25話 影従えし者
いきなり目の前に現れた黒き矢、当たれば即死。絶対絶命とも言える状況でフィルは…
(剣!)
脊髄反射とも言える速度で剣を前に出し弾く。奇跡ではない、しっかりとフィルは見て反応した。
(ハァハァ、焦った、あと少しでも遅れれば死んでた!…そして分かった、こいつは敵だ、甘かった、塵影じゃなくてもいるよな悪い奴らは…もう油断しない!)
少し掠った部分から流血するが気にしない、あくまでに冷静に剣を握り締め闘気を練るフィルに対し男は迫る。
闇魔法 上級 「闇の鉤爪」
(自分の身の丈ほどの大きさの鉤爪、しかも両手…くる!)
爪を振りかぶりながらフィルの元へ、爪に合わせ剣で弾く。鉄と鉄がぶつかる時になるような音が二人の間で反響する。
(この爪、硬さは鋼鉄並み。当たったら終わり)
フィルは冷静に分析しながら激しい攻撃を防ぎ切る。自分の元に攻撃が届く前に弾き、撃ち落とし、流す。
今までのフィルにはない動き、この動きをフィルはファスカとの戦いで覚えていた。
ファスカとの戦い、自分よりも身体能力も高く、魔力量も多い敵と真っ向から戦えばジリ貧になり最終的にには負ける。それに気づいたフィルは一つの型を編み出した。
それが魔法を使わず、相手の手札を切らせることに集中した待ちの構え。自分は余計な動きをせず体力を温存し、敵は魔力を消費し続ける。
だがそれでも穴はある、ほんの少しの傷が増えていく。だが何度攻撃しても防がれ、致命傷に至らないことに痺れを切らせた男は使った。
「拡大」
鉤爪はより鋭くデカく、フィルを覆い尽くすほどの鉤爪での上からの切り裂き。
(防ぎきれない!)
無属性 中級 「無衣」
フィルはすぐさま無装を展開、そして技を解禁し構え打つ。
上級技 「白突」
高速の剣先は鉤爪の間を縫うように、男の頭へ。男は身体を捻り突きを回避しながらも鉤爪でフィルを吹き飛ばす。
これまでの攻防…吹き飛ばされたフィルは
突きを避けきれず頬から流血する男は
互いに理解した。実力が拮抗していることに。
男は鉤爪を解除し血を拭く、汚れた手を見ながら男は嗤う。
「ははっ、やるな結構。剣ねぇ、俺も使っちゃお」
闇魔法 上級 「闇の絶剣」
魔法を唱えた瞬間、男の右手に黒く濁った剣が錬成される。その間に体制を整えたフィルは焦りを憶える。
(剣の錬成…鉤爪に剣、作れないものないんじゃないか?それに魔力量も相当多いよな、単騎決戦の方がいいか?)
無衣を解除したフィルの元へ男は進む、剣を握りしめフィルの正面に、その間もう1mあるかないかという絶妙な間合い。フィルの剣技を目の当たりにして、その間合いに入ってなお、男は余裕の笑みを隠さない。
「こんなもんでいいんかな、よし。あと一歩で間合いだな」
「そうだね」
「じゃあ行くぜ?」
男は薙ぎ払いを選択、それを見てフィルも同じ技を使用。結果、男に鮮血が舞う。
(剣技なら負けない、足捌きでも分かる。こいつは素人)
雑だが力強い剣撃がフィルを襲う。だがそれを完璧に捌き切る。剣術においてフィルは男の数段上にいた、だが決め手まではいかない。
寸の所で避けられ防がれる。数十回にも及ぶ打ち合い、半径1mの戦場。お互いの呼吸音すら聞こえそうなこの戦場で二人の勢いは増す。
だが…均衡はすぐに崩れる、男の焦りからきたであろう力任せの横振り、これをフィルは最小限の動きで避け、そのまま最初の型へと移行。
「白閃」
綺麗な剣筋、それは正確に男の首まで誘われる。そう、まるで誘われている様に…
「避けれるか?拡大」
男が敢えて作った隙、唱えた瞬間、剣先が伸びる。伸びた先にはフィルの首。
(やられた!これなら俺の剣よりあっちの方が速い…)
限界まで稼働する思考、最適解を模索する。
(剣で防ぐは間に合わない、魔法も無理、避けれるか?だけど隙を晒す…どうする?どうすれば…あ)
模索し続けた先、ふと最適解は降ってきた。その答えが出たそばから身体が反応する。
フィルが取った行動、それは…
「あ?剣を…」
男が見たのは剣を離すフィルの姿、だがそれは愚策と言わざるを得ない行動。
(剣がなければお前は終わりだろ、何して)
瞬間、フィルの姿がブレ……男の視界からフィルが消える。
「…?カハっ!」
突如腹部に激痛が生えた。視界を下に向けると超低空姿勢から蹴りを放つフィルの姿が。
その勢いで先刻のフィルの様に吹き飛ぶ男、フィルその間に息を整え想起する。
(助かった…ライから教えてもらったことが役に立った)
二人で訓練している時、ふとライに聞かれた。
「フィル兄ってよぉ、剣が無くなったらやばいんじゃねぇの?」
確かになと思った、もし剣を飛ばされたり、消されたりしたら自分に出来ることは…
そう考え込んでいるととライが教えてくれると言ってくれた。
「もし剣を弾かれたらそれを取り返す時間稼ぎがしたいよな、なら蹴りだぜ」
難しい蹴りでもなく、それでいて強力な蹴り。ライが教えてくれたそれは片方の足を軸足に半回転して放つ…俗に言う後ろ蹴りだった。
(ぶっつけ本番、思ったよりも上手くいったな)
思った以上の結果、剣を拾い男を見据える。男の表情からは余裕は消え、少し苦しさを感じる。
「効いたぁなぁ…いい蹴りだよ。ほんっと」
意識外からの急所への蹴り、フィルの想像よりもダメージは深刻。
「なぁお前の名前は?俺はオズだ」
突然の自己紹介、時間稼ぎと感じつつもフィルは話に乗る。
「フィルだ、俺からも一つ質問がある。お前は何者なんだ」
これはフィルにとって大事なことだった。もしただの戦闘狂や狂人なら別に戦う必要がない、塵影の爆弾魔は既に死んだ。
今フィルがすべきなのは他の者との合流。こんなところで戦ってる場合じゃないと言うのが本音だった。
「ん?俺?塵影だよ、今日は爆弾魔を処理しにきたんだよ」
「塵影?処理ってなんだ、仲間じゃないのか?」
「庭師の仕事って分かるか?伸びすぎた枝とかを切ったりするだろ?そんな感じだよ。俺は偉いからさ、そうゆうのが役目なのよ」
(…こいつ、幹部か?)
レクト様から話は聞いていた。塵影の幹部は長らく尻尾を掴めていないと。
(もしこいつが幹部、それより下でも塵影について何か握っているのは間違いない)
戦うしかない、逃げると言う選択肢ははなから存在しない。改めて闘気を練る。
「フィル、お前強えよ。だから嬉しくてしょうがねぇ…お前みたいな強い奴と戦うのが世界で一番楽しいからな。だけど、だからこそ残念だよ、ここでお前を殺さなくちゃいけないのが」
目を輝かせながらオズは微笑む。心の底からただ今この刹那を楽しみ嗤う狂人。
それがオズ。
そしてオズは気づいていた、フィルの弱点を。
「お前、魔法を常に使わねぇよな。あの無衣を使っていれば防げてた攻撃もあったのによう、さぞかし魔力量が少ないんだろうな」
フィルの魔力量は少ない、それはれっきとした弱点だとフィル本人も自覚している。
「それにさっきから汗がすごいなぁ、確かに動き回ってるけど…お前対人経験ないだろ?なんか腰が引けてる時があるし、ずっと神経すり減らしてんだろ?今俺が喋ってる間もずっとよぉ、そりゃあ疲れもするよな」
フィルは動揺を隠せない、息が上がるのが速い…そう自分ですら自覚するのが遅れる程度の違和感にオズは気づいていると言う事実に。
「それに地味な傷からの流血もやばいよなぁ?あんなに動きまわって、意識もやばくなってくる」
フィルは気づいていなかった、実力が拮抗してると言ってもそれはあくまで地力の話。対人経験という最も重要な要素を無視していた、それは段々とフィル自身を追い詰めていく毒となる。
血は流れ、息は上がり、判断は鈍ってゆく。今こんな会話に付き合っているのも息を落ち着かせる余裕を作り出すため。
目の前にいる男は余裕の形相であることも焦りに拍車を、フィルは感じ取っていた。敗北の予感を
「あぁ、疲れてる」
「?」
「お前の言うとおり、いつもみたいに身体が動かなかった。剣にも力が入っていなかったし、闘気も乱れた」
フィルは淡々と言った、この戦いの間に感じた違和感を全て、吐き出すように。
「だけやるしかないから、行くよ、オズ」
剣を構える、教科書通りの、お手本の様な構え。精神統一、フィルは普段通りを取り戻した。
それに対してオズの心境は今日初めて動揺していた。
(こいつ、なんつった?確かに俺は息が上がってると、腰が引けてると言った。だけどそれだけだ、なんだ?こいつは今までの攻防の間、闘気は乱れてたし、剣にも力が入ってなかったって…?はっ、最高かよ)
オズは認識を改める、今目の前にいる敵は今までの誰よりも自分を脅かす存在であることを…だからこそ使う。
「認めてやるよフィル、使うつもりなかったけど使うぞ」
固有魔法 操影 「翳突凶弾」
唱えた瞬間、オズの影が背に伝わり十二の黒玉により漆黒の円環が為される。
「これ使うのは割と久々だなぁ、誇っていいぞ、俺にこれを使わせたことを」
(くる!)
手銃を作り、フィルに向けて唱えた。
「ショット」
黒玉の一つが矢となり高速でフィルに向かって放たれる。
(矢?最初と同じだが少し違う、剣で止めて)
剣の面で防ぐ選択、最初と違い身体も温まり見切れる速度。矢に対しフィルは完璧に合わせた。
だが…
「は…?」
右肩に激痛が走る。それは今まで感じたことがないほどの痛み。
(何が…起きて?)
右肩を視認する、そこには綺麗に穴が空いた右肩が映る。そして剣にも穴が…
(貫通…?貫通したのか?剣ごと体が抉られた?)
痛みか、それとも今の状況か、どちらにせよ混乱するフィルの耳に場違いでお気楽な声が届く。
「どうだすごいだろ?これ威力とスピードと範囲を弄れて撃てる魔法でさ、範囲を絞って打つとあら不思議。今の状況の完成、運が良かったな、剣でそれてなきゃそのまま心臓貫いて死んでたぞ?」
いや運は悪かったのか?とペラペラ続けるオズ。
「即死出来てた方が楽だったな、まぁ動かなきゃ次の一撃で決めてやるよ」
「はっ、その選択肢はないかな」
痛みを堪えて立ち上がり、使えない右腕の代わりに左腕を使い剣を持つ。その姿はオズにとってとても惨めに映った。
「やめろよ、フィル。壊れた右腕、壊れかけの剣、もうない魔力。俺に勝てる要素がないだろ、だから諦めろって。ちゃんと楽に殺してやるからさ」
それは憐れみか優しさか、少なくともフィルに多少なりの敬意を持っていたからこその提案だった。
でなければここまで会話もすることも無かった。
それでもフィルは剣を向ける。
「…諦めろ…か、諦めるね…」
息も絶え絶え、そんな状態でも剣を向けてくる。それが意味することは…
「分かったよフィル、じゃあな」
ショット




