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22話 炎姫ファスカ

 団長との面会からはや数日、俺は王都での生活に揉まれながら変わらず訓練漬けの毎日を送っている。朝と晩はレクト様に無属性の魔法を、昼は騎士団の皆さんの訓練に混ぜてもらっている。


 入団式が近いからか訓練は普段よりは軽い者らしい、俺からすればかなりきついがそれはいいだろう。こんないい環境で過ごせる機会はない、無駄にする暇もない。


 そう思って気を引き締めて、今俺はレクト様と魔法の修行をしてる。


(レクト様は王国でも数少ない無属性をつかいながら闘う剣士、しかも魔法も剣も世界最高峰レベル。俺の目指す姿の究極型と言っていい)


「うーんフィル君は風属性の中級魔法を覚えるのに一週間は掛かったんだよね」


「あ…はい」


「ふーん、じゃあやっぱり無属性の方が適正が高いみたいだね、かなり偏ってる」


「適正とかあるんですね」


「うん、僕はニ属性使えるんだけど…光と無なら無属性の方が得意だったよ」


 確かに風よりは無属性の方が得意な気がする、長年使ってるのもありそうだけど。


 この数日で中級も一つ覚えることできたしな。


「ところでフィル君、実は今日僕休みなんだ。だから今日例の件を頼みたい」


「例の件?あぁ妹さんの…」


 前にレクト様が言ってた強すぎる妹さんのお話、一つ歳上と言うけど同年代と戦うのはライを除いたら初めてだ。


(どのぐらい強いんだろうな、レクト様よりってことはないよな?ないはずだよな?)


「じゃあ少し休んでから向かいましょうか」


 後ろでコーヒーを飲んでリラックスしている師匠が言った。俺が修行してる間に優雅に過ごしていたらしい


(寝癖なんか立てちゃって…)


「そうだね、フィル君も休んでていいよ。馬車呼んでくるから」


 こうしてレクト様の家に向かうことになったのだが…



 ▲▽▲▽▲▽▲




「あの、目の前のは…」


「ん?これが僕の家だよ」


 レクト様が指さした先に見えたのは…屋敷というより小さな城と言った方がいいほどの豪邸だった。


 白い大理石のような石材で建てられた壮麗な建物は、太陽の光を受けて輝いている。敷地の周りには美しく手入れされた庭園が広がり、色とりどりの花々や整えられた低木が並んでいる。


「信じられん」


(普段でない口調で出ちゃったよ。なんだこれ?)


 デカい、あまりにもデカい。騎士団の本拠よりもデカい。端が見えないぐらいデカい。


 やっぱり四代貴族の一つであるレオンハート家の屋敷となると当然なんだろうか?


「そんなに驚かなくていいよ、家が大きいだけで中身は普通の家だから」


 不思議そうなレクト様はそう言ったが、フィルにとって「普通」の認識に差があった。


 門をくぐり制服を着た従者たちが出迎えてくれる。彼らはレクト様に深々と頭を下げ、フィルにも丁寧に挨拶をした。


(こんなにいっぱいの人が…もう住んでる世界が違うなぁ)


「お帰りなさいませ、レクト様。そしてお客様、ようこそレオンハート家へ」


「ありがとう。彼らは例のフィル君とラロだ、今日は少なくとも滞在するから食事も人数分頼む」


「かしこまりました。それとお嬢様は現在、裏庭の訓練場におられます」


 執事長だろうか、そう感じさせる老人はすぐさま去ってどこかへ。


「じゃあ、行こうか」


 レクト様はフィルを促し、屋敷の中へと案内していく。


「わぁ…」


 フィルの目に飛び込んできたのは、天井高く設えられたシャンデリア、大理石の床、壁に飾られた歴代当主の肖像画。廊下を進むにつれ、貴族の家らしい調度品や美術品が随所に置かれている。


「どうしましたフィル、緊張しましたか」


 寝癖を直して平常に戻った師匠が言った。


「いや、まぁはい。こんな大きいお屋敷に入るのは初めてですし…」


「ふふ、戦うことには緊張してないんだね。いいことだよ」


 レクト様はそう言って微笑んだが、なぜかその笑顔に不安を覚えた。


 戦うわくわく感は消え緊張に漠然とした不安が心を締め付ける。


 屋敷を抜けると、広大な裏庭が広がっていた。その一角には剣術の訓練用に整備された場所があり、そこで一人の少女が木剣を振るっていた。


「ファスカー!来たよー」


 レクト様が手を振ると、妹さんは動きを止め、こちらを振り向いた。振り向きざまに紅蓮の髪がなびく。


「…綺麗…」


 ふと口からこぼれた、女性の顔をまじまじ見るのはいけないと分かっていても見惚れてしまう。美しいレクト様に似た端正な顔立ちにレクト様とは違う紅蓮のような赤い髪、だけどよく見れば髪の内側は初雪のような白色だ。


「あら!お兄様お帰りなさい、その子が例の?」


 ファスカはレクトとラロに軽く会釈すると、フィルに視線を移した。その瞳には…


「あなたがフィルね」


 ふと我に返る。


「は、はじめまして。フィルって言います。よろしくお願いします」


 ファスカはじっとフィルを見つめ、小さく頷いた。


「じゃあ早く準備して、やるわよ」


「え、今からですか?」


 思わず口ごもってしまった。


「ええ、今からよ。そのつもりできたんでしょう?問題ある?それとも無理矢理お兄様に連れてこられたの?」


 ファスカが眉を一つ上げて言った。彼女は既に木剣を持ち、訓練場の中央に向かって歩き始めていた。


「い、いや…わかりました。やりましょう」


「じゃあ、僕達はここで見学するね」


 レクト様は訓練場の端にある小さな東屋へと向かい、ラロと共に腰を下ろした。どこからともなく給仕が現れ、冷たい飲み物を運んでくる。


「相変わらずですね、副団長の妹さんは」


「だからフィル君を連れてきたんだよ、ラロ」


 訓練場はしっかりと整備された広い草地で、四方には様々な訓練器具が並べられている。フィルは周囲を見回しながら、木剣を一本手に取った。


「あの、ルールとかは…」


「簡単よ」


 ファスカは髪を一つに結びながら言った。


「一本勝負、剣と魔法、どちらを使ってもいい。負傷したら医者を呼ぶから気にしないで。戦闘不能か降参で決着…それでいいでしょ?」


「一本でいいんですか?」


「?早く自主練したいもの、あなたに構ってる暇はないわ」


(中々思ったよりグサグサ言われるなぁ… 自分の顔はわからないけど笑顔ではないんだろうな…)


「そんな顔しないでいいわよ、これでも私はあなたを認めてるのよ」


 認めてるの認識に大分差違があるようだ。


「お兄様が僅か数日でその才能を認めたというから、とても興味があるの。本来なら試合なんてしないんだから」


 彼女は構えを取り、木剣を前に突き出した。


「私はファスカ・レオンハート。じゃあ始めましょう」


 突然始まった勝負、フィルは息を深く吸い込み、自分も構えを取った。緊張はまだあったが、目の前の相手に集中することで少しずつ落ち着いてきた。


「じゃあ僕が合図するね、手を叩いたら開始だよ」


 前に出たレクト様、手を大きく開き…そして…


 パンっ!


 合図と同時に、悪寒が走った。


 だからだろうか、気づいたら距離を詰めて技を放っていた。


 上級技 「紫突しとつ


 ファスカの顔を目掛けて放たれた突きはいとも容易く…まるで来ることが分かっていたかのように避けられた。


 誤った…フィルがそう思った時にはもう遅かった。


 無闇に詰めた距離、瞬間感じる腹部への激痛。


(ガハっ…)


 剣の柄が自分の溝にのめり込んでいるのが見えた。そのまま遥か後方へ吹き飛ぶ。


(っ…!すぐに体勢を…)


 すぐさま受け身をして相手を見る、追撃がくるかと思ったがファスカ様は棒立ちしている。それはもう余裕そうに。


(ふぅ…ふぅ…分かってただろ、相手は同年代で最強だぞ。それでも戦うって決めたんだろ、勝つんだよ…)


 なんとか痛みを堪えて立ち上がり、目の前の相手をしっかり見つめる。


(一挙手一投足を見逃すな…)


「気付の一発、サービスよ」


 立ち上がったフィルを見て淡々とファスカはそう言い放った、そして…地面の抉れる音がした。


(は…や…)


 高速でフィルの前へ、機を制される。


 フィルの右側から木剣が襲いかかる。咄嗟に剣を上げて防ぐが、その衝撃は想像以上だった。


「ぐっ!」


 よろけはしないものの流せてもいない。ファスカ様は一瞬の隙も与えず、連続して攻撃を仕掛けてくる。狙う場所も正確…顔に顎、腹部に脛。


 必死で防御を続けるが、じりじりと押し込まれていく。


 技ではない、ファスカの勘からなる剣撃。対処は後手に回るしかない。


(聞いてはいたけど…これは…)


 フィルは事前にレクトからファスカの情報を聞いていた。その中でも特に気になったことが一つ。



 ▲▽▲▽▲▽▲



「特異体質ですか?」


「そう、妹は生まれながらに常人より筋繊維密度が高くてね。要は身体能力が凄く高い」


「それはすごいですね」


「うん、だからただの剣の薙ぎ払いが致命打になるんだよ」



 ▲▽▲▽▲▽▲




(そんな風に言ってたけど…こんなにとは…!)


 フィルは冷静に次の一撃を受け流し、距離を取った。ファスカの剣技は力強くそして独特、レクトとはまるで真反対と言える戦い方をしていた。


 冷や汗か疲れからか、汗だくのフィルと未だ土埃一つついてないファスカ。


 側から見れば一方的と言える試合展開だが、ファスカは驚いていた。


「今の耐えれるのね、ちょっと驚いてるわ」


 挑発ではない、ただそう思ったからそう言っただけ。


 だがその言葉はフィルの闘志に火をつけた。


 フィルは一度大きく息を吸い、唱えた。


 無属性 中級魔法 「無衣セル・ギアス


 白きオーラがフィルを守るように纏われる。


(レクト様に教わった魔法…本気で行く!)


 フィルの体を白いオーラが包み込む様子に、ファスカの瞳が僅かに見開かれた。


「無属性の中級魔法…なに?そんなの使えるなら早く使えば良かったのに。此処から本番ってとこね」


 訓練場に二人の気が満ちている、東屋からそれを見ていたレクトが微笑みながら呟いた。


「ふふ、面白いね」


「無属性の中級魔法を数日で習得するとは…」


 フィルの全身から白いオーラが立ち昇り、肌や筋肉に浸透していく。無衣セル・ギアス—身体能力を一時的に強化する無属性魔法。


 単純に初級の無化ギアスと比べて強化幅が増え、特に膂力と防御に大きな恩恵をもたらす。


「なら私も使うわよ?闘気」


(使ってなかったんですか!?あれで!?)


 フィルの驚きなんて気にもせずファスカは一気に間合いを詰め、技を繰り出す。フィルもそれに合わせて放つ。


白閃びゃくせん!」「紫閃しせん!」


 剣と剣が真正面からぶつかる、ならば勝つのは技の精度と威力が高い方。


 ラロとレクトの目が見開かれる。


 弾かれた、ファスカの木剣が!


 弾かれたことで崩れた姿勢、フィルは反撃に転じ、下段から紫突を繰り出す。ファスカは木剣を縦に構えて防いだが、その衝撃で後ろに一歩下がった。


「くっ…なかなかね!」


 互いに舞うように動き出した。木剣がぶつかり合う音が訓練場に響き渡る。さっきまで一方的だった攻防が、今は互角に近い形で展開されている。


 ファスカの攻撃は依然として強力だが、フィルは無衣セル・ギアスの効果で的確に受け流したり回避したりできるようになっていた。


「でも…」


 フィルは内心で焦っていた。


(無衣セル・ギアスの維持時間には限界がある…それに…)


 レクト様から教わったばかりの魔法。


 まだ完全に使いこなせているわけではない。全力解放で出力を上げ続けている状態、このペースで続けばあと数分で効果が切れるだろう。


 そして思い出させるのはレクトとの会話。



「フィル君も特異体質だよね」


「?力は普通だと思いますけど」


「いや違うよ、うーん…魔力と闘気が阻害し合うのは分かるよね?例えばだけど闘気で100強くなるとする、魔法で身体強化しても100強くなる。だから同時に使えば100+100で200って訳じゃない。邪魔し合うから結局130ぐらいにしかならないし他の魔法の威力も落ちてしまう」


「それは分かります、ダグ爺に聞きました」


「でも君は違う、体が魔力との親和性が高いから邪魔し合わない。だから100+100の理論で200になるだよ。これはすごいことで他の人よりも遥かに大きなアドバンテージだよ」



(そう言われたけど…今闘気も魔法も全力で使って押されてるんじゃダメだよな…勝たなくちゃいけない)


 全力を出せるのは残り少なく…ならばあとは攻めるだけ。対するファスカも守りには入らず攻めて行く。


 お互い引かずの応戦、その姿は燃える業火の様に。


「さぁ、もっと戦いましょ!」


 ファスカの言葉と共に、彼女の攻撃がさらに加速した。木剣が風を切る音が一層鋭くなり、当たれば骨ごと行くであろう威力。


 ファスカの剣が上から降り注ぐ。フィルは横に踏み込みながら受け流し、反撃で技を繰り出した。


 しかしファスカは驚くべき柔軟さでそれをかわし、即座に次の一手へと移る。


「ふぅ、まだまだ!」


 二人の木剣がぶつかるたびに、衝撃波が広がるように見えた。無衣セル・ギアスの力に闘気を最大限に引き出し続けるフィルと、生まれながらの特殊体質を持つファスカ。二人の戦いは次第に佳境へ。


「それにしても…フィルが此処まで戦えるのはすごいことですが、ファスカ様はどうして魔法を使わないんです?」


 ラロとしてはファスカが魔法を行使すれば余裕でひっくり返る変える戦いだと思ってる。それはそうと自分の弟子が此処まで食い下がってるのは素直に嬉しくもある。


「そりゃあ使わないよ、怪我どころじゃ済まない。それを抜きにフィル君があそこまで戦えるのは僕も想定外だよ」


 本番に強いタイプなのかな?などと呑気なことを言うレクトを置いてラロは二人の戦いに見入っていた。


「はぁっ!」


 フィルは大きく踏み込み、八つの斬撃からなる豊扇華ほうせんかを放つ。ファスカはそれを全て剣で受け止めるが、その内一つに押されて一瞬バランスを崩した。


「ここ!」


 間髪入れず、フィルは剣を引いて再び攻撃。今度は下からの斜め薙ぎ払い。ファスカは咄嗟に後方へ跳び、攻撃をかわした。


「なかなかやるわね…でも!」


 彼女は体を捻り一瞬で体勢を立て直し、接近!フィルの不意を突くようにして横薙ぎの一撃を放った。


「ぐっ!」


 木剣がフィルの腹部をかすめる。痛みはあるが、無衣セル・ギアスのおかげで致命傷にはなっていない。


 しかし、フィルは次第に息が荒くなってきていた。


 汗が目に入って視界が歪む。それでも必死に相手を見据える。


 一方の彼女の額には薄い汗が浮かび、紅蓮の髪が風にそよぐ。


「…久し振りに楽しいわ、年下にここまで出来る子がいるなんて……ありがとうね」


 その声は先程までとは違い心の籠った声だった。だからだろうか、フィルもただ純粋に今思ってることが口から出た。


「ありがとうなんて…こちらこそだ。今日あなたと戦えて良かった」


「ふふ、そう」


 それを聞いたファスカは今日初めて笑った。そして…一瞬の間を置き、剣を構え直した。次の攻防が決着をつけることを両者が悟る瞬間だった。


「行くわよ」「行きます」


 二人は同時に互いに向かって突進した。ファスカの木剣が閃光の速度で振り下ろされる。フィルは全身全霊の力を込めて迎え撃つ。


(上からの振り下ろし…今度こそ!)


白突びゃくとつ!」


 振り下ろしの剣に合わせる様な突技、二つの剣が激しくぶつかり合う。空気が振動し、衝撃が訓練場全体に広がった。


 その瞬間、フィルの剣がファスカの剣を吹き飛ばした。


(勝っ…)


 この瞬間、フィルは間違いなく油断した。剣を弾いたのだから、勝負はついたと…


 だからだろう、視界の外から放たれた蹴りを避けれなかったのは。


 木剣を弾かれたファスカだったが、その勢いを利用して体を回転させて放った蹴りがフィルの顎を捉えた。


「がっ!」


「あ!」


 予想外すぎる一撃、フィルの意識は消え地面に倒れこむ。口の端から血が滲む。無装の効果も、ちょうどその瞬間に切れてしまったようだ。


 最後にフィルが見えた景色はやらかしたと言う顔をしたファスカだった。そしてその光景を見ていた二人は…


「…今のは…」


「そんな顔で見ないでくれラロ、ファスカも分かってるみたいだから。んーとりあえずフィル君は病室かな」


 そう言ってレクトは従者に頼みフィルは搬送された。




 ▲▽▲▽▲▽▲




「んぁ…」


 柔らかな光が差し込む広い部屋でフィルは意識を取り戻した。


「ん…どこだぁ?」


 白い天蓋付きのベッドに横たわり、ゆっくりと目を開ける。顎から顔にかけての痛みが記憶を呼び起こす。


「あっ…俺…」


「勝ちよ、あなたの。


「うぇ!」


 突然の声に驚いて体を起こそうとすると、鈍い痛みが全身を走る。視線を向けると、窓際の椅子に腰掛けたファスカの姿があった。紅蓮の髪が夕日に照らされ、より鮮やかに輝いている。


「フ、ファスカ様…」


「無理に起き上がらないで。医者が診てくれたけど、打撲と軽い脳震盪よ。少し休めば大丈夫だって」


 彼女は立ち上がり、ベッドに近づいてきた。先ほどまでの剣士の気迫は消え、静かな表情で見下ろしてくる。


「あの…最後の蹴りは…」


「ごめんなさいね、出ちゃったわ」


「出ちゃっんならしょうがないですよね」


(出ちゃったのか…まぁ避けれなかった俺が悪いよな)


「本当は武器を失った時点で私の負けだったのにね、ごめんなさい」


 ファスカは少し俯き、手を握りしめた。


「あなたは本当に強いわ。誇っていいわよ、私と互角に戦える子供なんていないわ」


「いや、互角じゃなかった。だってファスカ様は魔法使ってなかったじゃないですか」


 そうなのだ、今回一見互角に戦えてた試合もそれはファスカ様が魔法を使わなかったから。固有魔法に家系魔法もあるのに…


 それを聞いたファスカ様は少し眉をひそめた。


「はぁ、悪いけど年下相手に魔法なんか使ったらそれこそ負けよ」


「そうですか…」


「ねぇ」


「なんでしょう」


 凄く不安そうな顔でファスカ様がこちらを見て。口を開いた。


「また戦ってくれる?」


「え?」


 飛んできたのは意外すぎる一言だった。頭に大量の?が浮かんでいる俺をよそにファスカ様は話し出した。


「いやね、私と戦ってくれる同年代の子って本当にいなくて…みんな逃げちゃうの。だからそう、久し振りに同じぐらいの年の子と戦えて楽しかったって言うか…だからその」


(あぁ、そう言うことか…)


 ファスカ様は強い、強すぎる。レクト様から聞いた通りみんな逃げてしまったんだろう、四代貴族と言う立場に圧倒的な強さ…尊敬よりも畏怖を抱いてしまう気持ちも分かる。


 だからこそ俺は言いたかった。


「また戦いましょう」


「へ?」


「今日ファスカ様と戦えて良かったです、本当に」


 何百回もの訓練より実戦と言われる意味が分かった。それだけ成長を感じれた一戦だった。


「え?本当にいいの?私蹴ったわよ?顎割る勢いで」


(それはそう)


「それでもですよ、だからまた戦いましょ」


「え!じゃあ早速戦いましょう?次は正々堂々勝つから!」


「え!?今からですか!?」


 フィルは分かっていなかった、ファスカは確かに戦う相手がいなくて寂しかった。


 でもそれは友人のできないと言ったことでなく、戦う相手が今後いなくなってしまうのではと言う不安だったのだ。


 目の前に自分と戦える好敵手がいる、しかも何度でも戦える!まるで新しいおもちゃをもらった子供の様に彼女ははしゃいでいた。


「そうよ!私と戦ったらもっと成長出来るわよ」


 と言ってもフィルは怪我人、断りさえすれば…


「ならやりましょう」


 フィルも馬鹿であった。顎の痛みなど気にもしない、ただ強くなるためにフィルは頑張る。


「よし!じゃあフルーツ食べ終わったらすぐ行きましょう!」


「はい!」


 こうして二人はフルーツを貪った。そしてそんな二人の会話を壁越しに聞いてた人物が二人。


「何やら僕たちはお邪魔みたいだよラロ」


「その様ですね…それにしても、フィルの成長には目を見張るものがあります」


 ラロは驚いている、制限のあった試合といえどあのファスカ相手に勝ったのは揺るぎない事実なのだから。


 この一年の成果が存分に出た…そんな試合だった。そしてそれはレクトもそう思っていた。


「流石だよフィル君。君を連れてきて良かった、本当にありがとう」


 惜しみない賞賛はフィルに届くことはなかった。

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