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blood 血の誓い  作者: さくらもち
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喉の渇きとムスクの香り

20時丁度に家へ帰ると、今日は休みのはずの叔母は外出の準備をしていた



「あれ?今日休みじゃなかったっけ?」



「そうだったんだけど、急に職場の人が来れなくなって、明日休みになる代わりに、今日出ることになったのよ〜。ご飯、作っておいたからちゃんと食べて、しっかり体を温めて寝るのよ?夏だからって油断したらダメだからね」




「はーい、最近仕事大変そうだね…介護士ってやっぱりキツく無い?」



「んー?きつい時もあるけど、楽しい事もあるのよ、おばあちゃん達が喜んでくれると嬉しいの。海ももっと大人になったら、分かる時が来るわよ」



「そっかぁ…でも、あんまり無理しないでね」



「ふふ、心配してくれてありがとう。明日休みだからゆっくりするわ」




カレーを作ってあるから温めて食べるのよ、そう言って叔母は笑うと、私の頭を優しく撫で、支度が終わったのか仕事へと向かった。



昔からずっと、働きっぱなしの叔母の体調が心配になる。


体が良くなったのならバイトでも初めて少しでも足しになればいいな、なんて考えがよぎる


きっと叔母は反対するかもしれないけれど、いいバイト先があれば、見つけてみよう。

 



キッチンに行き叔母が作ってくれた、美味しそうなカレーを温めると、炊飯器からホクホクな白ごはんをお皿に乗せ、熱々のカレーをかけた。


我が家のカレーには、ニンニクが入っており、あの独特の香りが鼻を通り、更に食欲をそそる



いただきますと、手を合わせてカレーを口に運べば、相変わらず美味しくて、頬がこぼれ落ちそうになった。


しかしふと、にんにくの粒を、スプーンの上に救いあげ、ひとつ疑問が浮かんだ



「…吸血鬼ってにんにく、ダメなんじゃなかった?」



今、普通に食べてたけど、これって大丈夫なのだろうかと、急に不安になってくる


一応、気持ちを落ち着かせる為にスマホで吸血鬼、にんにくと、調べてみるもどれもにんにくは弱点と書いてあるものばかりで、余計不安になってしまう


しかし、特に体の不調もないし何も起きない


しばらく時間が経っても、体に変化は特に、何も起きないので、ほっとしてその後はお風呂に入り、22時には就寝した





けれど、夜中。


あまりの苦しさに、夜中に目を覚ませば、体は生汗をかいてびっしょりなのに、寒気がしてしょうがない


それに加えて、胸の息苦しさと咳きが止まらず、喉が痛い。

それも、焼けた様にひりひりと地味に痛いやつ

だった。


やけに喉も渇き、ベットの横に置いてある水のペットボトルを取ると、すかさず飲み干す



けれど、乾きは一向に治らず、呼吸は更に苦しくなっていく。


寝ぼけてふらつきながら、カバンの中から風太郎に貰った、赤い瓶を取り出すと、蓋を開けた


キュポンと可愛らしい音がしたと思えば、瓶の中からやけに甘い香りが鼻を通り、生唾が溢れごくりと唾を飲み込んだ。


早く血を飲みたくて、迷う事なく小瓶の中身を飲み干せば、口の中はやけに甘く、どこか癖になる味が広がっていった



こくりと、喉を通る血は最後はすこしの苦味を残して、呆気なく終わった


あまりの美味しさに、瓶を振りそこに残っている一滴すらも、勿体なく感じ、ほんの一瞬で終わった瓶を後悔しながら見つめるがもう、中は空っぽ。




「足りない…」




貰った時はこれぐらいで十分だと思っていたのに、実際枯渇状態になると、これぐらいでは物足りない


少しだけ、息苦しさは消えたものの、今だに喉は渇いてしょうがない。



初めての枯渇に耐えれるだろうと、言っていた筈なのに、実際にやって来た枯渇は、苦しさだけではなく、血を求める欲望が強い



流石に、不安になりスマホを開くと時間は夜中の2時、普通なら電話をするのは躊躇う時間だが、今はそんな事は気にならなかった


躊躇なく猿田強士郎と、書かれた名前をタップすれば、とぅるると静かな部屋に音が鳴り響いた。


けれど、何コールか鳴らすも、相手は出ない。




「うそぉ…」



一応、忙しいのは分かっているが、2回ほど着信を残して、次は風太郎に電話を掛ける


しかし、風太郎も電話に出ることはなく、流石に落胆するしかなかった。



一応、連絡さえ残しておけば、気づいた時に連絡を返してくれるだろうと、後からくる連絡を待つが、その間にもまた、胸の苦しさがやってきた。


流石に、これは危ないと、頭が警告を出し咄嗟にそのまま寒気を我慢し、夏だと言うのにコートを着て家を出た。



深夜の2時なのは承知しているが、このまま家にいてもしょうがないと、判断し風太郎の家まで向かう。


いつもならこんな、夜中に出歩くなんて絶対にあり得ないのに、どうしても血が欲しくてしょうがない体は、無意識に風太郎の自宅を目指す



外はどこか肌寒く、誰1人町を歩く人はいない

フラフラと、ひたすらバス停に向かうが、時刻表を見ても、この時間は運行しておらず、朝一の5時からしか時間がなかった。



3時間もここで、ひたすら待つなんて出来ない。


それなら、ひたすら歩くしか無いと、喉の痛みとフラフラな体で、歩き続けた。



うちから風太郎の家は車で30分


歩きでなんて到底無理な話だ、途中でタクシーを拾って乗っていくしか無い


けれど、しばらく歩いて見たけれど、周りにタクシーは一台も見当たらない。

せめて自転車で来るべきだったと、後悔するも更に胸の苦しさが増していき、正直歩くのもやっとだった



喉は焼ける様に熱く、代わりに水を口に入れるけれど、全く効き目はない


視界も薄れていき、まだまだ風太郎の家へは辿りつかない。


もう、体も寒くて力が入らなくなり、とうとうその場でだらしなく座り込んだ。


 

「…も、むり」



息をするのもやっとで、苦しくて仕方なく、体は重くなり、これ以上は動く気にもなれなかった



ふいに、このまま枯渇状態が続けば、死ぬと言っていた猿田の顔が浮かんだ



彼が言っていた様に、枯渇がこんなにも苦しいとは思っていなかった。


正直、インフルエンザにかかった時の辛さを経験していたから、一応体のだるさや苦しさには耐性があると甘くみていた


しかし、実際経験した枯渇は、それよりも数倍苦しく、とても耐えられるきつさではなかった。



結果的に枯渇ぐらい、なんて舐めていた数時間前の自分を恨んだ。


あの時、やけに心配していた猿田の気持ちが今では分かる。


しかし今更後悔しても遅い、あまりの苦しさに涙が溢れてくるが、この涙は死を目前とした後悔の涙なのか、それともただ苦しいからなのか、もう自分でもわからない




ただ、やはり



「しにたくない…」




意識が朦朧とし、視界はぼやけて、何も見えなくなり、もう諦めかけた瞬間、突然耳に聞こえた、車のエンジン音、そして、誰かが車から降りてドアを閉める音。



それと同時にふわりと鼻に香るムスクの匂いが私の意識を持っていく




「猿の匂いがすると思えば…眷属?…何だ、お前」



低く耳に残る、見知らぬ男性の声はコツコツと革の靴を鳴らしながら、私に近づいて来ると、涙で視界がぼやける私の目の前までやって来る。



男は、気だるそうにしゃがみこむと、私の様子をじっと伺っているようだ



間近で男のムスクの甘い香りが漂い、ごくりと唾を飲みこんだ。


涙で視界がぼやけ、誰かもわからぬ彼の匂いがただ、私の食欲を掻き立てる。


早く、目の前の男の血を飲まなければ、そんな考えが頭の中で浮かぶと、彼の血が急に、欲しくなり無意識に目の前の男に歯を向けた。


その瞬間、頬にあたる冷たい皮の感触と男の鼻で笑う声。



気づけば、男は革手袋をした手で私の頬を掴むとそのまま、強い力でぐっと固定した


もう、抵抗する力もなく限界だった





「お前、俺の血が飲みたいの?…生意気だね」





朦朧とする意識の中、男の鼻で笑う声が聞こえたのを最後に、私の意識は完全に暗闇へと落ちた。


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