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15話 魔法教室

 師匠と出会ってから約10ヶ月の月日が流れた。


 寒風が吹き抜ける中、俺は相変わらず剣を振り続けていた。師匠はと言うと、この時期に一旦家に帰った。


 親孝行は大事だからしょうがない…


 刻むような寒さの中で、フィルの呼吸は白く凍てついた空気に溶けていく。


(自主練って言ってもな、魔獣を倒しに行くのもありだけど…どうしよっかな…)


「おい、フィル」


 背後から、聞き馴染んだ渋い声が響いた。振り返ると、ダグ爺がこちらへ向かってきた。何やら少し急ぎの様子だ。


「少しいいか?」


「大丈夫ですよ、もう昼ご飯ですか?」


「いや、お前に客人だ。こい」


「客人?」


(お客さん…誰だろう。俺に用がある人なんて思いつかないけど)


 不思議に思いながらも俺は小屋に向かった。




 ▲▽▲▽▲▽▲




 修行を切り上げて小屋に向かうと、見覚えある人がライと話してた。あれは…


「おや、そっちの餓鬼も来たかい」


「カリストロのおばあさん!!」


 あの日、俺達に魔法を教えてくれたおばあさん!あれから11ヶ月…この山からまったく出ていないから会う機会が無かったけど、ここに来てくれるなんて思ってすらいなかった。


「どうしてここに?」


「そこのじじいに頼まれてねぇ、餓鬼共に魔法を教えてくれってね。面倒とも思ったけど…断る理由も見当たんないから重い魔導書を持ってこんなところに来たってわけさ。まぁその餓鬼共があんた達とは知らなかったわけだけど…でもまぁ、久し振りにあんたらの顔が見えたなら来た甲斐があったね」


「…!ありがとうございます」


「ふん、感謝はいらないよ。それよりそこのジジイには感謝して欲しいけどね」


 そんなことを言っておばあさんはダグ爺の脛を蹴り上げた。


「…悪かったとは思ってるぞ…メリダ」


「はっ!どうだかね…それよりさっさと授業を始めるから準備しな」


 もう一発ダグ爺を蹴るとおばあさんは俺達に本を押し付け庭に向かった。


「世界ってのは結構狭いんだな…ってかダグ爺の知り合いだったのかよ」


 横にいたライがそんことをぼやいた。確かに世の中結構狭いと感じるけど、ダグ爺は元々の仕事柄のお陰でめちゃくちゃ顔が広いってこともあるんだと思う。


 多分この国で一定以上の年齢を超えている人達のほぼ全員がダグ爺を知っているだろう。


 そんなことを考えながら俺達も庭へ戻った。






 ▲▽▲▽▲▽▲





 訓練場には木の的や机がある、その机の上には魔導書が数冊。なんか久し振りの魔法でワクワクしてきたな。


「ってかばあさんの名前初めて聞いたぜ」


「確かに…」


「別に好きに呼べばいいさ」


「「じゃあメリ婆」」


 メリ婆…結構いいと思って言ったが本人的にはあんまり良くない様で微妙な顔をしていた。まぁ安直ではある。


「…それより準備は出来たかい餓鬼共、始めるよ」


「「はい!」」


「前回は魔法の基礎の基礎をやったけど今回は魔導書を使って実際に魔法を扱ってみるよ」


「じゃあこの魔導書は中級魔導書ってことか?」


(まぁ俺もライも初級なら使えるしな)


「そうさね、今回は風と火の中級魔導書を持ってきたからそれで修行するよ」


 メリダは本を手に持ち叩きながら言った。


「どんぐらいの予定なんだ?」


「まぁ闘気や技の修行と並行してやると考えて…三、四ヶ月ぐらいかね」


(三、四ヶ月…まぁ確かにそのぐらいかかるか…)


 一般的に魔法は級ごとに難易度が一気に上がる。初級は使う魔力量も数も少ないけど中級となると倍以上に跳ね上がる、目の前にある魔導書の分厚さがそれを表していと言えるだろう。


「まずあんたらは基本の初級はちゃんと使えるだろうね?」


「もちろん」「当たり前だろ」


「ならあの木の的に打ってみな。まずはフィル、あんたからだ」


「はい」


 初級呪文はどの属性も二つしかない、その内の一つが属性弾。これは全ての属性一緒だ、他の一つは属性ごとに違う。俺が使う無属性は身体強化する「無化ギアス」やレトスが使う「氷壁ラシスト」とかがある。


 手を的に向けて魔法を放つ。


 初級魔法「無弾ギアド


 唱えたフィルの手から放たれた白き波動弾が木の的を吹き飛ばした。。


(まぁこんなもんかな…さて反応は…)


 反応を伺うために後ろを振り向くと不服そうなメリ婆の顔が見えた。


(あれ?なんか間違えたか?特に間違えてはいなかったと思ったんだけどな)


「おいフィル、なんで無属性魔法なんだい。これから覚える魔法は風の中級魔法なんだから風弾を見せておくれ」


「あーすいません」


(そういえばそうだな、風属性じゃないと意味ないか)


「じゃあ改めて...」


 俺は再び手を上げ、今度は風の力を意識する。空気が手の中で渦を巻くような感覚。


 初級魔法「風弾エアド


 放たれた緑がかった魔法弾が、新しく設置された的を貫いた。風特有の鋭さで、的に小さな穴が開いている。


「ふむ」


 メリ婆は腕を組んで頷いた。どうやら今度は及第点らしい。


「よし、次はライの番だ」


「任せとけって」


 ライは片手を前に突き出し、魔法を唱える。


 初級魔法「火弾イグド


 轟音と共に放たれた赤い魔法弾は、的に激突すると同時に小規模な爆発を起こした。木片が飛び散り、黒煙が立ち上る。


『おいおい...的を破壊しちまったじゃねぇか』


「まぁ、分かってはいたさ。まぁ二人とも初級は大丈夫そうだね」


 メリ婆は呆れたような、でも少し楽しそうな表情を浮かべている。


 確かにライらしい派手なやり方だ。


「んじゃあ中級だな」


「ああ、基礎はしっかりしてるみたいだからね、なら本題の中級魔法の説明に入るとするかい」


 そう言ってメリ婆は分厚い魔導書を開いた。これから始まる新しい修行に、俺とライは思わず背筋を伸ばした。


「まず中級魔法は属性によって使える魔法の数が違う。火なら4つ、風は6つだね」


「風のが二つも多いんだな、なんだかやりがいないぜ」


『そうか?中級は一個覚えるだけでも結構大変だぞ』


「ザックはよく分かってるね、中級でも舐めてかからないほうがいいよ。案外一つもできないかもしれないからね」


「まぁやってみれば分かりますよ」


 風属性は6つもあるなら休む暇はないな、無属性も合わせて学園に入るまでに最低でも上級までは行きたいし。


「まぁやる気がある様で何よりさ、じゃあ二人には早速一つ目を憶えてもらおうかね」


「やってやらぁ」


「まずフィルには中級魔法の風矢セルエアド、ライには火矢セルイグドを覚えてもらうよ」


 風矢セルエアドか…聞いたことないけど風弾の上位版の魔法なのかな?渡された魔導書を開き読んでみる。


風矢セルエアド、やっぱり風弾の上位版か」


 魔導書のページを開くと、風魔法の詳細な説明が書かれている。俺は風矢セルエアドのページに目を走らせた。


(ふむふむ...風弾エアドより魔力を圧縮して放つのか。威力はそこまで上がらなくても貫通力が増える、がその分制御が難しいと...)


 横目でライも真剣な表情で火矢セルイグドのページを読み込んでいる。


「どうだい?基本的な仕組みは分かったかい?」


「ええ、まぁ」


 正直読む分には出来そうって思える。でもきっとそう簡単ではないのだろう、簡単そうに見えるのは先人が分かりやすく書いてくれているからだ。


『俺様は大体分かったぜ』


「お前が使うんじゃないんだから黙ってろ、これ結構むずくないか?」


『あ!?』「あ?」


 ライとザックはいつもの様に喧嘩を始めてしまった。


 今まで同学年と言ってはあれだけどこう喧嘩相手となる人が身近にいなかったライにとって、こうやって発散できる相手がいるってのはいい風潮なのかもしれない。


 そんなライ達を無視してメリ婆は話を続ける。


「フィル、この風矢エアドについて思ったことをいってみな。なんでもいいよ。


 メリ婆に促され、俺は考えを整理する。


風矢セルエアドは...単純に威力を上げるんじゃなくて、より細く鋭く圧縮するんですよね。だから貫通力が風弾エアドの比じゃないけど...その分魔力の制御が難しい。貫通力を高めるためにタメの時間があるのは少し弱点ですが…それよりも遥かに上回る強みがあると思います」


「ほうほう」


「そして圧縮して放つってことは無駄な魔力の拡散が少ないってことですよね。風弾エアドの半分ぐらいの魔力で同じぐらいの威力が出せそうな気がして」


「理屈は分かったみたいだね。じゃあ実践...といきたいところだけど、その前に魔力の圧縮の練習からだ」


 そう言ってメリ婆は庭に落ちている葉を手に取った。


「これを的に使って練習するよ。まずは木を貫けるように魔力を集中させてみな。ちゃんと圧縮できれば穴が開くはずさ」


「なるほど...」


 俺は木を見つめながら、どうやったら魔力を細く鋭く圧縮できるか考え始めた。


 これは単純な力任せじゃダメなんだろう、より繊細な制御が必要になりそうだ。


「よし、じゃあ練習始めるか」


「はぁ…もう始めていいのか??


 若干疲れてるライに説明して俺達は魔法の修行を始めた。これが中級魔法への第一歩。中々うまくいかないけれど...それが魔法の面白いところかもしれない。

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