20話 王国最強
人は何かに感動し憧れる。そしてそれはきっと今後の人生を左右してしまう様なものかも知れない。
誰かは親からもらった英雄譚の英雄に
誰かは魔法使いが使う魔法に
そして…誰かは騎士が振るう剣に
フィルは目が奪われるほどの感動したことはない
だが今日「感動」を知った
▲▽▲▽▲▽▲
レクトが柄を握構えを取る。
剣を振った
紫閃を放ち、続く垂香から豊扇華を、そして紫突を撃つ。
風切り音すら聞こえない無音、一つ一つの動作がお手本の様に美しく、見るもの全てを魅力する。
落ちてくる葉でさえ切り裂けるであろう速度を出しながらその所作はまさに《《完璧》》。
ラロですら少しは出てしまう癖が一切ない剣、まるでレクト自身が剣と一体の様な…
フィルは自分の手に握られていた剣を見つめる。
(レクトさんが使ってる剣と僕が使ってる剣が一緒?信じられない…)
同じ騎士達ですら目を奪われる剣、フィルがこうなるのも無理はなかった。
(姿勢とか、技術とかそうゆう次元じゃない…!)
ただの一般的な型を見ただけなのにフィルは冷や汗をかいていた。そんなことはつゆ知らずレクトは笑顔でフィルの方へ
「とりあえず一通り見せたけど、フィル君の紫閃は正直あまりいうことがない。手首をしっかり固めるぐらいかな…って聞いてるかい?」
「…あ、ごめんなさい。聞いてませんでした」
さっきの型に夢中になりすぎていたフィルにレクトの言葉は届いていなかった。
「いやいいよ、そうだなぁ…紫閃は手首をしっかりと固めること。垂香は切り返しがまだ甘いかな、まぁでもそこは筋力がつけば自然と直るかな?豊扇華は一つ一つが少し疎かになってるかな。あと紫突の踏み込みは地面と足の裏がちゃんと接地するようにしよっか」
「なるほど、やってみます」
師匠に教えてもらった一年で学んだことだが素直が一番ということ、自分を過信しないで人の言うことをすぐ実践する。
それが大事だと身に沁みて分かった。
(手首を少し固定する気で、切り返しの甘さは最初の振り下ろしを弱く…地面を面捉えて集中…)
レクトに言われた全てを自分なりに解釈して実践する、ダメと言われたらもう一回…もう一回を繰り返す。そして…約十回目
「うん、大分良くなったね。じゃあつぎは試合形式で戦おっか」
「試合形式…ですか、分かりました。全力で行かせて頂きます」
まさかの試合形式で驚いたけどこれはラッキーだな、型を教えてもらえるだけでも良かったのに。
「じゃあ開始の合図はこのコインが落ちた瞬間からね。あと全力で来て欲しい、ちゃんと実力が見たいからね」
じゃあ行くよ、そう言ってレクトが指でコインを弾く。コインが宙を舞う中、柄に手を掛ける。
コインが地に落ちるまであと数秒…精神を落ち着かせる、息を大きく吸って足に力を込める。
(ロード相手に手加減なんかいらない、ただ全力で向かうだけだ。闘気を全身に…)
気が満ちた瞬間、コインが地に落ちた。
(今!ここ!)
足に込めていた力を一気に解放して詰め寄る。
上級 紫突
狙うのは人体のど真ん中である胸。
高速で真正面から向かってくるフィルに対してレクトも剣を構える。
レクトは自分の胸に向かってくる突きに対しそっと剣を添えた。
レクトの剣で逸らされた突は空を撃つ。
(今何やったんだ!?いやいい、じゃあこれは)
次元の違う神技に多少驚きはすれど焦りはしない、フィルはもう既に自分よりも圧倒的な強者がいることを知っているから。
冷静に外された紫突を別の技に繋げる。
アスター流 「紫閃」
その場で回転し放つ。
「いいね、そこで諦めない所は大事だよっ!」
レクトが軽く振った剣で弾かれる。
(一旦距離を…)
弾かれたことを利用して後ろに下がる、瞬間レクトが視界から消えた。
(!…後ろか!)
予想でしゃがむフィル、その上空を剣が通る。
「よく避けたね!」
(あっぶ…なら)
(しゃがんで姿勢を崩した、レクト様は後ろ…なら蹴る!)
剣を使わず後ろ蹴り、レクトは後ろへ避けフィルも体制を整える。
「いい蹴りだね、それに剣に囚われずに最適な選択だよ。予想以上に実戦も出来るんだね、君みたいに優秀な子は型にハマったことしか出来ない子が多いんだけどね」
「師匠ともう一人、武闘家の人によく鍛えられているので…」
(…強いなぁ、あんだけ師匠とトットさんにも協力してもらってやっとだ。でも…)
ちゃんと戦えている。息は上がるし汗もかいているけど…戦えている。
「そっか、じゃあちょっとだけ本気を出すよ。頑張ってついてきてね」
「はい!」
そこからはとてつもなくきつかった、さっきよりも数倍早い剣に手数。「無化」で身体強化してやっと追いつけるレベルだった。最後は下からの剣を対処できなくてそのままノックアウト…力の差が出た一戦だった。
起きた俺はレクト様と木陰で一休み、と言ってもレクト様は汗の一つすらかいてないが…
「いや…本当にすごいよ!まさか無属性と闘気をあそこまで使いこなせれるなんてね、…これなら大丈夫かも知れない」
「大丈夫…?何がです?」
「あぁ実は君に会って欲しい子がいてね」
「会って欲しい子ですか?」
「うん、実は僕には妹がいてね。今年で十四になるんだが…一つ問題があってね」
(十四歳…俺の一個上か、それで問題ってのはなんだろうな)
「強いんだすごく、僕も誇らしいほどに」
「強いのはいいことじゃないんですか?」
「そうだね、でも妹は強すぎたんだ。それこそ同年代に戦える相手がいないぐらいにね。だからかな…妹が学校に行きたくないって言ってるのさ」
「それは…」
「自分でやった方が強くなれるってね、頭もいいから僕は何も言えないんだ」
「それは大変ですね…」
確かに強すぎたら強すぎても大変なのかも知れない…俺は今まで自分の同年代と戦ったことがないけど、やっぱり強い人は世界にいくらでもいるよな。
それこそレクト様の妹さんとかどのぐらい強いのか想像もつかないや。
「うん、だからね。フィル君に頼みがある」
こちらの目を見てレクト様はそう言った。
「僕の妹と戦って欲しい、君みたいな強い子もいるって教えてあげたいんだ。まだ絶望するのは早いってことをね…」
「分かりました、俺なんかで良ければ是非」
レクト様には今回の恩もあるし、学園に入る前に同年代の強者と戦えるいい機会だ。頑張ろう…
「そうかありがとう…さて、もう少しやっても良かったんだけど帰ってきたからやめようか」
「帰って?」
ちょうどその時、裏庭の入り口から慌ただしい足音が聞こえてきた。振り向くと、ラロが半ば息を切らして立っていた。
珍しく彼の服も髪も少し乱れ、普段の整った状態からは程遠い様子だった。
「久し振りですね副団長、フィルもすいませんね」
「久しぶりだね、ラロ。ちゃんと逃げ切れたのかい?」
レクトは穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「いや…逃げ切れなかったからこんな風になってるんですよ」
ラロは苦笑いを浮かべ、首の後ろを軽く掻きながら答えた。
「見たところ剣の指導をしていたようですが…フィルはどうです?」
「フィル君はすごいよ、僕が十三の時よりもね」
(謙遜がすぎないか…)
さっきの人間離れした剣を見せたレクトさんだ、きっと十三歳からそれは強かったに違いない。
「まぁフィルは頑張っているので、それで騎士団長は…?」
「団長はバーレイン団長と塵影について少しね」
「バーレイン団長?」
「フィルに言ってませんでしたね、私達が所属する太陽の騎士団の団長がランザス団長。そして月の騎士団の団長がバーレイン団長です」
「僕達は太陽の騎士団所属だからね、僕達が団長って言ったら大体ランザス団長だよ」
「じゃあバーレインさんもさぞかし強いんですよね!」
「うん、魔法に関して言えば世界一なんじゃないかな」
(そんなにか…二人の団長、あってみたいなぁ)
「じゃあこれからどうしようか…ラロ、予定は?」
「特には決めていませんね、団長にも挨拶に行こうとしただけですし」
「じゃあ三人で続けようか」
「それでいいですか?フィル」
「あ、はい」
その後先程とは比べ物にもならないほどボコボコにされた。
▲▽▲▽▲▽▲
騎士団本部会議室
今この場に二人の最強が座っていた。
太陽の騎士団団長 ランザス
月の騎士団団長 バーレイン
「また塵影か…」
唸るようにバーレインが呟いた。
「こいつらなぁ…お前の魔法で全員しばけないのか?」
書類を見てランザスが愚痴をこぼす。
最強二人が頭を抱える異様な光景…その原因は塵影という組織だった
塵影 現在王国にとどまらず世界に被害をもたらす外法達。だが強い訳ではない、二人なら勿論騎士団の騎士でも様に制圧出来る。
なら何故騎士団が手を焼いているか…それは塵影の規模にある。最初は数人の盗賊だった、それでも一人一人が強く警戒対象ではあったが…ある日から他の盗賊や野盗、殺人鬼などを吸収する様になった。
ある時は力尽くで潰して無理矢理、またある時はその力とカリスマ性に惹かれて自ら入る者も。
そしてやがて国外へも手を伸ばし今では世界全体を貶める恐怖の象徴になった。
奴等が活動を始めてから今だに幹部の所在すら分かってない、どれだけ下っ端を潰そうが無限に湧いてくる。
「私の魔法でか?だったらお前の剣で幹部どもを捕まえてこい。そうしたら煮る、焼くのフルコースをお見舞いしてやる」
「そりゃあいいなぁ…」
書類を枕にランザスが項垂れる、顔まで完全にリラックス状態だ。
「それよりいいのか?今日客人が来るんだろ?確か子供の…」
「んあぁ、よく知ってんな。そう、面白そうなやつだったから会ってみたくてな」
「そうか、先刻窓から見えたよ。会って話をしたいと思った」
「ん?なら一緒に今から行こうぜ」
「私はまだ仕事があるからまた今度だ」
「じゃ、お先に」
そう言ってランザスは会議室を後にした。ランザスが居なくなり静かになった会議室でバーレインは紅茶を飲む。
「ふぅ…」
あいつらめ…と独り言が響いた。




