白兎と金木犀の香り
「うん、分かった。じゃあここで待ってるね」
早速、天明から双剣の扱いを習うべく、玲がスマホで連絡してくれた訳だが、正直初めて会う人なので緊張する。
ましてや、あのボスと従兄弟だと聞かされたから余計にどんな人か気になり、先程からソワソワして落ち着かない。
「大丈夫か?天明さんは優しいから落ち着けって」
「いや緊張するよ…全然出来なかったらどうしよう」
壁に立てかけてある先程の双剣をチラリと見ながら猿田に言えば、そん時はそんときと軽い返事が帰ってきた。
なにそれ…と不安気に言えば、電話を終えた玲はにこりと笑って更に不安を仰ぐ
「全然センスないネ、とかは言われるかも」
「え?」
「あぁ、言うね」
「天明さんって俺のお師匠なんだけどさ、穏やかそうに見えて…結構はっきり言う性格なんだ」
「師匠…?」
「そう、俺に双剣の良さを教えてくれた人でさ。とにかく、剣を扱う姿はかっこいいんだ」
「しかも、チャイナ服だから余計様になってんだよな」
天明は玲に双剣を伝授してくれたお師匠らしく
彼の剣の扱いは、とてもかっこいいのだとか
服装も中国独特のパオを着ているという事は、見栄えも相待って更に目を惹くだろう
「ボスの従兄弟って事はやっぱり似てるのかな?」
「んー…確かにふとした時は似てるなぁって思うけど、雰囲気は全く違うよ。ボスは禍々しいけど師匠はほんわかしてる」
「おい、禍々しいってなんだよ?かっこいいだろ?天明さんもかっこいいけど、系統がちがうんだよな」
玲の禍々しいは、何となく納得できるけれどボス大好きな猿田は、言い方が気に入らなかったらしい
正直、天明を見た事がないため何とも言えないが、王蓮は確かに話しかけにくい雰囲気がある。
実際、話してみればそうでもないが、初めの印象は玲の言う通り、禍々しい雰囲気を醸し出しているのは確かだ。
チリーン
3人で天明の話しで盛り上がっていれば、エレベーターが着く機械音が聞こえてきた
ドアが開くと同時に、室内の中に金木犀の良い香りが広がっていく
「あ!師匠来た!おはようございます!」
「おはよ、待たせた?」
駆け足で天明の元まで駆けていく玲について行くと、更に金木犀の甘い香りが増して香りがいい。
師匠と呼ばれた人物は、白髪の長い髪を三つ編みでひとつにまとめ、赤いパオを着たオシャレな男性
サングラスをしている隙間から、王蓮と同じ真っ赤な瞳が見えた。
手には日傘、いや唐傘を持っており、太陽避けなのだろうか
この服装で唐傘を差し、街中を歩いていればかなり目立ちそうだ。
白い髪もどこか儚げで、赤い瞳のせいだろうか?
彼を見ると、白い兎の様に見えてしまうのは、多分天明の醸し出す雰囲気が、柔らかいからかも知れない。
中国独特の服装も相まり、彼を珍し気に眺めていれば、ぱちりとサングラス越しの天明と目が合った。
慌てて挨拶をすれば、天明はサングラスを手に取ると、にこりと微笑んだ
「あぁ〜王蓮が言ってた子だ、うに?僕は龍天明、よろしくネ」
「師匠、うにじゃなくて海だよ」
「うみか、ごめん」
サングラスを外した天明の顔つきは、やはり王蓮と似ており綺麗な顔をしていた
こうして見ると龍家は、美形の一族なのだろうか?そう思う程に2人の顔はよく整っている
ただ、ひとつだけ違うのは先程ふたりが言っていた通り、天明の話し方は若干カタコト。
それに加え彼の声は穏やかで、とても心地が良い
「いえ!改めてよろしくお願いします」
「うん。王蓮が、海は士郎の彼女って言ってたけど本当なの?」
不意に、意味のわからない事を口にした天明に
首を傾げていれば、全力で違うよと訂正する猿田強士郎。
「いやいやいや!!それボスの冗談ですって」
「へぇー?!士郎さんそうだったの?」
「ちげーって!何でお前までノッて来んの?どう見ても違うでしょ?」
確かに、普通に考えれば年齢的に兄妹の方がしっくりくる。
先程から強く否定する猿田の気持ちは分かるが、そこまで全力で、しかも強く否定されるとなんだか少し腹が立つのはなんでだろうか?
言わせてもらうと私にだって選ぶ権利はあるのだ。
勝手に、こんなうるさい男の彼女だと思われるのは私だって心外だ
「うんうん、私だって人選ぶよ」
「そうそう、って…お前それ失礼じゃない?」
「確かにそうだね、海にも選ぶ権利はある」
「ええ…?天明さん、酷くない?」
違う違うと言い訂正をしていく男に、はっきりと言えば、最初は同意していた猿田は、私の言葉の意味を理解したのか、一瞬で不機嫌な顔になっていく。
しかし、私の言葉に天明が賛同したものだから猿田は急に何も言えなくなり、もう良いよと不貞腐れ始めた
玲はいじける猿田の背中をポンポンと軽く叩き、更に一言とどめを指した
「フラれたね、先輩」
「うるせー…お前、ほんと可愛くない」
にこりと笑い、猿田を励ましているつもりだろうけれど、余計相手の傷を増やしている様にしか見えない。
未だに何やら言い合っているふたりのやり取りを見ていると段々笑えてきて、軽く笑えば近くにいた天明も小さな笑い声を漏らし笑っていた
なんだかんだあのふたりは仲が良いのだろう
「海、もう他の鴉の子と会った?」
「えっと、私、鴉に何人居るのか分かってなくて、会った事あるのは天明さんを入れて5人、かな…?」
「そっか。ならまだ会ってない子達いる、あと3人」
「3人…会えるといいな」
あと3人、一体どんな人なのか分からないから正直不安ではあるけれど、きっと良い人なのだろう。
「大丈夫、会えるよ。海ならすぐに仲良くなれそう」
「そう、ですか?」
「うん、僕とも普通に話せてるしネ」
「…えっと馴れ馴れしく、ないですか?」
「そんな事ない。普通にしてる方が僕も話しやすいから、そのままでいいよ」
基本、そこまで人見知りが激しい方ではない。
だから、こうやって普通に会話をしているが、逆に慣れ慣れしくないか不安ではある。
不安げにその事を言うと、そのままでいいとの事
彼は、はっきりとした性格だと聞いていたのできっと嫌なら嫌と言うだろう
彼の言葉に安堵して頷けば、良い返事だと頭を撫でられた。
叔母さん以外の大人にこうやって頭を撫でられることはない、その為なんだか照れくさい。
「そう言えば、海は剣を使った事あるの?」
「…ないです、正直に言うと何も分からないです」
「じゃあ、僕が見てあげる」
「お、お願いします」
「あの2人は置いて行こう、こっちについてきて」
エレベーターの前で未だに戯れ合うふたりはおいて
武器が並ぶ奥へと進む天明に着いていけば、後ろから待ってよとふたりが追いかけてきた。
「んー…気になるのある?」
どれがいい?と壁一面に飾られた刀に目を向けるが、やはり先程持っていた剣が目に入り、あれがいいと指を刺せば、天明は軽々とふたつを取り、私へと差し出した。
「はい、じゃあそれ持っていこう」
「あ、ありがとうございます」
重い双剣をふたつ受け取り、一体どこにいくのだろうと天明を見れば、壁にある小さなスイッチをポチりと押した。
当然、電気のスイッチと思っていたそれは、どうやら違う様でういーんと音を鳴らし壁が動きだすと、更に地下への階段が出てきた。
なんだか、ドラマでしか見たことのない仕様に目を丸くして固まっていれば、天明は慣れたように階段を降りていく
「おーい?行くぞー?」
未だに、驚きと感動を同時にしていた私は猿田の呼びかけに答えると、先に地下へと進む3人の後を追いかけた。




