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blood 血の誓い  作者: さくらもち
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ほのかな香りと少しの疑問

白鷺 風太郎side



「風太郎さん遅くなった!生きてる?!」



王蓮が連れて来た海は、完全に気を失っていた


枯渇が辛く泣き腫らしたであろう瞼はやけに熱を持っており、涙の後が残っている


濡れたタオルでそっと拭っていれば、慌てたように部屋へと入ってくる士郎




「あの小瓶を飲んでたからギリギリ生きてるけど、早く飲ませてあげた方がいいね。一旦俺は王蓮の所に居るから、後はよろしく」



「あ、そうだボスいるんだ…分かった、任せて」



「海に飲ませたらリビングに来るといいよ。あいつには俺が言っておくから」



「ありがとう風太郎さん」



王蓮の名前を出すと焦りと迷いを浮かべた士郎に、任せろと言い海を託す



パタンとドアを閉め廊下に出るが、ひとつだけどうしても疑問が浮かぶ


まさか、あり得ないと思いつつも彼女の体の変化と状態を見ていれば、この考えが頭を過ってしょうがない


初めて海と会った時にも感じたこの違和感


士郎と血の誓いを行っているのにも関わらず眷属になっていない。


あの時は混血だからと、言ってはみたがそんなことはあり得ない。



混血でも、眷属にできるはずだ



ただ、海と会ったあの時に微かに感じたもうひとつの香り、士郎の強い匂いに隠れてはいたものの一瞬だけ、確実にした。



特に鼻のいい俺だから分かったのかもしれないが、あの嗅ぎ慣れた香りは…




「でも、ありえない」




あり得ない筈なのに、海の状態をみればそう考えてしまうのはしょうがない


廊下で頭を抱えていたけれど、リビングからテレビの音が聞こえて、意識はリビングへいる王蓮へと移った。





「なに、死んだの?」



リビングへ行くや否や、海の状態について残酷な事をさらりと言う王蓮に対して、軽く苦笑いを浮かべた。


生きている事と、士郎が来たから任せてきた事を告げれば、少しだけ不機嫌な顔になり挨拶もなしかと士郎へ愚痴をこぼしている



相変わらず、士郎に対して厳しいが実際はこれは可愛がっている証拠だ。


一応、士郎の為にも命が先だと言えば、一瞬納得した様な表情を浮かべ、何故かニヤリと笑う



急に、なんだと思えば、王蓮はあれは士郎の彼女?それともお前の?と詰めてくる




「どっちも違う、白蛇とやり合ってる時に士郎があの子を巻き込んで殺しかけたみたいで、それで血の誓いをしちゃったって」



簡単に説明すれば王蓮はあからさまに険しい顔に変わり怠そうにため息を吐いた



「…もうあいつ、クビでいいよ」



明らかに、面倒事はごめんだと言いたげな表情に、いつもの事だと頬が緩む


大体、面倒になるとすぐ、クビと言うのは王蓮の口癖になりつつある


今回も、考えるのが面倒になり出た言葉だろう



とりあえず、士郎の為にと説明するも、相変わらずなんでも完璧にこなす王蓮からすれば、士郎のミスは考えられない様で、直ぐに言い返される



けれど、今回の事は海の人生を変える大きな出来事だ。


士郎が、しでかした事の重大さは痛いほど分かるが、まだ若い海をそのまま放っておくのも可哀想な話



なんとか俺に免じて、今回は許してあげて欲しいと伝えると、王蓮は更に眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌になった。



先程よりも大きなため息をひとつ溢すと、苛立ちを抑える為か、懐から煙草を取り出す

カチカチとライターの音を鳴らしながら煙草の先に火をつけ一口煙草を吸うと、白い煙を吐いた



もくもくと漂う煙の中、少し気分を落ち着かせたのか、こちらを真っ赤な瞳が見据える



「次問題起こしたらお前もクビ」だと。



流石に思ってもいない王蓮の言葉に、戸惑いが隠せない。


今まで一度もクビ、なんて言われたことが無かった為に、まさかこんな巻き込まれでクビと言われるなんて、正直きつい話だ



流石に表情に出ていた俺の焦りようは王蓮に

とっては面白かったのだろう


なんだか、やけに楽しそうに笑んでいる



「嫌なら…猿に言い聞かせて、しっかりしろって」



これには、分かったと言うしか言葉が出ず

王蓮の言葉に同意をして、士郎をきっちり教育し直さないといけないと、身の危険を感じた



とんとんと、灰皿に煙草の灰を落としているのを視界に入れ、とりあえずほっと一息



とりあえず、海と士郎の話が落ち着いた所で、先程疑問に思っていた事を口にした



「あのさ、変な事聞いていい?」


「なに?」



先とは違い機嫌が良くなっている王蓮に軽く海と会うのは初めて?と聞けば当たり前だと返される


分かっていた事だけれど、変に考えてもやもやが募るより、とりあえず本人に聞く方が早い


王蓮の返事にだよね、と返し1番聞きたいことを言ってみる



「人間に血をあげたりしてないよね」



するわけない、それは付き合いの長い自分が1番知っている事だ。


けれど、あの時の匂いは確実に王蓮の匂いだった

長年一緒にいるのだから絶対に間違える筈がない



「しない。そもそも人間と関わらない」



王蓮が嘘をつくわけがないし、今も全く身に覚えがないのだろう。


なぜそんな当たり前の話をするんだと言う表情でこちらを見てくるあたり、本当の様だ


変な事を聞いてごめんと謝れば別にと軽く返された




王蓮が人間と関わらなくなった理由は、きっと人間の寿命のせいだろう


遠い昔は、人間の友達も沢山居て、仲良くしていた時期もあるが、その友人達の寿命の短さを知り、何度も見送るうち、王蓮は人と関わるのをやめた



決して、人間が嫌だからとかそう言う理由ではない事は分かっている


ただ、何度も何度も親しい友がある日突然居なくなる寂しさと、あの辛さに耐えられなくなったのだろう


こう見えて、王蓮が誰よりも優しく寂しがりやだと知っているのは昔から知っている俺くらいだろう




「王蓮は、寂しがりやだからね」



未だに煙草を吹かしている王蓮は俺の言葉に不貞腐れた表情で小さく返す



「うるせぇ…お前は馬鹿じゃん」




確かに、それでも人間と関わり続ける俺は


王蓮が言う様に本当に、馬鹿かもしれない







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