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11話 闘気

「はぁ…やっぱ起きちゃうか…」


 窓の外を見てもまだ暗く静寂に包まれている。それもそのはず…フィルが起きた時刻は4時きっかり…日など昇っている訳もない。


 こんな時間にフィルが起きてしまったのは今までやっていた習慣のためだが…もう山に言って調査をする必要はない。


 とは言え、時間を無駄にする暇はない。それを自覚しているフィルは部屋を出て剣を持ち外へ出た。


(ロードの強さは分からないし想像持つかない…仮想敵はあの男にしよう。あいつに勝つためには新しい技を身につけなくちゃいけない。でも新しい技を習得できる基礎が俺にはない。それに既にに使える技の練度もない…基礎を鍛えるか)


 思い立ったが吉日、筋力をつけるために剣を持って険しい山道を走り込み。道中の魔物で技を振り、反省点を見つけては修正する様にまた振る。それを朝の7時までの三時間、フィルは止まることなくやり続けた。




 ▲▽▲▽▲▽▲





紫閃しせんはもっと早く出来る気がするな、ダグ爺に聞いてみるか」


 三時間の運動でかいた汗を拭いながら小屋に戻ると、既に朝食の準備が整っていた。テーブルには温かい玉子スープと焼きたてのパンが並び、ライとダグ爺が待っていた。


「フィル兄、もう修行してたのか?」


 ライが驚いた様子で声をかける。


「ああ、少しね。体が勝手に起きちゃって」


「早起きは良いことだ…後に支障が出なければな。それよりだ」


 ダグ爺が口を開いた。その表情は昨日よりも一層厳しい。


 フィルはパンを手に取りながら、真剣な面持ちでダグ爺の言葉に耳を傾けた。


「今日からの修行だが、まずはお前達には“闘気とうき”を鍛えてもらう。前に教えたから闘気は分かるな?」


「「勿論」」


 闘気とうき。それは本来体に自然と流れているエネルギーのことで、それをを体に纏うことで身体を強化することができる。纏える出力や量は基本的にその時の体調や気分に左右されるが練度を上げれば安定して高出力を出し続けることも可能だ。


 俺やライは随分前から闘気を理解して纏う技術を学ぶ修行をしていたが、今日から本腰を入れてやると言うことだろう。


「闘気の修行かぁ〜あんまり得意じゃねぇなぁ」


 ライは闘気を纏うのが苦手らしい、と言うかダグ爺が言うには魔法と闘気の両立はかなり難しいらしく魔法使える人ほど闘気を習得するのは難しくなるらしい。俺も魔法は使うけど別に苦戦はしなかった、ダグ爺曰くそこらへんは才能ってことらしい。


「フィルは更に練度を上げろ、お前は魔力と闘気とうきが邪魔し合わないのだから上げれば上げるだけいい。練度を上げれば闘気はより長く持つ、ロードとなれば魔力と闘気の両立など当然の心得だ。ライ、お前は闘気を纏うこと自体が出来てるだけだ、魔法を使いながら自分の限界を確かめつつ出力の上限を上げろ」


「「はい」」


「よし、一カ月でお前達の闘気を一段階上に持っていく。闘気の練り方をつきっきりで教えてやるが…俺にも仕事がある。自主訓練も欠かすな」


「自主訓練は勿論やるけどよ、どうして一カ月何だ?」


「それは一カ月後に新しい指導者が二人くるからだ」


「新しい指導者…?誰ですか?」


「知人の武道家と騎士団から一人、お前達に技を教えて貰う為に呼んだ。知人の実力は武道家の中なら抜きん出ているレベルの猛者、騎士団から来る奴のことは知らないが…現騎士団長が選んだ精鋭が来るはずだ」


「マジかよ」


「そんな人達が…俺達のために…」


「一カ月なんてあっという間だ。さっさと修行しに行くぞ」


 一カ月で闘気を最低でも騎士団の人達並みに鍛えてなきゃいけないのか。 今の自分のレベルがどのくらいかは分からないけど…きっとまだまだ足らないはず。一カ月…絶対間に合わせる。




 ▲▽▲▽▲▽▲





 朝の8時、山の中腹にある広い平地。


 フィルは岩の上に立ち、体全体に闘気を巡らせようと集中している。闘気の感覚をつかむため、呼吸を整え、体内を流れるエネルギーに意識を向ける。


 最初は微かな感覚、体の中心から指先、頭へとゆっくりとエネルギーを導いていく。


「ふぅ…」


 普段から闘気を使っているフィルは巡らせて解放、巡らせて解放、この同じ動作をなん度も繰り返す。闘気の練度を上げるにはとにかく使うか、長時間使用し続けるかなどで近道はない。


「くっ...」


 汗が額から滴り落ちる。闘気を全身に巡らせては解放という行為を繰り返して約3時間。フィルの呼吸が徐々に乱れ始めていた。


 体の芯から湧き上がるエネルギーを、まるで水が流れるように全身に巡らせる。指先、足の先、背中...体のすみずみまで意識を向け続ける作業は、想像以上に精神を消耗させた。


「まだだ...もう少し...」


 ダグ爺の言葉が頭をよぎる。限界まで持続させてからの解放が重要だと。しかし、ただ闘気を纏い続けるだけでは意味がない。より効率的に、より強く、より長く。


(闘気は魔力と違って上限がやればやるだけ伸びるんだ、やるしかない)


 フィルは岩の上で姿勢を正し直す。汗を拭う手すら惜しみ、再び深い呼吸を始める。


「はぁ...はぁ...」


 体の内側で渦巻くエネルギーが、少しずつ安定してきているのを感じる。最初は荒々しかった流れが、今では静かな川のように穏やかに循環していく。


(無意識にやることを意識的にって難しいな…案外)


 ふと、遠くから鳥のさえずりが聞こえてきた。昼時が近づいているのだろう。


「っ!」


 集中が途切れた瞬間、体を包んでいた闘気が霧のように消えていく。フィルは膝をつき、大きく息を吐いた。


「ふぅ...。まだまだだな」


 立ち上がろうとした瞬間、足に力が入らない。相当な疲労が体に蓄積していたようだ。


(案外疲れるな…使い続けるよりよっぽど)


 ふとライが頭をよぎる。ライは別の場所で魔法と闘気を同時に操ろうと頑張っているらしい。


(家系魔法の召喚獣か…まぁライなら行けるか)


 少しの休憩を得てまた戻る。




 一方その頃ライは…



『おいおいライ〜闘気が乱れまくってて話にならないレベルだけど大丈夫かぁ〜?せっかくダグラスが居なくなったんだから集中しよう〜ぜ?』


「お前がうるさくて集中できねぇんだよ!!いい加減黙れよぉ!」


『うるさいってもなぁ、戦う時なんかこれ以上にうるさいぜ?なのになぁ〜この程度で見出しちゃ訓練の意味がねぇよなぁ〜』


「正論なだけにイラつくな!」


 小さな虎型の召喚獣と喧嘩していた。


 訓練を始めて三時間、ライは苦戦を強いられている。理由は自分が家系魔法で呼び出した雷虎の“ザック”である。


 ライは最近になってザックを呼び出せる様になった為、未だしっかりとした制御ができていおらず、ライの言うことを聞くことがない。


 強制的に命令を課すことも無理。お手上げ状態であった。


 困って手で顔を覆ってるライに対し原因のザックは言った。


『それより本当に真面目にやらないとやばいんじゃないかぁ?後一カ月で武闘家来ちまうぜ?ボコボコにされちゃうぜ?』


「分かってる…分かってる。このままじゃいけねぇ」


『じゃあ早くやるぞやるぞ!俺だってそろそろ煽るの起きてきたし頑張ってくれ』


「こいつ…」


 自分の横で寝る体制を取ったザックに若干苛つきながら修行を続ける。


「ふぅ…」


(言い訳だ。ザックがうるさいから出来てねぇわけじゃない…俺の力量が足りてないだけだ)


 俺は何やってんだよ…強くなるんだろ…


 フィル兄だけに背負わせられねぇ…


 俺も強くならくちゃいけないのに…


 くっそ


 ザックを出しながら闘気を安定させるのがこんなに難しいなんてな、どうすりゃいいんだ。


『おい』


「んぁ?」


 寝てたはずのザックを見ると何やら怪訝な顔をしながらこっちを睨んでいる。


「どうしたんだよ、もっと寝ててもいいぜ」


『どうして俺様を出しながら修行してるんだ?別に魔法と闘気の両立って話なら他の魔法を使いながらでいいんじゃないか?』


「…絶対にお前が必要だから」


『んん?』


「今後強くなるのにお前の力が必要だから、だから他の魔法じゃダメなんだ」


 ダメなんだよ…あいつに勝つには他の魔法じゃよ


『…ライ、何で魔法と闘気が同時に使うのが難しいか知ってるかぁ?』


「んあ?しらねぇけど…なんか相性が悪いんじゃねぇの?」


「ちょっと違うな、魔力と闘気は別に反発しないんだ。体の方が拒絶しちまうんだ」


「どうゆうことだ??」


「体は魔力と闘気が同時に出ると異常が出たって拒絶反応出すんだ。だからうまーくやらなくちゃいけないんだ」


「なるほどな」


 ザックから聞いた理論は理解は出来る。ただそれを行うことは余りにも難しい、実際この三時間程度とはいえカケラもコツを掴めていない。


「ってもなぁ、体の中なんてよくわかんねぇし」


『だから俺様が協力してやる』


「はぁ?」


『だから俺が様が協力してやるって言ってんだよ』


「お前…騒ぐくらいしか出来ないじゃん」


『くっくっく、まぁ俺様の力を知ったらそんなことは言えなくなる。いくぜ』


 ザックはライに近づくと、その体を変形させる。


「えっ…おい!」


 輝きを増すザックの体が、ゆっくりと霧のように形を失い、まるで吸い込まれるようにライの胸に流れ込んでいった。


「うっ…熱っ!」


 体の中で雷が走るような衝撃。痛みはだんだんと和らぎ次に来たのは違和感、右手に何か…そう思って手を見ると金と黒で構成されたグローブが付けられていた。


「何だこれ?」


『俺様に決まってるだろ』


 突如頭にザックの声が響いた。


「何だこれ?どうなってんだ?」


『今はいいからとりあえず闘気使ってみろ、俺様の凄さが分かるはずだぜ』



 頭の中で響くザックの声に促され、ライは金と黒のグローブを纏った右手を見つめた。何言って…そう言葉を出すはずだった。言葉が出てなかった理由は簡単。今までとは明らかに違う感覚に襲われたからだ。


 普段は霧のように拡散してしまう闘気が、今回は驚くほど安定している。まるで体の中に道筋が作られたかのように、闘気が自然と流れていく。


「これは...」


 右手のグローブが淡く発光し始め、その表面を走る雷のような模様が鮮やかに輝き出した。


『へへっ、分かったか?』


 ザックの声が誇らしげに響く。


『俺様の力で魔力の流れを整えてやってるんだ。お前の体が拒絶しないように、魔力と闘気の通り道を作ってやってるってわけさ』


「まじか…」


 ライは驚きの表情で右手を翻す。グローブを通して流れる力は、確かに魔力だ。


「すげぇ...こんな感じなのか」


 徐々に慣れてきた感覚に、ライは笑みを浮かべた。


『まぁこの状態はあくまで補助だ。このままじゃ俺は戦えないしな。いずれはお前自身で同じことができるようにならなきゃいけないぜ〜』


「ああ...分かってる」


 ライは拳を握りしめる。グローブの表面で雷光が走る。


 ライの顔から悩みが消えた、だが突如として怒りが湧いてくる。


「分かるけどよぉ、こんなもんできるなら早く言えよ!!」


『はぁぁぁぁっぁぁぁ?お前が思ったより才能なかったのが悪いんだろ!!』


「最初からやれって!!」


『やめるぞ!!辞めちゃうぞ!!!』


「俺の召喚獣なら助けろよ!!」


『そゆうの良くないんだぞ!!てか出来なかった方が悪いだろ!』


「うるせぇよ!!!」


『はぁぁぁぁああああ?』


 喧嘩する一人と1匹、そんな二人の様子を見に来たダグラスは…


「ライの奴…頭でも打ったか?」


「「俺のが上だからな!!!」」









 ───────────────


 王都エルミナに聳え立つ要塞。白と黒の大理石が見事な調和を描くその建物は、王国が誇る双翼騎士団の本部だ。


 創設以来、双翼騎士団は剣と杖の二つの「翼」で構成されている。剣の道を極める騎士たちと、魔法の道を追求する魔導士たち。一見相反するかのような二つの力を、一つの組織として統合することで王国最強の軍事力を維持してきた。


 そんな騎士団本部を纏め上げる騎士団長に呼ばれた男がいた。長い廊下の突き当たり、重厚な木製の扉の前で男は立ち止まった。


(呼び出し…緊急要件…一体何でしょうかね)


 軽く襟元を整え、男は扉をノックした。重々しい音が廊下に響く。


「失礼します」


 扉を開けると部屋の中央にある大きな机で書類を読んでいた騎士団長が顔を上げた。


「おぉ〜来たかラロ。昼ご飯の時間なのに悪かったな」


 騎士団長は机の上の時計に目をやりながら、申し訳なさそうに微笑んだ。


「いえ、全然大丈夫なんですが…私、何かしましたかね?」


「いや?実はお前の実力見込んで頼みがあってな」


(頼み…命令ではなく頼みですか、思ったより厄介な案件そうで)


「とゆうと?」


「お前にとある子供に剣の指導をして欲しい」


(子供…?隠し子…?)


 表情が僅かに曇る。彼は一瞬躊躇った後、右手を軽く上げた。


「…別に団長の命令なら私は断れないので…3つほど質問しても?」


「もちろんいいぞ」


「まず何故私なんですか?剣術指南ならそうゆう仕事をしてる人達に頼めばいいじゃないですか」


「ちょっと訳ありな子だ。何でお前かって話は剣に癖がないやつで一番実力があるのがお前だからだ」


「2つ目にこの任務の任期はどのぐらいですか?」


「最低でも一年は覚悟してもらうかな」


「…では最後に、一体どこの貴族の隠し子ですか?」


「いや…隠し子っていうか貴族のですらないな。とある山に住んでるただの子供だ」


「なるほど…分かりました。その任務の詳細は追ってお願いします」


「ん?やってくれんのか?正直ダメもとだったんだけどな」


「別に団長からのお願いならなるべく叶えますよ。それに…少し興味があるので」


(団長が頼むなんて初めてですしね…まぁ恩返しですかね)


「そりゃありがとよ、じゃあお前も準備で色々あるだろうから…一カ月後に向かってくれ」


「分かりました。では失礼します…」


 廊下に出たラロは、疲れたように壁に寄りかかった。


「一カ月後…まずは皆さんに報告しますか…」


 彼は呟きながら、首筋を軽く揉みながらその場を去った。

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