドルフ先生が教室を見回すと、中央付近で一人の生徒が手を上げた。
「先生、ここが空いてます!ここ」
元気良く手を上げ声をかけたのは、クリーム色の髪をした少女だった。穏やかな笑顔で手を振っている。
「じゃあトニカの隣に行ってくれ」「はい」
フィルが席に向かって歩いていると、通路沿いの生徒たちが小さく挨拶をしてくれた。
「よろしく」「凄いぜまじ」「また今度話そう」
意外に温かい反応に、フィルは少し安心した。
席に着くと、隣の少女が振り返って笑いかけた。
「よろしくねフィル!私はトニカ!トニカ・ベルフィオーレ、水魔法が得意なんだぁ」
(元気で何処かふわふわしてる感じの子だなぁ、ルーチェみたいだ)
「よろしく、トニカ。水魔法か、攻守治全部こなせるバランスのいい属性だよね」
「そうそう、フィルは見たところ剣士っぽいけど魔法は使うの?」
「うん、無属性と風属性かな」
「え!?無属性なんだ!初めて見たかもしれない、…ねぇフィル後で時間あるかな?」
少し間を開け小声でトニカがそう言ってきた。
(時間はあるけどどうゆう要件だろ、でも断る理由はないよな)
「うんいいよ」「本当?じゃあ後で一緒に来て?」
とりあえず会話がひと段落した所、後ろの席の男子生徒が身を乗り出してきた。
「おい、本当にレベル4倒したのか?単独で?」
「いきなり失礼だよ」
トニカが注意するが、男子生徒は構わず続けた。
「いや、気になるじゃん。俺なんかこの前チームで3倒したばっかだぜ?」
「あぁ、倒したよ。でも運もあったし…」
「運だけじゃレベル4は倒せないぐらいは分かるわ、いやぁすげぇよまじすげぇ」
教室の他の生徒たちも興味深そうに聞き耳を立てている。
「ハイハイ、フィル君と話したくなるのは分かるがまだオリエンテーション中だぞ〜」
オンドルフ先生の声で、生徒たちは慌てて前を向いた。
「では、今日はオリエンテーションということで、まずは2年生のカリキュラムについて説明しよう」
先生は黒板に授業科目を書き始めた。
「科目は魔法理論と、剣術、魔術、魔物学、歴史、そして実戦演習が主だ。年に4回のテストがあり内容は座学と実技、内容は追って」
フィルは周りの生徒たちの様子を観察していた。さっきまでの浮ついた空気は消えみんな真剣に先生の話を聞いており、時折メモを取っている。思っていたよりもずっと勉強熱心な雰囲気だった。
「だが実戦演習だけは話しておこうかな、今年は例年通り森に入って魔物と戦ってもらう。もちろん安全対策は万全だが…何事もイレギュラーはある、緊張感を持って臨んでくれ」
「先生、どのレベルの魔物が出るんですか?」
先程の男子生徒が手を上げた。
「基本的には最低レベル1で最高はレベル3の予定だ。ただし、君たちの実力を見て調整する場合もある。
オンドルフ先生の視線が一瞬フィルに向いた。
「特に実力のある生徒には、それに見合った課題を用意するつもりだ」
(別に強い奴が来てくれた方が助かるしいいか)
ゴーンっと大きな鐘が鳴る
「お、そろそろ入学式だな、じゃあ全員講堂に行くぞ」
並んで講堂に向かう、その間トニカに質問攻めされて多少疲れたのは内緒だ。
講堂に入るとすでにに三年生は席についてる、二年も他クラス含め着々と座り後は一年を待つのみ。
その時壇上に校長が現れ不思議な道具を使い喋った。
「一年生の入場です、拍手でのお出迎えお願いします」
わらわらと入ってくる一年生達、緊張している子も多いが…うちのライは大丈夫だろう。
そんなことを考えていたフィルだがふと通り過ぎた一年が目に入った。
(今の闘気に魔力量…あの子か)
この学園に入る前にレクト様から聞いていた。
「そういえばフィル君、今年のノジオンはすごいよ」
「何かあったんです?」
「君が入る時、ファスカは三年だが、実は二年にも四代貴族がいる。そして今年の新入生にも一人いるんだ、つまり全ての学年に四代貴族がいるってことさ」
確かにそれはすごい事だ、つまり俺はその四代貴族とも戦わなければならないってことだけど…ファスカ様より強いってことはないだろう。そして一年か、ライにも教えてあげよ。
「あの子かなぁ明らかに強そうだし」
「ねぇ、今の子ペルシオン家の子だよね?四代貴族の…前見た時より大きいや」
小声でトニカが呟く、やっぱり四代貴族らしい。
(ペルシオン家、冒険者ギルドの経営してる所か、確か魔剣を一つ所有してるって聞いたけど)
そのまま一年生が着席すると、壇上にいた校長がただ一言、
「代表生徒、ファスカ・レオンハートさん、壇上へ」
全員が姿勢を正す、赤髪を揺らし、壇上へ上がる背中を見届ける。彼女が演台に立つと、講堂内がさらに静まり返った。
「生徒会長のファスカ・レオンハートです」
その言葉に生徒達は全員気押された、闘気か魔力か彼女自信の圧か…だがフィルはそれに全く動じず、ただ一点を見つめて。
彼女の胸元には紅蓮の王石が身に付けられていた。
白灼帝 ファスカ・レオンハート
現ノジオン学園最強の女帝であった。
(ファスカ様…遂にここまで来ましたよ)
フィルはただ見据えている、倒すべき敵を。




