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26話 影VS光

「やめろよ、フィル。壊れた右腕、壊れかけの剣、もうない魔力。俺に勝てる要素がないだろ、だから諦めろって」


 目の前の敵がそんなことを言った、あまりにも右腕が痛くて、出血から意識が朦朧としてるけど…確かに聞こえた。


 諦めろ…って言ったな、こいつ。


 意識は朧げ、剣も…これじゃあ、いつ壊れるかわからない。そしてそんな剣すら持てないこの腕…分かってる。


 負けだ、もうきっと負けてるんだろうな


 側から見れば…きっと…決着は…もう…


「諦めろ…か、諦めるね…」


 それでも諦められない理由がある、だからフィルは立つ、理由のために立つ。


 オズはただその姿に敬意を払い、殺す。


「分かったよフィル、じゃあな」


 自分目掛けて高速の矢が飛んでくる。


 もはやあるかないかの意識、その中で見たのは走馬灯…


 ではない、ただの考え事だった


 それは誰にも言えぬ悩み


 ラロにもダグラスにも…ライにも言えなかった一つの苦悩


(ずっと…ずっと考えてたことがある)


 もしだ、もし…もし俺が戦いの中で死んだら?


 道半ばで殺されたら、レイラたちはどうなるんだろう?


 王石ロードストーンを手に入れられず、死んだら…あの男はレイラ達に何をする?


 無事に返す?


 そんなわけはない、そんなことをするよりも殺す方が遥かに楽だから。


 ライはどうなる?


 俺の代わりにされるかもしれない、そしたらあいつは一人だ。


 ルーチェは?


 まだ小さいのに…これから今まで辛かった分、たくさん幸せにならなくちゃいけないのに…


 レトスは?


 一番頑張ってきたあいつが…報われないままで良いわけがない。


 レイラ…レイラはどうだ?


 幸せにするって俺が誓ったのに…レイラの親は俺のせいで死んだ。あの日から普通の生活が送れなくなったレイラを幸せにするって…護るって…


 自分が死ぬのが怖い、そのせいで大切な人が死ぬのが怖くてしょうがない。だからこの一年死にもの狂いで頑張った。


 剣は嫌いになった


 何も守れない自分の剣が嫌だ。ダグ爺や師匠の様に剣が扱えたら…


 魔法が嫌いになった


 誰かを救えない、自分だけが強くなる魔法が嫌だ。ライやファスカ様みたいな魔法があれば…


 自分が嫌いになった


 一向に強くならない自分。師匠の足元にも及ばない、レクト様の背中すら見えない、ファスカ様が魔法を使えば一瞬で負ける。


 でも、でもさ


 こんな自分の背中を押してくれる人がいる


 ダグ爺にはたくさんの剣術も生きていく為に必要な知識を教えてもらった、師匠やトットさんには強くなる術に心構え、メリ婆やレクト様には魔法を、ライやファスカ様には対人知識を。


 ルーチェにレトス、レイラには力を…


 こんなに多くの人がいて、負けたら大切な人が不幸になる


 なんだ


 なんだよ


 負けていいわけないじゃないか、負けて良いはずがないんだ


 死んでも勝つ、必ず倒す


 何が右腕が使えないだ、左腕がある。魔力量だって気絶するまで搾り出せ。意識はある、なら戦える。


 まだ俺は戦えるよ、戦えるんだ。


 だから立つ。


 絶対に立つ。


 動け体、脳よ回転しろ。


 負けていいわけないんだから


 絶対に


 絶対に…


「勝つよ」




 ▲▽▲▽▲▽▲




 ドンっ!と矢が着弾し、土埃が舞う。


「じゃあな、フィル。お前のことは忘れないよ、多分な」


 敵を殺しただけの筈なのにどこか虚しい帰路。勘違いと一蹴するにもできない…


(後悔してるのか?俺が?いや?そんなわけない、俺は…)


「おい、何処行くんだ?」


 去り際、後ろから聞こえるはずのない声がした。


 もう殺したはずの好敵手ライバル、フィルの声が…


「…なんで生きてやがる?死んだはずだろ?」


「分かんないな、どうやって避けたかも憶えてない。でもどうでもいいよな、そんなこと」


 どうでもいいはずがなかった、あの際、フィルは避けたのだ。


 あの高速の矢をどうやって避けた?なんで立ってる?どこからそんな力が?


 色々聞きたいことがあった、それでもそれらを全て飲み込み、たった一言だけ、オズは言った。


「あぁどうでもいいな!」


「決着つけようか」「当たり前だ!」


 今一度、死闘が始まる。




 ▲▽▲▽▲▽▲




(最高だ、フィル!だけどテメェの傷が治ったわけでも剣が戻ったわけでもねぇよなぁ、どうするつもりだ?)


 言われずともフィルは理解していた、だからこそここで切る。最強の魔法を


 無属性 上級 「無装ハインズ・ギアス


 白き盾が周囲に纏われる、汚れを知らない初雪の様に純白に輝く。


「無属性の上級魔法…使えたのか!?」


「あぁ、まだ未完成だから四肢にしか纏えないけど…強化幅は無装セル・ギアスの比じゃない、よ!」


 上級技 「白突びゃくとつ


 驚いて隙を晒したオズを仕留める為の高速の突撃、白い槍とかしたフィルに合わせてオズも放つ。


「ショット!!」


 円環から3つの球が合わさる、放たれた矢は先刻の数倍…それは矢ではなくもはや漆黒の槍。白き槍とか黒き槍が交差する。


(合わせることもできるのか!だけど…このまま!)


 直撃、黒き槍は壊れ、フィルは多少の傷が増えたのみ。


 だが距離は取られた。


(円環の黒玉は最初が十二個…さっきの三発で合計五個消費してる。あと七個…無装セル・ギアスを使いながら戦ったらあと持って1分、先に倒す)


 無鎧のおかげで多少の無理は可能、剣もまだ持つ。ならあとは気概だけ!距離を取られようが高速で詰め寄るフィル、対するオズは唱えた。


 闇魔法 上級 「ハインズ絶剣ソルド・アポス


「逃げて戦うつもりはねぇよ!お前の土俵で戦ってやる!」


「ありがとう」


 地面を抉りながら下から放つ絶剣、フィルもそれに合わせて大振りの白剣。


 剣音が響き渡り、白き光が一歩上へ行く。フィルの剣がオズの身体を捉え始め、無数の切り傷がオズに増えていく。


「ショット!ショット!ショットっっ!!」


 押され気味のオズがそれでも致命傷を回避できているのは技を使いフィルの機会を奪っているから、だがそれは黒玉を消費しなければならない…十二個あった黒玉はもう数少なく。オズの魔力量も段々と底が見ててくる。


 黒玉を使用して回避、この近距離戦で俯瞰していなければできない芸当。オズは楽しんでいた、ただこの刹那の死闘を味わっていた。


 そして限界が近づいてるのはオズだけではない、フィルの無装ハインズ・ギアスは完全な制御が出来ておらず諸刃の剣だった。


 代償に身体は自壊し続け、視界は重なり、身体は軽いはずなのに重くなる。


 だがそれでも駆ける。何よりも早く地を壁を天を、踏み込み蹴り走り抜ける。


(黒玉はあと一つ!いける!)


 お互いが限界の戦い、先に迎えるのは…


 パキンっ


「あ…」


 どちらの声だったろうか、それは分からないが、ただ一つの事実があった。


(剣が折れた…剣が…)


 フィルの剣が折れた、この戦いに耐えきれず壊れた。今オズとの距離は数m、オズにはまだあの矢がある、不利!


(冷静になれ、冷静に…でも時間がない)


 オズは既に構えている。最後の黒玉が漆黒の光を放つ。あれを放たれたら終わり、回避する術がない。


(無装ハインズ・ギアスの時間制限もあと十数秒)


 魔法は無装ハインズ・ギアスを解除しなければ使えない。解除した瞬間、強化は切れ、今度こそ動けなくなる。


(投擲武器は…折れた剣の破片?いや、意味がない)


 絶対に勝たなければいけないと焦れば焦るほど、冷静でいられなくなる。


 現実は冷酷、手段がない、勝つ方法が見つからない。


「ショット!!」


 オズの宣告が響いた。


(何か…何か見落としてることはないか?俺にできることは…)


 ふと、一つの言葉が降ってきた。確か、ファスカ様が言っていた…


「フィルの固有魔法がどんなのかは分からないけど、一つ言えるのは使い勝手なんてあんまり関係ないわよ。戦いでは意表をつける手札があるってだけで大きいんだから」


 意表


 はなから選択肢にもなかった、魔力は多く消費され、事前に準備すれば使うまでもない固有魔法。


 だけど今、この状況なら…


 矢が飛んだ、フィル目掛けて一直線、なんの小細工もなし。


 ただスピードを上げ範囲を絞った矢。オズは勝利を確信した。


(もうフィルに取れる手段はない!俺の勝ちだ!)


 いかなる攻撃が来てもオズは対処できると考えていた、剣がこようが魔法がこようが苦し紛れで石ころでも飛ばしてこようが全て対処可能だと、残りの魔力量に体力、そして怪我を考え見ても勝てると…


 そんな慢心、そんな油断は…


 固有魔法 創造クリエイト 「鉄の盾」


 突如フィルの前に現れた盾によって潰されることになる。





 小さな盾を目の前に出す、瞬間、矢に当たり砕け散るが、矢の軌道は大きくズレて遥か遠方へ。


(今しかない!無装ハインズ・ギアスの効果が続いてる内に詰めろ!)


 ボロボロのフィル、今日一番の速度でオズの前へ。隙は一瞬、盾が現れ矢は弾かれた、急に詰められたオズは困惑している!その隙を!


 フィルのここまでの動きは完璧だった、ファスカですら意表を突かれるであろう流れ。


 だが此度の相手は、理外の怪物。


「舐めるなぁ!」


 どれだけ意表を疲れようがすぐに立て直す、圧倒的な戦闘経験からなせる技。ハインズ絶剣ソルド・アポスでフィルを迎え撃つ。


 フィルは生腰、オズの剣がフィルを殺す方が早い!


 固有魔法 創造クリエイト 「鉄の短剣」


 宙に舞う短剣、それをそのまま掴み狙うはオズの心臓。


 刹那の斬り合い


 勝負を制した勝者は…








「…やるなぁ、俺の負けだ。フィ…ル」


 心臓に突き刺さる短剣、致命傷。オズの剣と円環が崩れ落ちる。


「おれ…勝ったのか?」


「あぁ、お前の勝ちだよ、ったく、んな魔法あんなら早く使えよ…やられたぜ。でもまぁ」


 楽しかったと、そう言ってオズはその場に倒れ込む。フィルは油断しない、魔法の効果が切れ、立つことすらままならないが決してオズから目を逸らしはしなかった。


 だからだろうか、一つの違和感が目についた。


(…?なんでこいつ出血してないんだ?心臓を刺したんだぞ?いや、それどころか…)


 今までの負っていたであろう怪我すらない、自分は致命的な見逃しをしたのかと頭が真っ白になる。


(もう一度戦うなんて無理だぞ、呼吸すら、苦しい…のに)


 そんなフィルを何処か達観したような目で見るオズ、その身体は無傷のように見えたが違った。


(溶け…て…)


「気づいたか?今の俺は影で作った分身なんだよ、本体はお前が鉄剣で刺そうとした瞬間変わった。危なかったよ…ほんとにな」


「そうか、それで俺を殺すか?」


「言ったろ、お前の勝ちだ、もう俺には魔力もない、逃げなかったら騎士に見つかる…敗者に出来るのは逃げるだけだ」


 段々とオズの原型が崩れてく、まるで影に飲み込まれるように、そんなオズにただ一言だけの思いをぶつける。


「引き分けだ!この戦いは引き分けだ。俺はお前に止めをさせないし、お前もさせない。だから…今日は引き分けだ」


「…そうか、じゃあ次だ、次こそ必ず決着をつけようぜ。じゃあな好敵手、お前最高だった…よ…」


 最後に満足そうに言い残して、オズは闇に消え去った。


「終わった…終わった…」


(勝てなかった、引き分けなんて言ったけど結局は勝ててない…あぁ、悔しいなぁ、こんなに悔しいなんて…)


 どうしても勝利を譲られたという思いがフィルを熱くする。身体は動かないが闘志はまだ止むことを知らない、だがそんなフィルにも限界が来る。


(探さなくちゃ…他の人達を、早く…)


 願いとは裏腹に立ち上がることすらできず、今は地面の冷たさすら心地よく、そのまま寝ていたい気分だった。


 やがて瞼は重く、思考もままらなくなり、そして…


「フィル!大丈夫ですかフィル!」


(…し…しょう…)


 何処か遠くから聞こえた自分を心配する声に安心しながらフィルは気絶した。




 ▲▽▲▽▲▽▲




 フィルは不思議な感覚に包まれていた。痛みも疲労も、全てが遠い記憶のように薄れていく。気がつくと、彼は温かな光に包まれた空間にいた。


 そこは現実とも幻想とも違う、安らぎに満ちた場所。


「ふふ…」


 優しい声が聞こえた。振り返ろうとするが、何故か身体も首も満足に動かない。すると、美しい銀髪の女性が俺の前に現れた。


 月光のように輝く髪、慈愛に満ちた瞳。彼女の存在そのものが、この空間を神聖なものにしているようだった。


(これは…?)


 女性は優しくフィルを腕に抱き上げた。その腕の中で、フィルは今まで感じたことのない安らぎを覚えた。


 戦いの記憶も、痛みも、不安も、全てが存在しない純粋な平穏。


「よしよし…」


 女性の声は、子守唄のように優しく響いた。彼女はフィルを胸に抱き、ゆっくりと揺らし始める。


「ふふ、寝ぼけてるの?」


 フィルは言葉を発することはできないが、女性の温もりを全身で感じていた。


「こんなに可愛いのに、いつかはあなたは外に出て、たくさんの人と出会うなんて…すごい先のことなのに寂しくなっちゃう」


 何処か幼なげな雰囲気を纏った女性はにこやかに微笑む。


「外には危険がいっぱいなのよ?旅に出ればたくさんの辛いことが待ってることかもしれない、悲しさに満ちるかもしれない。でも…」


 女性は、フィルの小さな頬を指で優しく撫でた。


「きっとあなたなら大丈夫、あなたは強い子…でももし悲しさに包まれたのならその時は思い出してほしい、あなたを大切に思う人たちいることを。その思いが人を強くすることを…たくさん冒険して、いろんな人に会って、そうすればきっと、お父さんの様にかっこいい人になれるわ」


(お父さん…?この記憶は…俺の?)


「生まれてきてくれて、ありがとう、フィル」


 その言葉が響いた瞬間、フィルの小さな手が、女性の指を握った。


 か細い指だが、確かな力で。それに少し驚いた顔をしながら女性は、ゆっくりと歩き始めた。


 光の中を、まるで永遠の時を過ごすように。


「私の言葉が分かるの!?あの人に教えなくちゃ、私達の子供はちゃんと育ってるって」


 女性は、フィルの額に優しくキスをした。


「あら、少しおねむかしら」


 光が次第に強くなり、女性の姿がゆっくりと薄れていく。しかし、彼女の腕の温もりは、まだフィルを包んでいた。


「おやすみなさい、フィル。本当に生まれきてくれてありがとう、必ず幸せにするからね」


 最後の言葉とともに、女性の姿は完全に光の中に消えていった。やがて意識は戻っていく。胸の奥に、言葉では表せない無償の愛を抱いて。



 ▲▽▲▽▲▽▲



 フィルの意識がゆっくりと戻ってきた。まず感じたのは、清潔な白いシーツの感触と、どこか薬品の匂いが漂う空気だった。


「…ここは?」


 かすれた声で、フィルは重い瞼を開けた。視界に映ったのは、見慣れない白い天井。左右を見回すと、整然と並んだベッドと、窓から差し込む柔らかな陽光が部屋を照らしていた。


「気づきましたか」


 聞き慣れた声に振り返ると、ベッドの横の椅子に師匠が座っていた。


「師匠…?俺は…」


「ここは病院、もう三日もフィルは眠っていました」


 三日。その言葉にフィルは驚かざるを得なかったが、それに勝る安堵がフィルをの心を占めていた。


(生きて帰って来れた、無事に生きて…良かった)


 思い返すはオズとの死闘、あの戦いの間どれだけ死を間近に感じたか。三日休んだ今でも落ち着くことはない。


 そんなフィルを見てラロは…


「色々聞きたいことがあります、が今はいいです。フィルよくぞ無事で帰ってきました」


 満足げな笑みを見せたラロ、その心はただ弟子が誇らしいか、それとも弟子の無事を喜んでいるのか…一年一緒にいたフィルでもそれは分からなかった。


(でも心配をいてくれていたことは分かりますよ、師匠)


「ただいまです、師匠」


「はい、おかえりなさい、フィル」


 激動の王都生活に平穏が訪れた瞬間だった。



 第一章終幕 次回 入学編

あとがき


いつもご覧いただき、誠にありがとうございます。心より感謝申し上げます。


さて本題に入らせていただきますが、今まで私は毎日投稿させていただいておりましたが、次回の幕間を数話投稿した後の二章からは、三日に一度の投稿とさせていただきます。申し訳ございません。なるべく早く投稿できますよう尽力いたしますので、何卒ご容赦ください。

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