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エピソード13.5
店の奥の一角。外の喧騒が遠ざかり、閉店後の静けさが店内に満ちていた。
わずかに残る灯りがテーブルをぼんやりと照らし、紙の擦れる音が静寂に溶ける。
テーブルの上には、何冊かの古びた本が広げられ、ナルとリトが肩を寄せ合うように座っている。
ナルは真剣な表情で文字をなぞりながら、小さく呟いた。
「……えっと、まほう……花?」
ナルは隣で苦戦しつつも、一生懸命にページをめくる。
僕は微笑みながら頷いた。
「その通り、魔法花だ。魔力を蓄える大切な植物だよ」
ナルは目を輝かせ、指先でページをトントンと弾ませながら、思わず身を乗り出した。
「やった! おれ、初めて読めた!」
リトも少し照れたように微笑み、
「一単語だけど、ちゃんと意味を掴めたんだね。すごいよ」
と静かに言った。
僕は二人を見守りながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「君たちがこうして本を読めるようになったのは、努力の成果だよ」
束の間の温もり。ふと、そんなことを思う。