第十九話 スポンサージム
週末。
駅付近の商業施設にジョー、キシ、ゆか、楓が集まってポケ活に繰り出す。以前ジョーの隣はキシだったのだが、今ではゆかがそのポジションについており、楓がそこに付け入る隙はない。
いつからこうなってしまったんだろう――
傍から見るとそれは尊敬できる先輩に話しかけている後輩の図式だ。一方の楓はというと――
「ほう、ピッピはノーマルタイプなのか」
「そうですね。こないだ岸さんに名前でソートできるとお伝えしたんですけど、ポケモンが持つ属性でもソートができるんですよ。例えば……」
※現在、ピッピはフェアリータイプだが、当時はフェアリーが実装されていなかったのでノーマルタイプとなっている
しかし、何とか隙を見つけてゆかのところへ行こうとするも、袖を引っ張ってくるのがキシだった。
(こんなことやってる暇はないんだけどなぁ……)
そうは思っても、キシから上目遣いで困ったような表情を見せられるとNOとは言えなかった。つくづく、損な性分だ。
「そろそろ休憩しましょうか」
ジョーが後ろの二人を振り返って声をかけた。駅から駅へと続く通りはヒバリ通りと呼ばれていて、東口のスクランブル交差点からまっすぐ北西へ伸びている道だ。こないだ楓たちが車に乗っていたのは駅の西口で、商業施設もそちらの方面にあった。
通称:食べあるき通りと呼ばれているだけあって、ヒバリ通りの両側には飲食店をはじめとして様々な店舗が軒を連ねる。ジョーたちはその通りの中ほどにあるワックに入った。休日ということもあり、店舗は家族連れで賑わっていた。テーブル席が埋まっていたので、カウンターの席に4人で腰掛け、ハンバーガーを頬張る。
楓はちらと右側を見た。そこには見慣れた少女が、背中をこちら側に向けながらジョーと歓談している。ジョーが気を遣ってくれたのか、楓はゆかと隣同士で座ったはずなのに、今はその距離が遠くに感じる。まだ、間にジョーを挟んでいない分ましか……そんなしょうもない理由で無理やり自分を納得させようとするも相手は待ってくれない。
「楓くん、かえでくん」
「あぁ、はい」
「検索のやり方を教えてくれ」
「ノーマルだとこうですね」
楓がスマホの画面を見せつつ、検索欄にカタカナで「ノーマル」と入力してソートをすると、ノーマルタイプを持つポケモンたちが表示された。
「ほう……うん、ポッポはひこうタイプじゃないのか?」
「ポッポは鳥なのでおっしゃる通りひこうタイプなんですけど、実はノーマルタイプも持ってるんですよ」
「あぁ、だから検索結果にも表示されたのか」
「そうです」
キシに説明しながら段々と楓は目が据わってきた。周囲の雑音が遠ざかっていき、耳はキシからの質問内容だけを受け取るようになる。
「……くん、楓くん!」
ジョーに肩を叩かれて、ハッとした。
今、自分は何をしていたのだろうか。両隣にキシとゆか、それからゆかの隣、奥の方にはジョーが陣取っている。ジョーはそこから大きな声で何度も呼んでいたのだが、楓が一向に振り返ってくれないので、席を立って楓の近くにやってきたのだった。
「どうだろ、そろそろみんなでジムバトルをやってみないかい?」
「えっ」
「ほら、ここ」
ジョーがスマホの画面を指し示した。そこには見慣れた「W」の文字が。
旧ジムでは現在のようにポケストップに相当するジムのフォトディスクを回してアイテムをゲットできないので分かりづらいが、ポケストップになっているワックだと右上に「SPONSORED」タグが表示されている。
スポンサード。つまり、ポケモンGOを資金面などでバックアップする公式スポンサー(オフィシャルパートナーとも呼ばれる)は、運営元とパートナーシップ提携をしている企業のことだ。
「今ちょうど赤チームがレベル5でいるから、一緒に倒そうよ」
ジョーはそう提案した。ジョーとゆかのチームは黄色、楓とキシは青だったので、赤チームのジムを共闘して倒すことができる。
「あぁ、はい。いいですけど……岸さんは?」
「ワシは――」
やらんから、お前たちだけでやれ。キシはそう口にしようとしていた。だが、それよりも早く楓がそっとキシに耳打ちする。
「ポケモンボックス、広げられますよ」
「何?」
「ボックスです。ポケコインで買えますよね」
「あぁ、それか。だがワシは余計な金を持っとらんぞ」
「だからこそです。無課金ならジム置きすればポケコイン稼げるじゃないですか」
「うーん」
「一人だと倒すの難しいかもですけど、みんなで一緒に攻撃すれば、すぐですよ」
「時間はかからんのだな」
「はい」
これだけのやり取りが異例の短時間で交わされた。楓はジョーの方に振り返ると、
「岸さんもやってくれるみたいです」
と言った。
「本当? 岸さん、いいんですか」
「あぁ」
渋々といった感じだったが、キシはジムバトルを了承した。その様子を見て、思わずジョーは楓にサムズアップした。