表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第八話 モーモー牧場(ミニゲーム)

「3匹のポケモンとトレーナー。うーん……」

 自宅に戻ってから楓は天元神社でのことを思い返していたが、どう考えてもみほがやってきたタイミングが良すぎていた。彼女は否定していたが、実はあの中の1匹を入れていたということはないだろうか。


「だとしたら納得なんだよなぁ」

 ジムバトルをやっている最中に話しかけてきたみほは、最初からこちらのことを知っているような口ぶりだった。フィールド画面上、1km以上離れたジムも見えるとはいえ、近所に住んでいなければジムが攻撃され、火花が散っていてもすぐにやってくることはできない。彼女はジム管理人の話をしていたが、彼女こそ、その管理人のうちの一人なのではないだろうか――。

「ちょっと情報を集めてみるか」

 楓は次の日、いつもの三角公園に行くことにした。


 * * *


「今日は早いね」

 楓が三角公園に着いたとき、既にゆかはベンチに座っていた。しかし、そこにすみこの姿はない。

「あれ、どうしたの。お母さんは?」

 困惑した表情で尋ねると、ゆかはぷっくりと頬を膨らませながら言った。

「うん、なんか今日はいいって」

「えっ?」

「分からないんだけどさ、楽しんでおいでって言われた。だって私、ひとりじゃん。誰かに襲われたらどうするの」

 もしかしたらすみこさんが気を利かせてくれたのかもしれないな。ぼんやりとそう考えながらも、なんとなく楓は口走った。

「いやまぁ、それはないというか……」

(おてんば娘だしな)

「はぁ!?」

「あっ、何でもないです。はい」


 とりあえず元気そうで何よりと、楓は昨日の出来事をゆかに話した。

「天元神社?」

「うん、昨日行ってきたんだけど黄色チームだった。どうも管理している人たちがいるみたいでさ。気になったんだけど」

 ゆかはしばらく考え込んでいたが、やがてあぁ、と頷いた。

「あそこは止めた方がいいと思う」

「なんで? 僕はダメでも君は黄色チームでしょ。トレーニングでもして、続けて自分のポケモンを入れればいいじゃない」

「それはそうなんだけど……」

「あそこだったら、やられないんじゃないの」

「あまりいい噂を聞かないんだよね。例えば君でもいいよ、他の色のチームの人がポケモンを置くとすぐに攻撃されて追い出されちゃう。ここまでは分かる?」

「うん」

「そうしたら黄色が3匹入るんだけど、それ以上は入れちゃいけないんだよ」

 ゆかの言っている意味がよく分からなかった。

 同じ色のチームの人が自分のポケモンを置いちゃいけないって?

「どういうこと?」

「ずっとそこで回し続けるの、同じ3匹で」

「でもそうしたら、他の人が勝手にトレーニングしてそこに入れないか」

「そうなんだけど、他の人がトレーニングしようとしても上手くいかないみたい。迷惑な話だよね」

 昨日、僕にやったみたいにか。

 なんとなくだが、楓はそう感じた。おそらくこちらの気を逸らせるために話しかける役割がみほ、そしてその間に他の二人がジムをトレーニングしたりしているはずだ。ジムで見かけたアカウントは女性アバターが3つだったので、おそらく三姉妹と思われる。


「まっ、それはどうでもいいんだけどさ」

 ゆかの目が急にキラキラと輝きだした。

「君って、ミニゲームに興味ない?」

「ミニゲーム?」

 なんとなくだが、楓にはゲームウォッチのファイアが思い浮かんだ。ビル火災現場から落下してくる人を救急車までバウンドさせて運ぶゲームだ。

「そっ、ミニゲーム」

「あぁ、あのピコピコやるやつ」

「うーん、何想像してるのか分からないんだけど。そうじゃなくて、モーモー牧場!」

「モーモー牧場って、ミルタンクの?」

「そう! 牛さんがミルクを出すお手伝いをするんだよ」

 ゆかの話によると、モーモー牧場とは最近実装されたゲームのことで、特定の場所に出現する牧場でプレイできるミニゲームらしい。

 それはこの近くにはないからと、少し離れた駅の方へ一緒に行くことにした。


 バスで行った方が早いという楓の申し出を華麗にスルーして、なんだかんだポケモンを捕まえながら歩いて30分。

「人がいっぱいいるなぁ……」

 楓は通学でよく使っていたので通りはするものの、休みの日にここで何かをするということはなかった。それは他の人も同じで、通勤・通学に使う駅なれどそこで遊ぶとなると限られてくるのではないだろうか。

「ここでいったん、立ち止まって画面を見ます。だから、他の人たちの邪魔にならないように隅っこに移動だね」

 往来の激しいメイン通りから少し外れた商業施設の広場と思しきところに腰掛ける。ベンチにしては海の中でイソギンチャクが取り付いていそうな岩のようで、変わったデザインだと思った。


「ね、ね、私のスマホを見て」

 ねだるゆかの言葉に画面を見ると、ジムやポケストップとは違う牧場が出現していた。小さな木の柵で囲まれた中に草が生い茂っており、奥の方には牛舎と思しき小屋もある。

 牧場を指し示す赤い下矢印マークをタップすると、小屋の中に入っていき、目の前に二人の夫婦が現れた。


『あ、ちょうどいいところに来たな! あんたにちょっとばかし相談があってよぉ……』


 何やら困っている牧場主の夫婦。話を聞くと、ここではカントー地方に出荷するモーモーミルクを作っているのだが、肝心の乳牛がよく脱走してしまって困っているとのこと。それってどこの動物園だよと思いながらも、ただでとは言わない、助けてくれたらお礼をしてくれるというので、とりあえずミニゲームをやってみることにした。


「あっ、ミルタンクだ!」

 柵の中で小さくなったミルタンクが柵の外へ向かってもそもそと動いていた。何匹もいるので手分けしてやるという話だが、それにはまずミルタンクを捕まえなければならない。

「普段ポケモンを捕まえるときはボール使ってると思うけど、この子たちは飼っている牛さんだからね。代わりにエサでおびき寄せるんだよ」

 ゆかの説明を聞きながら、見よう見まねでミルタンクを自分の画面でタップする。すると――


 ポケモンの捕獲画面になった!

 本来ボールがある位置にミルタンクのエサがぽよんぽよんと跳ねており、タップして投げられるようになっていた。


「えっ、これって」

「そうです! 捕獲チャレーンジっ」


 楓はボールを投げるのが苦手だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ