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第十四話 色違いポケモン

「金のコイキング?」

「うん」

 真剣な表情でゆかが頷く。

(なんだその、金のエンゼルみたいな)

 喉元まで出かかった言葉をすんでのところで飲み込みながら、楓の頭の中ではもうキョ○ちゃんとかキ○ロちゃん、あるいは○ョロちゃんでいっぱいだった。お菓子食べたい。

「いるんだって、色違いのポケモン」

「マジか……」


 通常のポケモンとは色合いが違う色違いポケモンは、ポケモンGOにおいて大体500分の1の確率で出会えるようだった。その珍しさから捕まえたらレアポケモンを捕まえたときよりも嬉しいのだとか。

 子供たちがブランコを漕いだりして遊んでいる中、楓とゆかは三角公園のベンチに座って真っ昼間から大真面目に色違いの話をしている。多分、二人以外の人間にはわけわかめだろう。

「で、それを捕まえた人は?」

 ごくりとゆかが喉を鳴らす。小麦色に日焼けた肌から汗がしたたり落ちて、地面を濡らした。砂場では母親が見守る中、男の子と女の子が砂のお城を作って遊んでいた。

「実はその――」

 そこまで言いかけてゆかは目を伏せた。言うべきか言わざるべきか迷っているようでもあった。男の子はお城の下に穴を掘り、女の子はお城の外側にペタペタと水で濡らした団子のようなものをくっつけていた。

「じつは?」

 続きが気になる楓は話の先を促す。

「いない」

「いないんかい!」

 楓が大きな声を上げたことで、男の子がびっくりしてしまい、お城の下に入れていた右腕をものすごい勢いで宙に放った! ばぁさあっという音がして、砂が周囲に大量に飛び散る。女の子は驚いた拍子に口を開けてしまったが、それがよくなかった。飛び散った砂がもろに口の中に入ってしまい、途端に苦虫を噛み潰したような顔になってしまった。


「あ~あ~あ~」

 様子を見ていた母親が女の子のところに駆け寄る。

 せっかく男の子が頑張って掘ったであろうトンネルの上部が大きく破損してしまい、()()()()()()()()()は見るも無残な姿になってしまった。うぇぇんと泣いている女の子に対して男の子はバツが悪そうにもじもじしていたが、やがて母親が自分に構ってくれないことを知ると、手のひらにまとわりついた砂を払い、どこかへ行ってしまった。

「ちょっと、声が大きいって!」

 小声で静かな怒りを表明したゆかは周囲の視線に気が付き、申し訳なさそうに頭を下げている。

「あっ、いないいない、いないよなぁ……」

 対する楓は自分が言った言葉にも関わらず、少し声のトーンを落として先ほどの大声をなかったことにしようとした。

「ちょっともう恥ずかし……こっち来て!」

 あくまでも小声のゆかは楓の手を強引に引っ張り、別のところへ連れて行こうとする。


 * * *


 雨ノ森公園(うのもりこうえん)

 天元神社とは向かう方角が異なるが、少し足を伸ばせば行ける場所にある。全体的に緑が豊富で雨も降りやすいことからこの名前が付けられたとも言われる。

 本当は天元神社に行ってもよかったのだが、以前の黄色チームの一件があって以来、二人ともなんとなく会話に出すことはためらっていた。ジム管理人によって常に監視されているのなら、なおさらそこで下手なことは言えない。

「とにかく、この近所だと色違いに会った人はいないって」

「そうなんだ……」

 確率の問題だというなら、ジョーをもってしてもどうしようもできないことだろう。今度ばかりはダメかと楓はがっくりと肩を落とした。

「ちょっと待って。まだ話の続きがあるんだけど」

「えっ」

「噂なんだけどね、仙人の話」

「仙人?」

 曰く、人前にはめったに姿を現さない。曰く、ポケモンGOのことなら何でも知っている――

「じゃあその人でいいじゃん、会いに行こうよ」

「私も会いに行きたいんだけど、相当気難しいって話だよ。それでも行くの?」

「いや、まぁ……」

 ここまで念押しされるとは相当のことなのだろう。けれども楓はどうしても色違いのコイキングが欲しかった。

「じゃあ、私は今回パス!」

 楓が折れないことを知って、ゆかは折れた。

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