27話 旅立ちの日
何度目の朝だろう、あの日からパトロールをしなくなって、代わりに剣を振っていた。朝日が顔を出す前から剣を振り、皆が起きるまでずっと反復し続けた。来る日も来る日も剣を振った。雨が降ろうが雷がこようがずっと技を練習し続けた。
ただ必要だと思ったから、自分に足りない力を補えるから。信じて、強くなることを信じて柄が摩耗するほどに振った。いつからか魔獣に邪魔されなくなった、いつからか雨の滴る音も鳥の囀りも聞こえなくなった。ただ剣を振った…
「ふぅ…今日か」
フィルは今日、この思い出の地と別れを告げる。
ラロside
最初にフィルに抱いた印象はただ良い子。子供の頃から英才教育を受けていれば扱えるレベルの剣技、それ自体は凄いことなのは分かっていた。だけどダグラス様から聞いたフィルの目標は王になること…
(不可能だな…この子は王になれない)
その認識が変わることはないと思っていた、凡人は何処までも凡人で、どれだけ他と違うことをしても奇をてらうことにしかならない。
剣を見れば才能があるかないかなんて分かる、彼の剣には才能はあった。だがその程度のものなら皆持ち得るものだ。
私の言うことは基本的に聞き入れ、自分に合わないと思ったら反論する態度。
努力という一言で片付けて良いのかわからないほどに真剣に剣と向き合う姿勢。そして無属性に固有魔法、特殊体質まで…
これだけの物を持っても私はフィルは王になれない、そう思った。だから言おうとした。
「フィル、あなたでは王になれない」
このままではいつか打ちのめされる、天稟を持った者に。このままではいつか殺されてしまう、立ち塞がるであろう壁に。
そう思っていたのにこの一言を言うことは私にできなかった。それはフィルが持っているであろう秘密を考慮したのか、フィルの今までの努力を否定したくないと思ったからか…あるいは…
フィルは鈍い子ではない…自分が王になれると心の底から信じるなんてできないだろう。
いや、何処かで自分は王になれないと気づいていたのかもしれない。なのに彼は前へ走った。
自分は間違っていた…そう思った時はいつだろう。ファスカ様を倒した時、自分の目を疑った。あのファスカ様をフィルが倒す、有り得ないと…そう思っていたのに。
そしてフィルは塵影との戦いで化けた。あの死闘でフィルは遥かに強く上へいった、今までとは比べ物にならないほどの成長速度。
いつのまにかあなたを凡人とは思わなくなった、いや…あなたは死闘という代償を得て資格を得た。王になるための土俵に上がるための資格を…
あなたに出会いもう四年、逞しくなりましたね、フィル。そして今日でお別れ、悲しまないとは言いません、ですが別れの悲しみよりあなたのここまで積み上げてきた全てが報われる時が来たことが嬉しい。
「師匠!」
四年前とは違う、肉体は成長し、闘気の練度は別人。その佇まいからあなたがどれだけ剣に向き合ったか分かる…
「はい、元気ですね。フィル」
「…今日が最後ですから」
あぁそうだ、今日が最後、もう私の剣技…持ち得る全ての知識はフィルに教えた、もう教えることはない。だけど渡せる物ならある。
「フィル、これをあなたに」
ラロが差し出したのは剣だった。その刀身は、まるで水晶を削り出して作られたかのように透明で白く、朝日を浴びて虹色に輝いていた。柄や鍔は光輝く鋼鉄、全体で見た時その剣はまるで一つの宝石から彫り出されたような美しさを湛えている。
「これは…」
フィルの目が見開かれる。刀身に触れてみると、冷たいはずの水晶のような素材なのに、なぜか温かみを感じた。
重さは軽く、手に馴染む感覚も違う。まるで自分の腕の延長のように感じられる。
『セレスティア』と呼ばれています。特別な鉱石から作られており、無属性魔法の効果を底上げします」
剣を手に取ったフィルの闘気が自然と流れ込むと、刀身がほのかに光り始めた。透明だった刃に青白い光が宿り、まるで氷の結晶が内側から輝いているかのようだった。
「師匠…こんな貴重なものを」
「選別ですよ」ラロは微笑んだ。
フィルは剣を胸に抱き、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、師匠。必ず、王になって帰ってきます」
「なれますよ、あなたなら」
朝日が二人の間に差し込み、水晶の剣がひときわ美しく輝いた。別れの時…
▲▽▲▽▲▽▲
ライもフィルも荷造りを進める。互いに一言も発さない、それは感傷に浸っているからだろう。ただこの場所であったことを思いしまう。
「ライ、出ようか」
「そうだな、結構寂しくなるぜ」
そうゆうライだが、顔は何処か割り切っていた。いずれ分かっていた別れが来ただけ、今生の別れというわけではない。レイラ達を取り戻して必ず帰ってくると、ライとフィルは考えていた。
小屋を出ると、ダグラス、ラロにトット、そしてメリアが見送りに来てくれていた。
「二人共、達者でな」
「フィル、ライ。頑張って下さい」
「自信持って行けよ?おめえら強えからよ」
「じゃあな、餓鬼ども、向こうで沢山成長してきな」
「はい!」「おう!」
最後はみんな笑顔だった。
「って師匠も一緒の馬車なんですね」
「まぁ目的地が一緒なので…」
(先程の別れは何だったのか…そう思わざるを得ない)
「というか二人とも学園に合格出来て良かったですね」
「いや本当のそうだよな、フィル兄ぎりだったんだろ?」
そう、今王都に向かっているということは受かったのだ。ライは一年生で正規に合格したが俺は二年からの編入、編入試験は一般より難しく実技で満点取らねば危ない所だった。
本当は一年先に俺は学園に入るはずだったが十分に力をつける為一年遅らせた。レイラ達を助ける為に四年もの準備をした…必ず王になる。必ず…
▲▽▲▽▲▽▲
馬車は石畳の道を軋ませながら進んでいた。窓から見える景色は徐々に変わっていく。緑豊かな田園風景から、次第に建物が増え、人の行き交いも多くなってきた。
「王都についたか…」
「フィルの声には緊張が混じっていた。4年間の修行を経て、ついにここまで来た。
レイラたちを救うための第一歩、ノジオン学園への入学。全てはここから始まる。
馬車は城門をくぐり、王都の大通りへと入っていく。道の両側には様々な店が軒を連ね、商人たちの威勢の良い声が響いている。
貴族らしき華やかな服装の人々、冒険者風の装備を身に着けた者たち、学者風の老人まで、まさに王国の中心地らしい多様な人々が行き交っていた。
「あれがノジオン学園です」
ラロが指さした先には、一際目を引く建物群があった。赤い屋根と白い壁の美しい建物が広大な敷地に点在し、中央には時計塔がそびえ立っている。正門には「ノジオン」の文字が刻まれた重厚な門扉があり、その向こうには緑豊かな中庭が見えた。
「王国一の学園…」
フィルが小さく呟く。ここで学ぶ学生たちは皆、将来王国を担う人材となる。貴族の子弟もいれば、実力で入学を勝ち取った平民もいる。そして自分もその一員となるのだ。
馬車が学園の正門前で停まると、他の学生はおらず閑散としてた。それもそのはずで入学式は明日、今日は休校の日だ。
「さぁ、降りましょう」
ラロに促され、フィル、ライ、そしてラロが馬車から降りた。フィルは背中に師匠から譲り受けたセレスティアを背負い、ライはバンダナを巻き直す。
「師匠、本当にありがとうございました」
「フィル、ライ。ここからは君たちだけの道のりです。でも心配はしていません。君たちなら必ずやり遂げられる」
ラロは二人の肩に手を置いた。
「任せて下さい師匠!」
「俺たちなら大丈夫だぜ。必ず王になって、みんなのところに帰るからよ」
二人の決意を聞き、ラロは満足そうに頷いた。
「では、行きなさい。新しい道のりの始まりです」
フィルとライは深く一礼すると、正門へと向かった。門の向こうには、これまでとは全く違う世界が待っている。貴族たちとの競争、より高度な魔法や剣術の学習、そして何より、王になるための試練の数々。
「行くぞ、ライ」
「あぁ、フィル」
二人は固い決意を胸に、ノジオン学園の門をくぐった。朝日に照らされた校舎が、新たな冒険の始まりを告げるように輝いて見えた。これから始まる学園生活で、フィルは真の王への道を歩んでいく。レイラたちを救うその日まで、決して歩みを止めることはない。




