29話 ルームメイト
「は?」「へ?」
あまりに予想外過ぎる状況、今までフィルは数多の修羅場を乗り越え並大抵のことには動じない心得があったがこれには困惑も困惑。
対するホープも顔を赤く染めたと思ったら蒼白にもなる、良かった羞恥心はあるらしい。
二人とも動けずにいると、ホープが慌てて手を下ろし、顔を両手で覆った。
「見ないで見ないで見ないで!!」
「ああぁ、ごめん!ごめん!」
何がごめんか全く持ってわからないが謝る。とりあえず謝っとけはいいはトットの教え。
フィルは慌てて目を逸らした。
「うわああああ!恥ずかしい!なんで今入ってくるんだよ!」
「いやここなんだもん、俺の部屋」
ホープはその場でしゃがみ込み、頭を抱えてしまった。
「ん?俺の部屋?あ!もしかして新しいルームメイトのフィル君!?」
「気づいてなかったのか…あぁ、そう。俺がフィルだ、よろしくホープ君」
さっきはただの事故。何事もなかったかの様に手を差し出す。
「えぇ、よく今の見て僕と握手する気になれるね…」
少し引いた様に手を出すホープにフィルは青筋を立てる。
「せっかくスルーしたんだから反応するなよ!今何も無かったかのように出来てたじゃん!」
「えー?出来てたかなぁ、無理矢理だった気がするけど」
「無理矢理スルーしたんだよ!意味わかんなすぎて、なんだよヒーロー参上って!」
「あぁ言ったね!言っちゃったね!やだやだ!聞きたくない!あれなし、あれなし!」
駄々を捏ねる子供が如く騒ぐホープ、フィルはもう訳がわからなかった。そしてそれから同じ様なやり取りを繰り返し…
「はぁはぁ、まぁもういいや…仕切り直してもう一度。俺はフィル、編入で入ってきた、よろしくねホープ君」
「君つけなくていいよ、僕もつけないからさ。よろしくねフィル、噂は聞いたよ、凄い強いんでしょ?」
(噂?俺の噂が広がっているのか?どんなのだろう?)
「みんな興味津々なんだよフィルに、ほらだって編入で入ってくる人なんて中々いないからさ。それに倒したんでしょ?レベル4を」
「あぁ、噂ってそれか、うん倒したよレベル4」
レベル4、都市が危険に脅かされ討伐隊が組まれるレベル。それをフィルは半年前に単独討伐している。
だがフィル的にはただの通過点、ファスカはすでに5を倒したと聞いて尚更その意識が高まっていた。
「レベル4を単独討伐なんて凄いよ、いや本当に言葉にできないぐらい凄い快挙なんだ!僕は戦闘が苦手でさ、レベル2も一人で倒せるか怪しいよ…」
だからこんなにホープが尊敬の眼差しで見られることに違和感があった。
「ホープは戦闘苦手なんだ?じゃあなんでこの学校に?」
ノジオン学園はあらゆる方面で王国最高峰だが若干戦闘に傾倒している節がある、もし戦闘が苦手なら別の専門性が高いところなどに入った方がいいだろう。
それを聞かれたホープは恥ずかしそうに答えた。
「実はさ、ヒーローに憧れてて…ここなら目指せるかなって思ったんだ」
「ヒーロー?英雄みたいな?」
「いや、英雄もかっこいいんだけど…正義の味方みたいな」
「確かにかっこいいけど…なんで目指し始めたんだ?ただかっこいいってだけじゃないんだろ?」
はにかみ、こちらの目を覗きながらホープは話す。
「すっごい昔、まだ子供の頃、当時英雄譚を読み漁ってたんだ。それで気になったんだ、正義ってなんだろって。親に聞いても分かんなくてずっと考えてた、そんなある日でかい狼の魔物に襲われたんだ。家族で馬車に乗ってたら突然ね、それはもう大きくて、怖かった」
力のない子供が魔物に襲われる、どれだけ怖かったろうか想像がつく。
「横を見たらお母さんの周りに血溜まりが出来てて、お父さんは震えてた。今まで厳しいお父さんだったから、驚いたたよ。僕は腰が抜けて逃げようととしても逃げれなかった」
「心臓はバクバクで涙が出てきた、漠然と死ぬって本能で分かったのかもしれない。お父さんは必死に何かを言おうとしてるけど何も言えなくて、お母さんはぴくりとも動かない」
「そんなことしてるうちに魔物が僕の前まできちゃって、鼻息がかかって生臭い匂いがした。もうダメだと思った時に、空から誰かが降ってきたんだ」
ホープの目が輝いた。
「大丈夫かい?後は任せてくれ」
極彩色の髪を靡かせ魔物の前にその人は立った。
「そして気づいたら魔物は消えていたんだよ!何が起きたのか分かってない僕を置いてそのの人はお母さんを治療してくれて、僕らを安全な場所まで送ってくれたんだ。この時かな、生き方が決まった気がした」
「生き方か、それで正義の味方?」
「うん、まだ正義ってのはよく分かってないけど、あの人みたいに誰かを助けられる様になりたいんだ…憧れだから」
ホープの真剣な表情を見て、フィルは何とも言えない気持ちになった。
(助けられるようにか…)
「…そっか、一緒に頑張ろうな」
「ありがとうねフィル。僕頑張るよ」
フィルはホープの純粋な想いに心を打たれた。そして明確な目標があるもの同士仲良くなれる、そんな気がした。
「あぁ、そういえば、さっきの『ヒーロー参上』って…」
「あああああ!忘れて!お願いだから忘れて!」
ホープは再び顔を真っ赤にして手をバタバタと振った。
「いやいいじゃん、ヒーロー、かっこいいよ。それで誰かを助けられるならそれが一番かっこいい」
「…そう思う?」
ホープは問いかけた。
「うん、ヒーロー名なんだっけ、エスペランサ?どんな意味なんだ?」
「えぇと、エスペランサってのは希望って意味なんだ。誰かの希望になれたらなぁみたいなさ…」
「いいね、ホープが正義を見つけられるよう応援するよ」
ホープは意外そうな表情を見せたあと…今日一番の笑顔を見せた。
「そうだ、もうこんな時間か。夜ご飯作らないと」
窓の外を見ると、オレンジ色の夕日が寮の向こうに沈みかけていた。
「あ、僕が作るよ!料理は得意なんだ」
ホープが立ち上がって袖をまくる。さっきまでの恥ずかしがっている様子とは打って変わって、どこか自信ありげだ。
「うーん、材料もないしお願いしよかな。と言うか材料どうするの?」
「大体は街にその日の分を買い出ししとくんだ、十時より前なら外出ていいからね」
「成る程ね、じゃあ俺も手伝おっかな」
フィルは口笛を吹きながらキッチンへ向かう。小さな共用キッチンには必要最低限の調理器具と食器が揃っている。
「今日は何作ろうか?」
ホープが袋を開けて中身を確認する。
「パスタにしよっかな」
「おぉ、いいね。簡単だしな」
そのままテキパキ分担して作り上げ…
「お疲れ様、ホープ」
「フィルもお疲れ様!」
二人は笑顔でハイタッチを交わした。
できあがったカルボナーラとサラダを皿に盛りつけて、テーブルに並べる。
「いただきます」
「いただきます」
一口食べて、フィルの目が輝いた。
「うまい!ホープ上手いよこれ」
「本当?よかった」
ホープも嬉しそうに微笑む。
「これからよろしくね、ホープ」
フィルがグラスを持ち上げる。
「こちらこそ、よろしくフィル」
ホープも嬉しそうにグラスを合わせた。
乾杯の音が小さなキッチンに響いて、二人の新しい生活がスタートした。




