第二十話 招かれざる仲間
ジムを攻撃してから10分後、ワックのジムレベルが0になり、ポケモンをジム置きできるようになった。
「岸さん、楓くん、ジム置きしていいですよ」
ジョーはジムを更地にした後、すぐにそう言った。
「いいんですか?」
「うん、俺たちは別のところに置くから構わず置いちゃって」
俺たち、という言葉が気になったが、ジョーの言葉に甘える形で楓とキシはそれぞれのポケモンをジムに配置した。
* * *
「すごいっすね!」
そのとき、ジョーたちは近くから声をかけられたので見上げると、茶髪の少年が立っていた。
「ここのジム、落としたんですよね? めっちゃ早かったす、感激っす!」
「君は誰だい?」
興奮冷めやらぬ少年はひとしきり感動した後、ジョーからの問いかけに答えた。
「俺、惚也って言うんですけど、よかったら仲間に入れてもらえないっすか。ポケゴーの友達が周りにいなくて」
ソーヤは仲間に入れてもらいたがっている。しかし楓をはじめ、ゆかやキシは怪訝そうな表情でこの闖入者を見た。
「いいよ」
ジョーがあっさりと許可をする。
「マジっすか!? これからよろしくお願いします! 赤チームです!!!」
ソーヤと別れた後、ジョーはキシとゆかを先に帰し、楓とともに駅西口の商業施設に来ていた。ベンチに座るや否や、楓はジョーに声をかける。
「なんであいつを入れたんですか」
「特に悪い感じの子じゃなさそうだったから、かな」
ジョーはこともなげに言う。
「でも、ちょっと馴れ馴れしくないですか」
「そうだろうね」
ポケモン図鑑をスワイプしながら、淡々と返答する。
「君だったらどうしてた?」
「僕なら無視します」
当然だ、という風に楓は応じた。いくらジョーが親しみやすいとはいえ、しょっぱなからあそこまでガンガン来るのも珍しい。仲間が増えることに異存はないが――といった感じだろうか。
「それも正しいだろうね」
「なら……!」
「ただ、それで無視をしても彼はいなくなったかな」
「いなくなるでしょ」
相手をされなければ自然と消える、楓はそう思っていた。だからこそ、次に聞いたジョーの発言には驚かざるを得なかった。
「俺はいなくならないと思う」
「どうして」
「ワックというお店は他のお客さんも来ているのは知ってるよね。にも関わらず、彼はずっと大きな声を出していたし、人の話も聞いていないふしがあった。ソーヤ君の望みは俺たちの仲間になることだ。そこで仲間になれなかったら、ますます引き下がらなかったんじゃないのかな」
「受け入れても、受け入れなくてもあいつは大きな声を出すじゃないですか」
「それはそうだね。ただ、どうせ大きな声を出してしまうんだったら、長引かせない方がいいと思わないかい」
何をそんなに冷静になっているのだろう――楓はジョーの発言が許せなかった。確かにジョーの言うことも分からなくはない。しかし仲間が増え、ようやく安定しかけたこの面子にこれ以上の変化は要らない気がした。現に、キシやゆかも怪訝な表情を浮かべていたではないか。
ジョーはスマホ画面から目を離し、楓を見つめると言った。
「楓くんはどう思うか知らないけど、俺は来るものは拒まず、去るものは追わないスタンスだ。だから、余計ないざこざは起こしたくないけど、仮に何かが起こって誰かがいなくなってもそれはそれで仕方ない、そう思ってる」