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第十二話 御三家と世代

「あちゃー、引っかかっちゃったか」

 コイキングを大漁捕獲してホクホク顔の楓たちだったが、スムーズだった行きと違って、帰りは渋滞に巻き込まれてしまった。夕焼け空が少しずつ薄暗くなっていく中、お団子のように連なった車が先まで続き、ブレーキランプだけがやけに赤く光っている。

「これ結構待つね……じゃあイマさん、行っとく?」

 ジョーが停車中に助手席のダッシュボードに手を伸ばし、片手で器用にグローブボックスを開けた。そこからCDを取り出して挿入口に挿し込むと、軽快な音楽とともに聞き覚えのある曲が聞こえてきた。

「これは……ポケモン言えるかな?じゃないですか!」

 導入部分の印象的な声はまさしく、小さいとき朝の子供向けテレビ番組でMCとして活躍していた外国人の声だった。何度も視聴していただけに興奮を隠しきれない。

 ジョーはにやりと笑う。

「さすが楓くん、詳しいね~」

 すぐに反応した楓とは異なり、ゆかはどこかで聞いたことがあるものの、すぐには思い出せないようだった。まごまごしているうちに歌が始まってしまった!


「あっ、あっ……」

『ピカチュウ、カイリュー、ヤドラン、ピジョン――』

 何分うろ覚えなので、ときどき「ふし、フシギダネ!」などと区切りの部分で声を出すのが精いっぱいだった。対して楓は何度も歌っていたのかイントロ部分から体がリズムを刻み始めており、Aメロからいきなり「ピカチュウ、カイリュー」と歌い始めていた。

「ららら、ラッタ」

「ゆかちゃん、落ち着いて! 深呼吸しんこきゅう」

「は、はひっ」

 完全にテンパってしまっていたので、ジョーはいったんCDを止めた。

「あっ、ジョーさんなんで止めるんですか~これからいいところだったのに」

「楓くん、待って。ゆかちゃんが追い付いてない」

「えっ、あぁ……」

 楓が隣を見ると、ゆかは歌詞を必死に思い出そうとしていた。

「こいる、コイル……レアコイルだっけ?」

「ゆかちゃん、いったんお茶飲もう」

「はっ、はぁ」


 ジョーはゆかが人心地ついたのを確認してから、今度は楓に声をかけた。

「楓くん、ゆかちゃんに歌詞を見せてあげて」

「あっ、はい」

 楓はスマホで検索した歌詞をゆかに見せた。

「ゆかちゃん、どう。歌詞は思い出した?」

「えーっとぉ、たぶん……」

 自信なさげなゆかの様子を見て取ったのか、ジョーはある提案をした。

「じゃあ、こうしよう。途中でガラッとスタイルを変えるところがあるから、そこまでは普通に聞いといて、そこで一緒にハモろうか」

「えっ、ジョーさんも歌うんですか?」

 楓がすぐに反応する。

「もちろん。それにこういうのはみんなで一緒に歌った方が楽しいよ。ねっ、ゆかちゃん」

 ジョーがバックミラー越しににっこり笑うと、ゆかも思わず笑顔になった。

「OK! じゃあ本番、行ってみようか」


 ジョーがもう一度CDの再生ボタンを押した。すぐに軽快な音楽が流れ始め、曲がスタートする。速いテンポの曲なので、歌詞が完全に頭の中に入っていないとついていけなくなってしまう。そこでジョーはゆかを声掛け要員として採用した。つまり、曲の区切りである「フシギダネ!」などの部分で一緒に声を上げてもらうのだ。こうすれば歌詞を全て覚えていなくても、なんとなくノリで楽しむことができる。

 この方法が功を奏したのか、途中で曲のテンポが変わる前にはゆかも「ラ・ラ・ラ 言えるかな?」と楽しんで口ずさめるようになっていた。

『ここからガラッとスタイルを変えてみよう!』

 MCの声に乗せられ、ジョーと楓は思いっきり声を上げた。

「「Yeah! オニスズメ!!!」」

 そしてこの部分の最後では今回楓たちが夢中になって捕まえたあのポケモンが出てくるのだ。それはもちろん、


「「「コ、イ、キ、ン、グゥゥゥ!!!」」」


 * * *


 ジョーの車が商業施設二階の駐車場にたどり着いた。車内は熱気がこもっていたのか、後部座席の楓たちがドアを開けると入れ替わりにぶわっと涼しい空気が二人の体を包み込む。

「ジョーさん、今日はありがとうございました!」

 楓たちが一礼すると、ジョーは楽しんでくれてよかったとウィンクしながら右手でサムズアップした。

「あっ、そうだ。二人ともよかったらPINEを交換しない? 今度何かあったらいつでも連絡してくれよ」

「いいんですか」

 楓が聞くと、ジョーは頷きながら

「うん、大丈夫。二人がよければ……だけど」

「じゃ、私登録しちゃおっと!」

 ゆかがスマホを取り出して早速友達登録をする。楓も少し遅れてジョーと友達登録をした。


「二人とも今日は来てくれてありがとう。楽しかったよ、じゃあね!」

 黒塗りのごっつい車を見送りながら、楓はさっきの歌のことを思い返していた。

「意外と覚えているもんだな」

「えっ、なにが」

「ポケモンの名前だよ。なんだかんだで全部言えたし」

「あ~、君ってポケモン詳しいもんね」

 ゆかが相槌を打つ。『ポケモン言えるかな?』はポケットモンスター赤・緑――通称:第一世代のポケモン150匹を歌い上げたものだが、最後の1匹であるミュウは「あれ、もう一匹忘れてない?」とMVの最後に画像で出してくる心憎い演出がある。

 歌う順番的にはポケモン図鑑の番号に準拠しておらずバラバラだが、楓はここでフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメを覚えた。それぞれくさ、ほのお、みずタイプである彼らは御三家と呼ばれて、以降のシリーズでもチコリータ、ヒノアラシ、ワニノコなどといったポケモンに姿を変えて繰り返し登場していくのだ。


「でも、今日は楽しかったなぁ」

 楓が感慨にふけるように呟くとゆかも、

「そうだね、楽しかった!」

 とまんざらでもなかった。何より、車内で感じたあの一体感は代えがたいものがある。

⦅もしかしたらこの後、第二世代以降のポケモンたちも出てくるかもね⦆

 帰り際にジョーが話した金銀以降のポケモンたちにも思いを馳せつつ、楓たちはそれぞれの帰路に着いたのだった。

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