幕間 レイラ
頭がぼんやりとして、まぶたが重い。意識が徐々に戻ってくるにつれて、レイラは自分が柔らかな絨毯の上に横たわっていることに気づいた。
(ここは…どこ?)
ゆっくりと体を起こすと、周囲には豪華な装飾が施された部屋が広がっていた。
金糸で刺繍された深紅のカーテン、磨き上げられた大理石の床、天井には美しいシャンデリアが煌めいている。
まるで貴族の邸宅の一室のような豪華さだったが、窓は一つもなく、重厚な扉には内側に取っ手が見当たらない。
「みんな……そうだ、私は」
突然変な男が来て、レトスとルーチェが気絶させられて…それで…
(私はなんで無事なの?奴らはなに?ドクトリン家の追手?それとも…あいつら…?)
あまりにも状況判断する為の材料が少なすぎる、そう理解しながらもレイラは思考を巡らせていた。
辺りを少し散策すれば、この部屋も、結局は逃げられない牢獄に過ぎないのだと悟る。
「おや、起きましたか」
すぐさま振り向く、そこに立っていたのは自分達をここに連れ去ったであろう男だった。
身長は高く細身、眼鏡の奥に見える目はこちらを値踏みする様な気持ちの悪い目、服は白緑色の髪と合い高級なものと一目で分かる。
豪華な部屋の雰囲気に溶け込むような佇まいだった。
「皆んなはどこ?」
「意外ですね、恐怖で喋れないと思ってたんですが…フィル君といい勇気がありますね」
(フィルを知ってる?会ったの?じゃあフィルもここに?)
「残念ながらフィル君はここに居ませんよ、あぁ残念ではありませんか」
レイラの心を完全に見透かした様に男は話す。レイラはただ黙ることしかできない。
「ふむ、色々混乱してるでしょうし少しお話ししましょうか。まず私の名前はエーヴェルと申します、よろしくお願いしますレイラくん」
男は丁寧に自己紹介をした、その余裕な態度は驕りか演技か、名前は偽名か本名か。
エーヴェルはまるで日常会話をするかのように、淡々と続ける。欲しいものがあるからフィルを利用すると決めたこと、そのためにレイラ達を人質にしたこと。
レイラが疑問に思っていた殆どを答えた。それを聞いたレイラは震えた、怒りと恐怖が心をせめぎ合っている。
「人質って…そんなことのために…孤児院を燃やして、みんなを攫って…フィルに…」
今にでも殴りかかりたかった、でもそれすら出来ない自分の無力さに、嫌でしょうがなくなる。
「必要な手段だったので、彼らが本気で動くには、大切な人を人質に取るのが一番効果的ですからね」
「ひどい…ひどすぎる!私たちは、フィルもライもあなたの道具じゃない!」
「そうですね、そんなこと言われなくても分かりますよ」
冷酷な返答に、言葉を失った。この男には、人を思いやる心など微塵もないのだと悟る。
「…フィルとライの代わりに私にしてよ…」
「悪いですが誰でもというわけではないんですよ、フィル君を選んだのにはそれなりの理由があります。ライ君はまぁ…フィル君が不憫だからってだけですし」
(どの口が…)
「じゃあなに、フィルとライが、その王石を持ってきたら、私たちを解放してくれるの?」
「ええ、約束します。まぁ…」
エーヴェルの表情がより一層暗くなる。
「彼らが王石を手に入れるには、安い言い方をすれば命がけの試練を乗り越えなければなりません。生きて戻ってこられる保証はないですね」
「そんな…」
心臓が早鐘を打つ。フィルとライが危険な目に遭うことを想像すると、胸が張り裂けそうになった。
「まぁそう悲観しないで下さい、フィル君達が王石を手に入れるまで貴方達にはちゃんと生きてもらわなくちゃいけません。だから孤児院にいた時よりはいい暮らしをさせてあげますよ」
エーヴェルは感情のない声でそう告げると、踵を返した。
「しばらくしたら食事にしましょう、レトス君達と一緒に食べさせてあげます。隣の部屋で休んでいますから」
足音が遠ざかっていく。重い扉が閉まる音が響いた。残されたレイラは、逃げ場のない部屋で呟いた。
「フィル…ライ…お願い、逃げて…死なないで…」
シャンデリアの光に照らされた牢獄の中で、レイラは祈るように二人の名前を呟き続けた。
愛する人たちが無事に戻ってくることを願って。
そして心の奥底では分かっていた。この男は約束を守らない。たとえフィルとライが王石を持ち帰っても、きっと…
(どうすればいいの…誰か…助けて…)
絶望的な状況の中で、レイラは震える手で自分の胸を抱きしめた。体は恐怖に震え続け、悲しみに暮れるしかない。
それはまるで黄金の檻に閉じ込められた小鳥のように、矮小で弱い存在だった。




