エピソード0.5
ー平凡ー
国は魔王復活の脅威により、冒険者ギルドが活発になっていた。
冒険者ギルドでは冒険者達がクエストをうけ、国の助けとなっている
「あぁ、貴方様が勇者なのですね!」
「な、なんですか!? ここは? なんで俺はここにいるんだ!?」
王の目の前には、一人の少年が立っていた。この少年は何の変哲もない学生であり、勇者などではない。
しかし、この国にとっては違った。
彼はこの国を救うために召喚された、その事実だけで王に勇者とされたのだ。
「あの、困ります……俺帰らないと……」
「勇者に帰り道など無い。これから復活する魔王に備え、強さを身に着けろ」
「そ、そんな……なんで俺なんかが選ばれたんですか! 意味がわかりません!」
少年は困惑した、何故自分なのか。特別な何かがあったのか? 否、ただの偶然である。
召喚陣の近くにいた
ただそれだけで異世界の運命を託されたのだった。
「ふざけるな……!」
しかし王は聞こえていないかのように言い放つ。
「この国を守るのはお前だ……まずは冒険者ギルドにいき強くなれ。話はそれからだ」
「待ってください! 俺はやるなんて一言も__」
周囲に立っていた近衛兵に少年は腕をつかまれ、王の元から引き剥がされる。近衛兵はそのまま少年を引きずり、外へ放り出してしまったのだ。
「まって、待ってください! いやだ……離せ!」
ただの学生が鍛えている近衛兵にかなうわけもなく、少年は無力に話し合いさえもできなかった。
ーギルドー
「なんでこんな事に……」
少年は肩を落とし、冒険者ギルドに足を運ぶ。冒険者ギルドへの道はイラスト付きの看板により、迷うこと無く到着できた。
ギルド内へ入ると賑やかな話し声が聞こえ、鉄や革の擦れる音や強い酒の匂いがしてくる。少年は受付にいき話をした。
何故選ばれたのか、自分が魔王を倒さなくてはならないのか、様々な疑問を口に出す。
受付嬢は答える、この国を守れる人が必要だったのだと。
しかしそんな答えでは納得できない。自分には家族がいて、帰らなくてはならないのだ。
少年は抗議した、しかし返ってくる答えは非情なものだった。
「もしも勇者になることを拒否すれば、極刑になるかもしれません……」
「え……?」
一瞬頭が真っ白になる。何を言われたのだろうか、心が理解を拒否している。
「嘘……ですよね……?」
そう聞き返すも受付嬢は首を振るばかりだ。
足に力が入らなくなり、崩れ落ちそうになる。指先がしびれ心臓が早鐘を打つ。
『死ぬかもしれない』
その事実が頭を強く殴った。
声は震えていた。少年は肩を震わせ、拳を強く握る。その様子を見た受付嬢は街を散策することを提案した。少年はひとまずその指示に従うことにする。
ー街ー
街は活気に溢れていて、子どもたちが走り回っている。その光景には魔王なんて存在が本当はいないと思わせる雰囲気が漂っていた。
あちらこちらを散策した少年は、泣いている少女を発見する。
「どうしたの? 迷子かな?」
「うぅ……お母さんが何処かに行っちゃった……ぐすっ……」
「じゃあ、俺がお母さんを探してあげるよ!」
少女に手を差し伸べ歩き出す。少年はその一瞬だけ自分の現状を忘れていた。
しばらく歩いていると少女が手を離し駆けていく。どうやら母親を見つけたようだ。
少女に手を振り少年は思う。
『もしも俺が居なくなったら、家族はどうするんだろう』
『もし魔王を倒せば帰れるかもしれない、誰かが助かるかもしれない』
少年は再びギルドへ戻る。
「あの、俺やってみようと思います」
受付嬢にそう声をかけた。受付嬢はとても驚き聞き返す。その問いに少年は
「帰れないなら、やるしかないじゃないですか……!」
「でも……少ない可能性でも帰れるかもしれないなら、戦って生き延びてみせる! 俺は俺の意思でどんな手を使っても、この世界を生き抜いてやるんだ!」
それで誰かが救われたら良い、少年はそう考えていた。受付嬢はその言葉に笑顔を返す。チャレンジするのは良いことだ、と。
少年は強くなる決意をした。
まずは行動あるのみ、そう決めた少年は魔王を倒すことを目指し歩き出した。