服毒して生き残った王太子妃が視察に行かれるって本当ですか?【連作短編③】
「服毒して生き残ったら王太子妃になれるって本当ですか?」の続編を綴った連作短編になります。
【連作短編②】「服毒して生き残った婚約者が聖獣を召喚してから婚儀を行うって本当ですか?」のその後ですが、①②の今までのあらすじも書いてありますので、ここからお読みいただいてもお楽しみいただけます。
長くなってしまい、解決編は④に分けますのでご了承頂けますと幸いです。
見目麗しく、聡くて優しいルートロック王太子は38人の王太子妃候補の中から、どのような人物を選べば良いか長年悩んでいた。
母親である王妃陛下が毒により崩御していたので、毒に関する知識のある女性が好ましいと心のどこかで願っていたところ、ルートロック王太子が思いついた王太子妃の選抜方法が「服毒して生き残ったら王太子妃にする」という類を見ない決め方だった。
死に至る毒の入った盃も用意していたため、ご令嬢の誰一人として挑戦することもないだろうから王太子妃はしばらくは決まらないだろうと、その場に居合わせた誰もがそう思っていた。
しかし、王宮の広間で静かに手を挙げ、果敢にも服毒するという女性が現れた。彼女は毒を煽ったものの、殿下との会話を上手に誘導して毒を中和させることに成功する。
服毒をして自らの知恵で生き残り王太子妃になったアラマンダは、婚儀の前に『召喚の儀』を執り行った方が良いという創世記に基づき、儀式を執り行ったところ、数百年、王太子妃になる者で成功した例はなかったのにも関わらず、無事、聖獣を召喚することに成功した。
しかも、彼女が望んでいた聖獣を召喚し、婚儀を終えた後、初夜を迎えることができ、創世記の記載によれば聖獣召喚による恩恵として加護を授かっているはずなのだが、まだそれが何なのか明らかにはなっていない。いずれ真偽のほどはわかると思われ、ルートロック王太子もアラマンダ王太子妃も気に留めずに新婚生活を楽しみ始めていた。
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「ルートロック王太子殿下。新婚旅行などはいつ行かれますか?」
宰相のサルフは、年間のスケジュール調整が必要なので、どこに仕事を集約させて時間を作るべきか頭を悩ませていた。仕事人間のルートロック王太子殿下に甘い時間を過ごしてもらいたいという臣下としての想いも込めて、本人に尋ねてみたのだった。
「う~ん。今のところ、行けそうな時間は作れそうにないのだが、旅行はもう少し先でも良いのではないか? そんなに急いで新婚旅行に行かなくとも、すでに婚儀を執り行っただけで、王都だけでなく経済が動き出していると報告を受けてはいるが?」
(そうだった……このお方は……すぐに結びつけるのだから……)
王太子殿下がすぐに王室の慶弔を経済状況に結びつける癖があるのをサルフは失念していた。
「確かに、王太子妃殿下が身につけられていた、衣装や飾り、似たデザインの宝石類などは飛ぶように売れているとは耳にしておりますが……」
(お二人で甘い新婚時代を送らなくても良いのですかとはさすがに聞けそうにない……)
ルートロックは鼻でクスッと笑って、それだけではないのだと追加情報を宰相のサルフに伝える。
「彼女は、辺境伯領から王太子妃候補選びの選考会に王宮にやってきたことがあっただろう? あの時、彼女は単騎で、しかも帯刀までしてここまでやってきたことは知っていたか?」
「え? 存じ上げません……」
サルフは、心の中で今まで会ったことのないご令嬢だとは思っていたが、王太子妃選考会にまさか馬車ではなく、馬に跨って来ていたと知る由も無かった。
「ははは。アラマンダに問うてみたら、馬車だと間に合わないから馬で来ましたのよと言っていたな。なかなかやると思わないか?」
「左様でございますね……」
勇ましい女性だという事は服毒をして生き残った時点で思ってはいたのだが、まだまだ彼女ができることは数多くありそうだとサルフは心に留めておく。いつ無茶をおっしゃるかわからないので、気持ちの準備はいつもしておかないと……寿命が縮まるかもしれない。
「街道を馬で駆けるアラマンダを目撃していた平民やら下級貴族は、女性でもやはり乗馬くらいはできたほうが、いざという時に良いだろうと思ったらしく、馬術を習いたいという女性や子供が農村部や主要都市にも声としてあがってきているそうだぞ?」
「左様ですか……」
馬は高価な物だし、平民などは馬に力仕事をさせることはあっても乗りこなす必要はないとサルフは思っているが……このルートロック王太子殿下の口ぶりだと、続きがあるのだろう。
「まぁ、この件に関してはアラマンダに任せて、彼女の考えを尊重したいと思っているから、すでに彼女にどうしたら良いか対応策を検討するように託してある!」
「……相変わらず、仕事が早いですね」
宰相のサルフは、近い将来、この王国で女性が馬に跨って移動する姿を見るのは当たり前になるのだろうなと、青空にポツンと浮かぶ雲を窓の外に確認して、小さくため息をついた。
改革が好きで、前例のないことに取り組みたがる苛烈な二人が夫婦になったのだから……この王国はどんどん変わっていくのだろう。
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その頃、アラマンダは自室に籠って聖獣の猫様との会話を楽しんでいた。
「猫様……その……お名前をお伺いしていなかったので、お名前をお伺いしても?」
「? 名前などない。そなたが好きに名付けて呼べば良いにゃ」
「そうなのですね……それではメオ様とお呼びしても宜しいですか?」
「我の鳴き声がそのまま名前になった感じだが……響きは良いにぁ。よし、我の名はメオにしよう」
うふふふふと笑いながら、膝の上に座るメオ様の白い毛並みを優しくなでてアラマンダは顔をほころばしている。
「メオ様が人語を話されるとは思いませんでした。私の話す内容だけ理解していらっしゃるなとは思っていたのですが……」
「あぁ、召喚された時はまだ人語は話せなんだ。そなたとルートロック王太子が婚儀を終えて、初夜を迎えただろう? 恩恵の加護を与えはしたが、そなただけでなく、恩恵を与えた我にも恩恵ができるのにゃ。それで、人語が話せるようになった」
「あら……そうなのですね。では、私にも恩恵による加護が授かっているのですね?」
アラマンダは、自分の手をこすり合わせて触ってみるけれど、以前と何も変わっていないので自分では何も感じとることができない。
「そなたへの加護は、そのうちわかるだろう。我が人語を話せるようになったことは、他言無用ぞ? 気味悪がられるからにゃ」
(時々、発音しにくいのか無意識なのか猫語が混ざっているところが、何ともお可愛らしいですわ~)
アラマンダは、人語に猫語が混ざっていることは敢えて指摘しない。
(お気づきになられて、直されてしまったら……私、楽しめませんもの……)
「王太子殿下にも秘密にしたほうが良いでしょうか?」
「ん~。あやつは気味悪がったりしない人物だろうにゃ。あやつには話しても構わないにゃ」
「ありがとうございます」
(では、機会を見て殿下にはメオ様が人語を話せることをお話しておきましょう)
アラマンダは、メオ様の名づけしたことと合わせて伝える事にした。
「そういえば、北部の国境沿いの気が乱れておるにゃ」
「えっと、メオ様。それは、何か問題が発生していそうだということでしょうか?」
「そうだと思うにゃ」
「まぁ、それはいけませんね」
アラマンダは、顎に手を当てて、しばし考え込む。
(そういえば、平民と下級貴族の女性の方が馬術に興味を示されているから、何か考えてみてくれとも殿下はおっしゃっていましたわよね)
アラマンダは急ぎ、殿下に取次をお願いする文をしたためた。
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「ルートロック王太子殿下。お願いがございまして参りました」
王太子殿下は、聡いアラマンダからの”お願い”という言葉に心がくすぐられて、どんな事案を持ち出してくるのかと心を躍らせる。彼女からの無理難題に応えることができるのは、夫である自分だけの特権だと思って、顔が自然とにやけてしまう。
アラマンダは両腕に猫様を抱いた状態で、王太子の執務室に入ってきたが執務室に入った途端、アラマンダの腕から猫様がピョンッと飛び降りて、ルートロック王太子殿下の足元をぐるりと一周して純白でふわふわとした毛をこすりつけて来た。
「ははは。私も少しは猫様に気に入ってもらえているのだろうか」
「ルートロック殿下、お名前が決まりましたの。猫様はメオ様とお呼びすることに致しましたわ」
「へぇ~。良い名だね。猫様、私もメオ様とお呼びしても?」
「にゃ~」
(メオ様は、本当にこちらの言葉をよく理解しておられるな)
ルートロックは聖獣である猫に話しかけることで、メオ様が人語を本当に理解しているのか再度確認をしてみる。
メオ様がきちんと返事をしたことで、こちらの話は全て理解しているとルートロックは判断した。
アラマンダにとっても、この国にとっても聖獣であるのだから大切に接しなければいけないなと改めて気を引き締める。
(私の聖獣であるドラゴンよりも、はるかに上回る能力をお持ちだからな)
ルートロックは、メオ様がレベル9999を遥かに上回り、測定不能となった『召喚の儀』を思い出す。
「それで、アラマンダ。お願いというのは?」
「うふふふ。メオ様からのご助言をいただきましたので、北部の国境近くに視察に行くことを許可していただきたいのです」
殿下はしばしの間、固まる。王太子妃になったばかりの女性をすぐに視察に出しても良いものか……。
(まぁ。きっとメオ様も一緒に行かれるに違いない。それであれば、問題はないのだろう)
ルートロックは、アラマンダが「メオ様からのご助言」という言葉を発言したことで、メオ様は人語でアラマンダに北部の国境付近に気になる何かがあると伝えたに違いないと推察する。
聖獣が助言したなら、それは最重要案件に違いない。許可を出すに決まっている。
「あぁ。許可しよう。もちろん、メオ様にはアラマンダにご同行願いたいのだが、対外的にも女性と猫の組み合わせだけで、しかも王太子妃が外出したとなると、何かと物申してくる連中もいるから、護衛騎士を二名だけ連れて行ってくれないか?」
ルートロックは、アラマンダとメオ様の両方に言葉を投げかける。
「にゃ~」
「かしこまりました。許可を下さりありがとうございます」
やはり、メオ様は翡翠色の綺麗な瞳をルートロックに向けて、目を細めながらきちんと返事をしてくれる。聖獣のご意向にも沿えた形になったのだとルートロックは胸をなで下ろした。
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「アラマンダ王太子妃が視察に行かれるって本当ですか?」
宰相のサルフは、「何を寝ぼけたことをおっしゃっているのですか」と、でも言いたそうな顔で殿下であるルートロックに問い詰めてくる。まだ婚儀を挙げて、間もないのにすぐに北部の寒い地域である国境沿いに視察に行くのをルートロックが簡単に許可を出したと聞いて、イカれた夫婦だと心の中で嘆いていた。
各国から届いている祝いの品や手紙に対する返事は誰が書くと思っているのか。婚儀が終わってもやるべきことはまだたくさんあるのに、今、この時期に視察に行かなければならない理由がサルフには理解できなかった。
「サルフの言いたいことも理解できる。でも、聖獣である猫様からのご助言があったらしいのだ。それは、何にも先んじてもやるべきことだと私もアラマンダも考えているからな」
「猫様が……ですか……」
聖獣には到底見えない可愛くてふわふわしている白い猫をサルフは思い出して、ふぅと溜息をつく。
アレを聖獣だと言ってしまえば、誰も逆らえないとわかっておっしゃっているのだろうか。
宰相のサルフは、いまだあの猫が聖獣だとは思えないが、『召喚の間』の部屋から現れたことも間違いない。最初からあの部屋に入り込んでいたなら、話は別だが……聖獣であるかどうかはいまだ半信半疑のままである。
「北部国境付近への旅程の件は、アラマンダと打ち合わせをして彼女のやりやすい旅程で組んでくれ。あと、護衛騎士は二名で……腕の立つ者で、なおかつ猫好きの者で宜しく頼む」
「……かしこまりました」
「ちなみに各国への婚儀の品に対する返礼の品やお礼の手紙はすでに、アラマンダも私も書き終えてそこにまとめておいてあるから、それも宜しく頼む」
(……さすがです。いつの間に手紙を書いていらっしゃったのでしょうか。お二人で執務をされると……とても、早く片付くような気がするのは……恐らく気のせいではないのでしょうな)
サルフは、すでに王太子殿下と王太子妃殿下のやるべき仕事が終えられていることに、驚くとともに安堵する。そんな仕事をがむしゃらにやっている素振りを見せないのに、気が付けば仕事がすでにお二人とも終わっている状況だった。
これならば、アラマンダ王太子妃殿下の視察に文句は誰も言えないはずだ。
やるべきことはやっているのだから。
サルフは、一度言い出したらこのルートロック王太子殿下が意見を変えることはないことは承知していたので、坦々と仕事をこなし、アラマンダ王太子妃の視察の準備をすることに専念した。
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翌日。
「では、ルートロック王太子殿下。行ってきますわ!」
「にゃ~」
一人で騎乗し、彼女と手綱の間には、器用に馬上に座ったメオ様がいる。
(ははは。何とも愛らしい姿だな。しばらく彼女の可愛い笑顔に会えないのだから、目に焼き付けておこう)
ルートロックは、しばしの別れでアラマンダの顔が見られなくなることを切なく感じていた。
「あぁ、アラマンダも気を付けて。何かあれば連絡を頼む。だが、火急の件であれば、私の許可なしにアラマンダの判断で指示を出してもらってかまわない」
「感謝いたします」
(あぁ、騎乗する前にアラマンダに抱擁はしたけれど、何となく胸が寂しく感じるのは仕方がない。私は彼女のやり遂げようとしている何かの報告を楽しみに待つことにしよう)
ルートロックは、護衛騎士二人にもアラマンダ王太子妃の判断で行動するように、再度、釘を刺してから、三人とメオ様の出立を見送った。
ルートロックの背後で、一緒に見送っていた宰相のサルフは、まさか翌日に出立するとは思っていなかったので、昨晩は徹夜になってしまい目の下には隈が出来ている。
(まさか、昨日の今日で出立なさるとは……もはや常人の物差しで王太子妃殿下の考えを推し量ってはいけないと、何度も自覚していたのに、私はまたしても失敗してしまった……)
宰相のサルフは、北部の国境周辺の地図や旅程での注意事項、風土、気候について王太子妃に資料を用意していただのだが、彼女はすでに昨日のうちには自分で資料を用意して目を通した上に、記憶までしていると今朝、ニコッと微笑みながら発言されたことを想い出す。
でも、急いで出立に同行することになった護衛騎士の二人は、情報が少なすぎるので彼らの為に資料を用意したのだとサルフは思うことにした。
無駄なことなど一つもないはずなのだから。徹夜で用意した資料が必ず必要になる時がくるはずなのだと信じることにした。
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王城を出立して、ちょうど十日目の昼に目的地である北部のライチェという街に到着した。
北側には東西に山脈があり、山脈の頂には白い雪が遠くからでも確認できる。十日の旅程でも、北上するにつれて、アラマンダの白い頬に冷たい風が当たるようになった。
もともとアラマンダは辺境伯のご令嬢だが、馬も操られるし剣を履いてもいたから、今回は着慣れている旅装束で外套を纏っている。
どこからどう見ても一国の王太子妃には見えなかった。
ただ、そんな装いであっても、白くてふわふわの猫を片手に抱いていたり、肩に乗せて歩いていたりするので、街に入ってからも周りの人からは親近感を感じてもらえたようで、声をかけてもらうことがしばしばあった。
「ん~。ひとまず、この街を散策して違和感がないか見てみましょうか。それから更に北の村と駐屯地を訪ねてみようかしら」
「はい。かしこまりました」
二人の護衛騎士、アラマンダ、メオ様は昼食を食べに街で人気だという食堂に入って、食事をとる事にした。
名物であるオムレツを注文してから料理が運ばれてくるまでの間、アラマンダは全神経を集中させて周りの会話に意識を飛ばす。
「おい、聞いたか? また倒れたらしいってよ」
「何だか気味が悪いなぁ。寝込んでから次の日にはすでに冷たくなってたらしいじゃないか」
「俺も知り合いも一昨日、倒れてそのままお陀仏だとよ」
(やはり……何かおかしいわね。王都にはまだ入ってきていない情報で、この地域で何か問題が起こっているようだわ)
アラマンダは、足元でミルクをもらって飲んでいるメオ様に視線を向けると、メオ様は「にゃー」と鳴き声を上げる。
(ビンゴね。メオ様は、ここで起きている問題を解決させるために私を連れてきてくださったのだわ)
アラマンダは、メオ様が助言してくれたことに感謝をする。
(さて、食堂を出たら今、会話をしていた男性たちに声をかけて、どこの地域で亡くなっている人がいるのか聞かないといけないわね)
アラマンダは、護衛騎士にも目で合図して、食事を終えると食堂の外で待機をして、不穏な会話をしていた男性たちが道に出てきてから声をかけることに成功した。
「……あの……先ほど、会話が聞こえてしまったのですが、亡くなった方がいらっしゃるのはどこの地域ですか? 実は、私は旅をしているのですがその危険な地域を避けて行こうかと迷っておりまして……」
男性たちの顔の表情が強張るのがよくわかる。
(それほどまでに、恐ろしい何かが起こっているのですね。早く解決しないといけませんわ)
「だいたいの場所だけでも……教えていただけると嬉しいのですが……」
「俺たちはこの先の北の山脈の街道を北から南へ通って、ここまでやってきたんだが、北側に向かう街道には行かない方がいいとしか言えないな」
「ありがとうございます」
男性たちはあまり多くを語りたがらなかった。原因が何かわからないから、どこの地域が問題の発生地点なのかは彼らもわからないのだろう。
(ん~。食堂での会話から察するに、人に感染する病気かしら……。それ以外にありえるのは、食べ物。あとは環境起因の何かかしら)
アラマンダは、本で読んだことのある知識から、十分な飲み水、食料、清潔な布をこの街で買って、それを馬に積めるだけ載せる。
(ここから先は、原因がわからないから現地での飲み水や食べ物は口にしない方がいいわね)
アラマンダは、護衛騎士の二人にも同様の指示を出し、口元も布で覆ってからひとまず街道沿いにある村を目指した。
彼女は、噂で怖がったりはせずに自分の目で何が起こっているのか確かめて、それから判断したいと思っている。王太子妃としては、問題のある行動なのは間違いないのだが、きっとメオ様が傍にいる限り加護があるに違いないし、メオ様が行くように助言をしてくれたのだから、それはアラマンダになら解決できる事案なのだと思い、彼女は馬で更に北の地に駆けて行った。
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村に到着すると、一つの小さな木造でできた家屋の外に人が群がっているのが見えた。
(何かあったのだわ)
急に背筋に寒気が走る。口元に布を巻いているアラマンダだけではない。寒い地域で雪も舞い降りてきているので、集まった人たちで顔を覆っている人は多かった。
アラマンダは戸口の外から様子を伺う。
(亡くなったのは……二人かしら……。しかも同じ日に?)
「仲の良い夫婦だったのによぉ……」
「昨日までは、元気だったのにどうしてこんなことに……」
亡くなったのは老夫婦のようだ。戸口の外から中をチラッと覗きみる。
(!! ……あれは……)
アラマンダは、一つの可能性に思い至る。
同じ日に亡くなったとしたら、食べ物の可能性が高い。けれど、それで決めつけてしまうと視野が狭くなってしまうことはわかっていたので、まだ断定はしない。
(……でも、あの紫色の顔に、泡を吹いた口元……)
アラマンダは、全ての可能性を考えて、その可能性を全て残しておきながらも、一番、正解に近い考えを自分の知識の中から選びとる。
(……あれは、毒……ね)
辺境伯領で、敵国からこっそりと運びこまれる毒を何度も目にしていたし、その手に入れた毒を用いて、毒の耐性を付けたり、解毒剤を作ったり、いろんな知識を詰め込んでいる彼女が導いた答えは「毒」が一番近いように思われた。
「そうね。まだ答えを絞るには早計すぎるわ。もっと情報収集を行って、原因を突き止めることができるまでは、それ以外の可能性は残しておくべきだわ」
アラマンダは、一つ一つの情報という名のパズルを組み合わせてから、原因を突き止めることが一番大事だと思い、慌てずパズルのピースを集めることから始めることにした。
結果、彼女が一つずつの情報を精査していったおかげで、原因を突き止め、早く問題を解決することができた。この話は後世まで語り続けられるのだが、どうやって彼女が解決の糸口を見つけたのかは、また次回。
お読みいただきありがとうございました。
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