21話 騎士団長ランザス
「おぉ〜」
俺は訓練を終えた後時間を潰すためにレクト様と師匠に騎士団本部を案内してもらっていた。
そして今いるのが図書館兼資料館、今まで見たことない本に資料の数々。
(こんだけ本がいっぱい並んでるのは初めて見るなぁ、あ!これは…)
フィルが手に取ったのは『アスター王国の歴史』という本、試しに開いてみるとそれはもう事細かに書いてある。
「ほう、フィル君は歴史に興味があるのかい?」
後ろから覗いてきたレクト様からそう尋ねられた。
「いや、ノジオン学園に入る為に今勉強してるのでつい」
「へぇ!ノジオン学園に入るんだ!あそこはいい学校だよ、保証する」
「レクト様はノジオン学園だったんですか?」
ここまで言うなら入っていたんだろうと思ったがどうやら違うらしい。
「フィル、副団長の家はノジオン学園を経営してる家系です」
「え?」
「うん、実はレオンハート家は四代貴族の一つでね、僕のお母様が学園を経営してるんだ」
「えぇ」
すごく当然みたいな顔で言われたけどそれって凄くないか?それに四代貴族ってのは初めて聞いたな。
「あの四代貴族って言うのは…?」
「うーん、この国の重要な機関を担う貴族の総称かな。僕の家はノジオン学園の他にも色々な学校を経営してて、他三つはそれぞれ冒険者ギルド、教会、騎士団を運営しているんだ」
「じゃあここもその四代貴族の管轄ってことなんですね」
「うん、シュヴァリア家って言うんだ」
(まだまだ知らないことがいっぱいだなぁ)
それから少し本を読んで図書館を出た、次に案内してもらったのは訓練所。騎士が実際に剣で打ち合ってる試合が見れた。
「めちゃくちゃ早い…」
当たり前だけど俺なんかより全然早い、でもそれは身体能力とか闘気の差な気がするし落ち込まなくていいよな。
でも単純な技以外の斬り合いは圧倒的に騎士の人たちの方がすごいなぁ。
「ここにいる騎士はかなりの精鋭達だよ、だからそんなに気にしなくていいからね」
レクト様はきっと落ち込まないよう思って言ってくれたんだろうけど大丈夫、確かにすごいけど俺だって師匠やトットさんにダグ爺とめちゃくちゃに強い人たちに教えてもらってるんだから。
それに…レクト様の剣が余りにも凄すぎて何とも言えない気持ちになる。
そんなこともありつつ訓練所を後にする、それからも食堂に武器庫、礼拝堂と騎士団本部にある色々んな施設を回った。
時間も過ぎ去り1時に差し迫った頃、
「ん、そろそろかな。団長のとこに行こうか」
突然レクト様がそう言った、確かにこれだけ時間も経てば用事も終わっていてもおかしくない。レクト様に連れられ俺は騎士団長の部屋へ向かった。
騎士団長への廊下は、これまで見てきた施設とは違い、少し薄暗く、重厚な雰囲気が漂っていた。石造りの壁には、古い肖像画や戦いの様子を描いた絵画が掛けられている。
「なんか凄いですね」
「ここだけ王城みたいだよね、団長の趣味なんだ」
(絵画とか見るのが好きなのかな?想像とちょっと違うな)
事前に聞いていた騎士団長の特徴は…
「アホ、そして剣を振るのが大好きな奴だった」
ダグ爺はそう言った。
「団長は最強の剣士です…え?人として?うーんそうですね…豪快で豪胆、それでいて明哲。まぁ不思議な人ですかね」
師匠はそう言った。
そして今
「団長は何だろうね、面白い人かなぁ。それに凄く優しい人だから安心していいよ」
レクト様にそう言われた。
(うん、分からん!)
みんながみんな別々の事言ってて正直想像も付かない、でもそっか…
(最強の剣士…)
「レクト様、ランザス様って最強の剣士なんですよね?」
「うん、間違い無いよ」
ほぼ即答と言える速さだった。
「各国にも色んな剣士がいる、帝国の剣聖に義国の浮浪夜叉、魔国の大将軍。今挙げた者たちは世界有数の強者達だけど団長の方が強いよ。フィル君も会えば分かる」
「そんなに…ですか」
もうすぐ着くと言うのに廊下が遠く感じてしょうがない。それでも少し経つとレクト様が足を止める。廊下の奥、分厚い木の扉の前で、レクト様がノックした。
「お、入っていいぞ」
声が中から聞こえてきた。
レクト様は扉を開け、フィルを先に中に入れるよう促した。
「失礼しま…」
部屋に入った瞬間、フィルは圧倒される感触を覚えた。間違いなく目の前で座っている人によるものだろう。
最初に目に飛び込んできたのは、その特徴的な外見だ。黒褐色の髪が頭の両側で獅子のたてがみのように広がり、厳しく刻まれた顔には経験を物語る傷跡がいくつも走っている。濃い髭は顎から頬にかけて広がっている。
座ってる為上半身しか見えないが分かるがっしりとした体格に鍛え抜かれたであろう肉体は、その強さを物語っていた。
鋭い目つきは何かを見極めるように真剣のようだけどその目にはどこか温かみも感じられる——フィルが抱いた最初の印象だ
「おお、おまえがフィルか。親父から聞いてるぞ、色々な」
ランザスは書類を横に置き、テーブルの上に両肘をついて前に身を乗り出した。た
「はい、よろしくお願いします!」
緊張しながらも、精一杯元気よく返事をした。
「中々元気がいいな、少し威圧したんだが」
ランザスは立ち上がった。想像以上の大柄な体格だ。そして後ろには大剣が二つ飾られていれる。
「団長、お時間よろしいでしょうか」
レクト様が丁寧に声をかける。
「ああ、もちろんだ。じゃあ応接室に行くか」
ランザス様が横の扉を開いて中に入れてもらった。応接室は広々としていて、壁には剣や盾が飾られ、窓からは騎士団の庭が見える。
ドサッと音がするほど豪快に椅子に座ったランザスは早速話を始めた。
「じゃあ早速本題だが…お前強くなりたいんだよな?王になれるレベルに」
「はい」
「ふむ、王になるのは難しいなんてもんじゃ無いぞ?力は当然、覚悟も勇気も才能も全部なくちゃだめだ」
ランザスは茶を一口飲みまた口を開く。
「王ってのは一つの頂点だ、それを分かってて目指すのか?」
またランザス様の雰囲気が変わった、場の空気は最初より更に重く苦しい。
呼吸ですら薄くままならない。
でもきっとこんなことをするってことは示さなくちゃならないんだろう。
俺の覚悟を
重くるしい空気の中、フィルは宣言した。
「目指すのではありません、必ず獲りに行くんです」
才能も力も覚悟も全部必要なのは分かってる。今の自分に力があるなんて到底言えないけど、それでも。
(レイナ達の為、必ず…)
宣言したフィル目を見てランザスは一つ呼吸した。
「そうか、ところでお前は強くなるのに一番の近道は分かるか?」
威圧は解けたが唐突な質問、若干の困惑を抱えながらも口を開く。
「…?強い人に教えてもらうとかでしょうか??」
「違うな、それじゃあ限界がある。そして今お前はその限界がきてる段階だ」
「限界がですか?」
よくランザス様の言ってることが分からない、別に格段に強くはなっていなくても着実に成長はしてるって師匠も言ってたし…
「ラロと親父の手紙から推測するとお前は今訓練して魔物相手に試すの繰り返しだろ?それじゃあダメだってこった」
ランザスは指で机を叩きながらそう言った。
「最初はそれでいいだろうが段々と成長できる速度はどんどん落ちる、そしてお前はこれ以上その訓練法をしても大して成長できない所まで来てる、お前だって何となくは分かるだろ?このまま強くなっても王レベルまで行けないって?」
「それは…じゃあどうすれば…」
「馬鹿か?その解決策を出す為にわざわざ呼んだんだよ。ってことでお前には実戦をしてもらう」
「実戦ですか?でもそれな…」
「ラロや副団長とやったのは実戦とは言わねえぞ、自分を殺すつもりで向かってくる相手と戦うのを実戦って言うんだよ。だからお前にはこれから塵影とやり合ってもらう」
「待って下さい、それは流石に危険です」
団長ランザスの提案に今まで黙っていたラロが異議を唱える。
(塵影ってなんだ?師匠が危険って言うぐらいの人なのか?)
「危険だ?あんな雑魚共倒せないで逃げて王目指すなんて言わねえよな、そうだろフィル?」
フィルの困惑した表情を見て、ランザスは口角を上げた。
「塵影」という言葉の意味は分からないが、師匠が危険だと言うほどの相手—。だが一瞬の迷いすらフィルにはなかった。
塵影と戦って少しでも今より強くなれるならするべきだから、そうとフィルは思っている。
フィルは深く息を吸い込み、背筋を伸ばした。
「やります」
力強く、揺るぎない声で答えた。
ふと見えた師匠は困惑した様な顔を見せ、ランザス様はこの日初めて笑った。
「ハッハッハ!それでいいんだよそれで」
「団長!」
師匠の声には明らかな懸念が込められている。しかしフィルは師匠の方を向き、静かに言った。
「師匠、大丈夫です。塵影が《メイス》どんな奴かはわからないですけど」
「そうだぞラロ、お前の弟子は分かってんな。道は険しく危険だが、それを避けていては強くなれねぇからな」
フィルは団長の方を見返した。
「それで…塵影とは何ですか?」
「なんだ?知らないのか?」
ランザスは少し驚いた様子で眉を上げた。
「塵影ってのはまぁ世界中で嫌われてる凶悪集団のこった、まぁお前に行かせるとこは塵影の末端も末端から安心して行け」
「そうそう、フィル君なら問題ないよ」
「よし、ってことで話は終わりでいいな?まぁ俺達も騎士団の入団式があるから行くのは十日後とかになるからそれで頼む。じゃ」
そう言ってランザス様との会談を終えた、部屋を出された俺と師匠は騎士団本部の廊下を歩いていたけどどうにも師匠の機嫌が少し悪い。
「あの、すいませんでした」
「…なにがでしょうか」
(明らかに怒ってらっしゃる…)
「いや、せっかく庇ってもらったのに自分から言って…」
「…別にいいです、フィルが自分の意思で決めたのだからそれで」
「…ありがとうございます」
(この人が師匠でよかったな)
ただ師匠の言葉聞いて俺はそう思った。
「師匠、塵影って本当に危険なんですか?」
フィルが静かに尋ねると、ラロは少し歩みを止め、窓の外を見やった。
「塵影 暗殺、略奪、破壊行為を繰り返し、どこの国でも危険視されている者達です。自分達の目的のためなら平気で人を殺す…危険でないはずがない」
「…」
「慢心しないように、いくら末端といえど殺意を持って向かってくる人間と闘う経験は初めてでしょう?だから十分に気をつけて当日万全を持って戦える準備をしましょう」
師匠は冷静に、俺の目を見てそう言った。
「勿論、こんなところで躓いてられませんから」
「ええですね…ただまぁさっきみたい無茶はやめてほしいですが」
「あっはい」
やっぱり怒ってるじゃないか…
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フィルとラロが出た後、ランザスとレクトは二人でお茶を楽しんでいた。
「フィル君はどうですか団長?いい子でしょう」
「あぁ、まぁいい子って感じだったな」
興味がなさそうな空返事だ。そんなことは気にせずレクトは話を続けた。
「しかもかなり強いですよ」
「そうか?お前の妹のが強いだろ。それに王目指す奴はあんぐらいの歳から飛び抜けてるもんだからな」
「あぁ、だからファスカと明々後日ぐらいに戦ってもらおうと思ってて」
「ほーあのガキ可哀想だな」
「と言いますと?」
「あのガキじゃ絶対お前の妹には勝てねぇってこった」




