桃太郎の超おばあさん
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。
おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おばあさんが洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきます。
「まぁ、なんておいしそうな桃でしょうねぇ」
おばあさんはにこにこ笑って、(新生児+羊水+果肉=推定10kgの)桃を軽々拾い上げると、右腕に桃、左腕に洗い終わった洗濯物の籠を担いで家に帰りました。
家に帰ったおじいさんとおばあさんが桃を食べようと割ってみると、あら不思議。
「おぎゃぁおぎゃぁ!」
桃の中から元気な男の赤ちゃんが生まれたではありませんか。
「子のいないわしらのため、神様が授けてくださったにちがいない」
たいそう喜んだ二人は、男の子に桃から生まれた『桃太郎』と名前を付けて大切に育てました。(桃はおいしくいただきました)
愛情深く育てられた桃太郎はすくすくと大きくなり、勇敢な少年に成長しました。
そのころ、町では鬼ヶ島の鬼たちがやってきて悪さをするようになりました。
鬼が暴れて食べ物やお酒、財宝を盗んだという話を聞いた桃太郎は、おじいさんとおばあさんに言いました。
「おじいさん、おばあさん、僕は鬼ヶ島に行って鬼退治をしてきます。悪い鬼たちを懲らしめて、町のみんなを助けたいのです」
二人は桃太郎の優しさに心打たれながらも、危険な旅に出ることに反対しました。特に、桃太郎を溺愛するおばあさんは猛反対しました。
「私の大切な桃太郎にそんな危ないことはさせられないわ!どうしてもというなら……私が行く!」
「おばあさんが!?」
屈強な鬼の大群相手に、か弱い老女が何をできるというのでしょう。それこそ無謀というものです。という趣旨の話をオブラートに包んで訴える桃太郎に、おばあさんはニヒルな笑みを浮かべました。
「桃太郎や、心配しなくても良いのよ。私には……これがある」
そういっておばあさんが取り出したのは、神聖な光を放つ黍団子でした。おじいさんがカッ!と目を見開きます。
「そ、それは……!伝説の秘薬『慧璃紅裟亜』を練りこんだ究極の『超黍団子』!!!」
「なんて???」
慄くおじいさんと展開についていけない桃太郎の前で、おばあさんは超黍団子をぱくりと食べました。
すると、どうでしょう!おばあさんの手足はみるみる筋肉が盛り上がり、着物の袖がはじけ飛びました。
「おぉ……思い出すのぅ、若かりし頃の過ちを……遊郭通いがバレておばあさんに半殺しにされた日のあの光景がよみがえるようじゃ……」
「育て親のそんな一面知りたくなかった」
などと男連中が言っている間に、おばあさんは弱々しい老婆から筋骨隆々の戦士へと変貌を遂げました。
「フハハハハハ!!!待っておれ、鬼ども!!!可愛い桃太郎に鬼退治など決意させた、悪逆無道の輩よ!!!血祭りにあげてくれるわ!!!」
おばあさんは山姥も裸足で逃げ出しそうな憤怒の表情で家を飛び出すと、猛然と走りだしました。
ヒューン!!!
F1のレーシングカーのような音を立てて爆走するおばあさん。
「「「あれ、今なんか通った?」」」
そのあまりの速さに、犬、猿、雉はおばあさんの姿を目視することすらできませんでした。
あっという間に海岸へたどり着いたおばあさんは、着衣のまま(だって淑女ですから)海に飛び込み鬼ヶ島に向かって泳ぎました。
「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
セーヌ川さえ平然と泳ぎそうな形相でおばあさんが驀進します。
一方そのころ鬼ヶ島では、鬼たちが町から奪ったお酒とご馳走を囲んで宴会をしていました。
と、見張りの下っ端鬼が、何やら海の向こうからすさまじい勢いでこちらに向かってくる水柱に気づきました。
「な、なんだ、アレは……!?ひっ、婆だ!なんかものすごく戦闘力の高そうな鬼婆が近づいて来るぞぉ!!!」
と、仲間たちに警告したころには時すでに遅し。
「マダムとお呼び!!!」
海から上がったおばあさんが跳躍し、見張り鬼を張り倒しました。
「な、なんだ、何が起こった!?」
ろくに戦闘態勢にも入れない鬼たちを、おばあさんは鋭い眼光で睨みつけました。
「悪い子はいねぇがぁああ!!!?盗み、殺し、極悪非道の限りを尽くさんとする悪い鬼は、モンペ服美老女戦士モンペ☆マダムがお天道様に代わってお仕置きじゃぁぁ!!!」
やめてくださいセー〇ームーンガチファンに作者が怒られたらどうするんですか。
「落ち着け、敵は一人だ、囲め囲めぇ!!」
気を取り直した鬼の親分が子分たちを叱咤しますが、酔っぱらって千鳥足の鬼が束になろうと超強化おばあさんには敵いません。
「遅い、弱い!その程度で我が奥義・阿修羅神拳を止められると思うな!!!」
おばあさんは向かってくる鬼をひっ捕まえては虎皮のパンツをはぎ取り、神速のお尻たたきをお見舞いしました。
「ひぃいい、痛い、いてぇよ!!!」
「助けてくれぇ!!!」
あまりの痛みにお尻を押さえて悶絶する子分鬼たち。
「おまえたち!今助けるぞ!!!」
鬼の親分が、絵面だけは勇者のようにおばあさんに立ち向かいます。
「これでも食らえ!!!」
鬼の親分はおばあさんに向かって金棒を振り下ろしました。
しかしおばあさんは人差し指を差し出しただけで金棒を受け止めて見せました。鬼がどんなに力を込めても金棒はピクリとも動きません。
「クク……ぼうや、それがお前さんの本気なのかい?」
「くっ……!」
「そうかい……ならば今度は私から行かせてもらうとするかねぇ」
おばあさんは軽く指をはじくことで金棒をくるりと半回転させて得物を奪うと、金棒をぽいと後ろへ投げ捨てました。そして親分の襟首をつかみ、腹に重い膝蹴りを食らわせて折りたたむと、おしりをむき出しにしました。
「悪い子だね、悪い子だね、悪い子だね!!!」
パァン!パァン!パァンッ!!!
気合一閃、瞬きの間に百のお尻たたきが炸裂します。
「アアアアアア゛アアァアア゛アアアッ!!!」
鬼の親分もその様子を見た子分たちも、地獄はここにあったのだと思い知りました。
「ごめんなさい、もう悪いことはしませぇん!!!」
全員が這いつくばって許しを請うと、おばあさんは腕を組んで鬼たちを睥睨しました。
「謝る相手は町の人たちじゃ。ここの財宝とお酒にごちそう、全部返してもらったところで被害総額には満たないねぇ。足りない分は働いて返してもらうよ!」
「「「イエス!イエスマダム!!!」」」
忠実な下僕となった鬼たちは、おばあさんを姫君のように丁重に船へお乗せすると、盗んだものもまとめて町へ送りました。
その途中、黍団子の変身効果が切れて元に戻ったおばあさんを見て
(今なら返り討ちにできるんじゃね?)
と血迷った鬼の親分でしたが、おばあさんがクルミを指先で割っているのを見て一瞬で諦めました。
おばあさんと財宝その他諸々を担いだ鬼たちを見た町の人々はいっとき恐慌状態に陥りましたが、おばあさんからいきさつを聞くと大喜び。
鬼が食べてしまった分の食べ物とお酒も働いて返してもらいました。
そうして家に帰ったおばあさんは、おじいさんと桃太郎の三人でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。