小話 大人の語り合い
フィルとライ、二人の子供が眠ったことで静寂に包まれた夜の山小屋。小屋の中ではテーブルを囲んで三人の男が座り、それぞれ手にした酒を時折口に運びながら、静かに語り合っていた。窓から差し込む月明かりが、三人の表情を淡く照らしていた。
ダグラスは疲れた表情で首筋をさすりながら言った。
「悪かったな、呼んだがこちらが寝て」
ラロは心配そうに眉を寄せ、トットは大きく椅子に寄りかかり、片手を振りながら気楽な様子で言った。
「いえ…ダグラス様はフィル達が来てから一度も寝ていなかったのでしょう?本当はもっと休養して頂いてても大丈夫なんですよ?」
「そうだぜダグラス、あいつらは俺達が鍛えとくからよ」
「いや、俺だけ寝てるわけにもいかない。フィルとライも頑張っているんだ」
「…今日、フィルと修行して思いました…あの子は化けますね。十二で中級に合格するセンス、しっかりと指導を受け入れられて反省することが出来る謙虚さ、そして子供であのレベルの闘気。他にもありますが…全てが高水準です」
ラロが感心したように言うと、グラスの中の酒を優雅に揺らした。
「ほぉ、意外にベタ褒めじゃねぇの。まぁこっちのライも中々すごいぜ?大柄ってわけじゃねぇけど身体能力は結構高えし格闘センスもある、それとあの家系魔法のあれと連携がうまくできれば厄介だし。あとはライ自身に俺の格闘術を教えれば…結構いいとこまではいくんじゃねぇかなぁ」
ダグラスは両手を組み、穏やかな表情で二人を見た。
「お前達を呼んで正解だったようで安心だ」
「合ったりめーよ!ダグラスはドンと構えて待ってればいいんだよ」
「私も最善は尽くすつもりです」
「頼もしいな」
ふと、話が逸れる。
「そうだ、ラロと言ったな。今の騎士団はどうだ?何か変わったか?」
「ダグラス様が騎士団にいたのは数十年前ですよね?特に何か変わったことはないと思いますね。強いて言えば少し改装して綺麗なったことと、ご飯が美味しくなったってことですかね」
「おぉ、ご飯が上手くなったのは大事だな。やっぱ美味いもん食ったら力出るしよ」
「トット、お前はどうだ?しっかり先生できてたか?」
「あたりめーだろー?って言いてえけど難ったぜ。でも面白かったな、それに一人めちゃくちゃすげぇのがいてよ、あいつは大物になるぜ。年齢もフィルと一緒だからいつか会うこともあるかもな」
「どこの国にも芽はあるものだな」
「はっは!ちげぇねぇな」
トットの豪快な笑い声が響く。ダグラスの口元が緩んだ。
「ダグラス様も、昔は教えてたんでしょう?」
「ああ…今じゃ立派な騎士になった奴らも、昔は本当に手のかかる生徒だったよ」
「へえ!それ聞きてぇな!」
グラスが揺れる音と、三人の語り合う声が、静かな小屋の中に溶けていった。
「なら聞こう…フィルやライは四年で王ロードに勝てるようになるか?」
「無理ですね」「無理無理」
即答だった。ラロは眉を顰め、トットは首を横に振る。
「ダグラス様もご存知の通り王ロード達の強さは異次元です。勝とうとして勝てる様な者達ではない、現在学園で王ロードであるシャンラ様と一度だけ手合わせしたことがありますが…勝てるビジョンが見えませんでしたよ」
「俺ちゃんも戦ったことあるから分かっちまうけど、今からあいつらが四年でいけるとは思えねぇな」
「俺はそうは思わない」
「「!」」
「あの子達なら…ロードストーンを手に入れられると俺は信じる」
「一つよろしいでしょうか?」
「いいぞ」
ラロは慎重に言葉を選びながら、ダグラスに問い掛けた。
「ダグラス様、何故フィル達は王石ロードストーンにこだわっているんですか?フィルの様な子供が王石ロードストーンを狙うのは大抵の場合、四代貴族ですがフィルは違います。そして塵影メイスの様な賊でもないです。それなのに私達の様な者まで集めて指導させるほどの目的が分からないのです」
「それはオレちゃんも思ったけどよ〜事前に言えるならもう言ってんだろ。言わないってことは何かしらの事情があの二人にはあるってこった。ならオレらが出来んのはあいつらを強くしてやることだけってことだ」
「それもそうですね、流石トットさん」
「空気が読めなきゃあっちではやってけないんだよ」
「お前達は今後どういう修行をしていくつもりだ」
「私は基礎からしっかり矯正していくつもりですね、遅いと思われるかもしれませんが基礎が一番大事なので…まぁ皆伝までは習得させたいですね」
「ライはなぁ〜とりあえず筋肉つけさせて〜あとはオレちゃんの格闘術をバチこり仕込んでいくって感じだなぁ」
「分かった、その方針でいこう。さて、もう遅いな。明日も早いし寝るとするか」
ダグラスが立ち上がると、他の二人も続いた。
「ああ、でも最後に一つ言っておきたい」
振り返ったダグラスの表情は、今までにない真剣さを帯びていた。
「二人のことは…よろしく頼む」
「勿論です」「言われなくてもってやつだぜ」
力強い返事が、静寂の夜に響いた。
彼らは互いに会釈を交わすと、それぞれの部屋へと向かっていった。月明かりだけが残された部屋で、テーブルの上のグラスが月の光を静かに反射していた。




