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第五話 ジムバトルとトレーナー

「そろそろ帰ろうかな」

 チームの色を決めた楓の心は澄み切っていた。


 * * *


 ケンタから久しぶりに会えないかと電話があったのは、そんなときだった。場所は二人が初めて出会った土手だ。

「ういっす」

 体育座りした楓の肩越しにケンタの声が降りかかる。いつもと同じ、夕暮れ時だった。

「まーた、たそがれてたんか」

「……うるさいな」

 ぼそっと呟いた声は周囲の音にかき消される。

「それは、いいんだけどさ。最近、どうよ」

「何が」

「ポケモンだよ、捕まえてるの?」

「今は大体50匹くらいかな」

「大分捕まえてんじゃん! すごいすごい」


(うーん、なんかケンタが言うとあんまり嬉しくないんだよなぁ、不思議なことに)


 もちろんそんなことはおくびにも出さず曖昧に微笑むと、それを照れと解釈したのかケンタはご機嫌な様子だった。

「俺もあれから色々捕まえてさ。今野生に出てないポケモンも知ってるんだよな~。実は俺んちの近くにポケモンマニアの家があって、そいつが珍しいポケモンを色々と持ってるんだよ。ちょっと見せてくれないって頼んだら見せてくれたんだけどさ、これがイーブイとは全然姿かたちが違うのよ! なんでって思うじゃん? それが実はさ……」

 一度話し始めたら止まらない性格らしい。楓は待ったをかけるべく、じっ……と見つめてみた。

「おいおい、なんだよ。お前、俺の事が大好きなやつか、ちょっ、おい~」

 ダメだ、こいつはAHOだ。

 楓から呆れられていることなど知りもせず、しかしちょっとマジな感じでケンタは言う。

「それはそうと、ジムにはもう挑戦したのか?」

「まだだけど」

「しょうがねぇな~、教えてやるからついてきな」


 * * *


 連れられてきた場所は三角公園だった。

「とりあえずさぁ、ここにジムがあるのは知ってるよな?」

 初耳だった。

 もしかしたらゆかたちと話していたときに表示されていたかもしれないが、そのときの楓はポケモンを捕獲するのに四苦八苦していた。

「まぁ、楓はまだ始めたばっかだから知らないか。その画面に映ってるタワーみたいな形をした建物があるだろ? それがジムだよ」

 言われて確認すると、地面からポケストップのようににょきっと生えたものがある。それは下の方がだるま落としみたいに丸い輪っかを重ねたようになっており、一番上は四角い土台が作られ、その上にポケモンが乗っかる形になっていた。


「アイテムだけくれるポケストップは割と色んなところにあるんだけどさ、ジム自体は数が少ないわけよ。……なんでか分かるか?」

「さぁ……」

「ポケモンGOが陣取りゲームだからよ」

 ケンタの目が妖しく光る。

「赤、青、黄色の三色に分かれているのも、それぞれを戦わせて自分の陣地を増やすためにある。潰しあいってやつだな」

 話しながらケンタは三角公園のジムを指さした。

「百聞は一見に如かず。まぁ、見てなって」

 楓に画面を見せながら、ケンタは画面をタップする。

「ここのジムは黄色か。俺は赤チームだから、こいつらを倒せる」

 そういえばあの人たちは黄色チームだったな……そんなことをぼんやり考えながら、楓はなんとなく説明を聞いていた。

「ジムに置かれてるのが同じ色だとトレーニングになっちまって、自分の陣地を大きくするくらいしかできないからな。倒すのは自分の色じゃない他の色、OK?」

「うん」

「今二人入ってるから、こいつらを今からソッコーで倒すわ」


 * * *


「じゃあな、頑張れよ~」

 ケンタの説明により、ジムバトルの基本的な部分はなんとなく分かったものの、まだ楓の中ではもやもやしている部分があった。ただはっきり分かったのは、黄色チームが潰されて、新しく赤チームになったということだけだ。


「あーっ、もうやられてる! コンビニ行ってる間に~」

 ゆかだった。

 すみこはあらあらといった感じで、ベンチに座る。

「もしかして、こいつがやったの?」

 ゆかが指さした赤チームのトレーナーに楓は小さくうなずいた。


「はぁ……なんで。せっかく入れたのに」

 ゆかはぷっくり頬を膨らませた。

「ねぇ、こいつやっつけちゃわない? 二人でさ」

「えぇっ!?」

 まだジムバトルもやったことがないのに、もう実践なのか――

 あまりの展開の速さに頭が追い付いていないが、楓はやる気になっていた。ゆかと二人ならできそうな気がしたのだ。

「はいっ、じゃあ三角公園のジムをタップして~」

「はいっ」

 すると目の前にはケンタのアバターとポケモンが表示された。トレーナー名は……エーブイエー? なんだかよく分からない英単語が並んでいた。

「入った? じゃあ次は右下のバトル開始ボタンをタップしてみて」

「バトル開始――これか」

 モンスターボールが二つぶつかり合って、火花を散らしているようなアイコンがあった。

「そしたらポケモンが6匹表示されてると思うけど、この子たちが味方として戦ってくれるポケモンね」

「う~ん、何か選んだ方が……」

「今は置いといて! 今回は私がメインで行くから、君はバックアップして」

「あ、はいっ」

「右下にGOって出てるでしょ? それをタップしたらバトルに参加。行くよっ」

 対戦相手はCP1500のヤドランだった。みず・エスパーの複合タイプで、なかなか強いポケモンだ。対する自分のポケモンは――CP100のニョロモ。捕まえるのに夢中で全く育てていなかった。ゆかが出したポケモンはCP1700のシャワーズ。これはなかなか骨が折れそうだ。


 だだだだだだだだだだだだだ


 楓の指は機関銃(マシンガン)と化した。

 いかに速く画面を連打して攻撃を加えられるか。それだけを考えていた。次々とやられるポケモンたち、相手ポケモンのHPゲージは一向に減らない。手持ちポケモンの少なさもあり、楓はいったん退出して、ゆかのバトルを観察することにした。

「シャワーズ、アクアテールよっ!」

 ゆかが小さく叫ぶと、シャワーズのスペシャルわざが炸裂した!

「あれ……?」

 しかしヤドランにはまるで効いていない。

「えー、なんで」

(そりゃそうでしょ、相手はみずタイプ……こっちと同じ属性で攻撃してもね)

 ゆかはタイプ相性を理解できていなかったのだ。


 * * *


「そんなことより、大丈夫?」

「なに、どうしたの」

「次のヤドランの攻撃、避けた方がいいと思うけど」

「大丈夫でしょ。シャワーズの方がCP上なんだから」


 もしヤドランがみずタイプだけなら、向こうもこちらに対してこうかいまひとつの攻撃なので避けなくてもよかったかもしれない。しかし、ヤドランは――

「えっ、うそ。サイコキネシス!?」

 ヤドランのエスパーわざが炸裂し、HPで勝っているはずのシャワーズのHPが半分近く削られた。みずの弱点であるくさタイプではないため、こうかばつぐんで倒されることはなかったものの、等倍で攻撃されるのでそれなりにダメージは食らう。

「多分、相手はくさタイプが苦手なんじゃないかな。フシギダネとかは持ってる?」

「わかんない、わかんないよー」

 予想外のダメージを食らって焦ってしまったらしい。次にゆかが繰り出したポケモンはニョロゾ、またみずタイプのポケモンだった。

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