第七話、怖い怖いお巡りさん
…
とあるビルの屋上で男はをパニックを起こしていた。
男の職業は殺し屋、今日も商売道具を広げて仕事をしようとしたところ失敗した。
失敗したのならすぐに逃亡しなければならない、テンパりながらも男は急いで商売道具を片付けながら失敗した原因を思い出しては恐怖した。
--な、なんだあの化け物は!?--
数分前。
男はライフルスコープ越しからターゲットを見る。
(…あれが龍崎組の跡取りね。昼間っから女連れかよ、呑気なもんだな)
日本の裏社会を牛耳る龍崎組、その跡取り息子龍崎千広が今回のターゲットだった。
依頼をされた時とても楽な仕事だと思った。
治安が良すぎる日本の裏社会などたかが知れてる。
チャラチャラしていて、いつも護衛もつけずに学校の友達や女の子と遊んでいるらしく、今もガラが悪そうな金髪少女を連れていてよくお似合いだ。
おまけに中学に入るまで外国育ちというものだからどれだけ甘やかされてきたのやら。
(さよなら、甘ちゃん坊っちゃん)
男は目を細め、引金を引いた。
だが、すぐに細めていた目を大きく見開いた。
スコープ越しでは千広はピンピンしている…だがそれで驚いた訳じゃない。
金髪少女が後ろを向いたまま弾を真っ二つにしたからだ。
(化け物か!!弾を一度も見てないぞ!?あの女背中に目がついてんのかよっ!!)
金髪少女がゆっくりとこちらを見た。
スコープ越しで少女と目があった。
それは狙撃方向を見るというレベルじゃない、確実に男自身を見ていた。
男は蛇に睨まれた蛙のごとし動けない。
(ヤバい!!ヤバい!!あの女はヤバい!!)
男の居場所も顔も確実にバレている。
(絶対ここに来る!!)
恐ろしき化物に来る前に逃げなければならない。
と思い返していると入口の鉄製のドアが自分めがけてふっ飛んでぶち当たった。
「あがががああああああ!!!!」
「せっかく挨拶に来てやってんのにもうお帰りかよ」
鉄製のドアを蹴り飛ばして入ってきたのは金髪少女。
「があっ…げぼっ…お前、何なんだ!!」
「なんだ俺らの事知らねぇやつかよ」
意味の分からないことを言う少女はゆっくりと男に近付く。
「まあいい、とりあえず吐け」
少女はナイフ振り下ろす。
「ああああああああああ!!!!!!」
左腕。
「吐け」
「ああああああああああ!!!!!!」
右腕。
「吐け」
「ああああああああああ!!!!!!」
左足。
「吐け」
「ああああああああああ!!!!!!」
右足。
「なかなか根性あるじゃねぇかよ。拷問は専門外だ、もう切るとこ思い付かねぇや」
四肢が切断されても口を割らぬ男に少女は賞賛を送る。
「…聞いてない…龍崎組がこんな化け物飼ってるなんて聞いてない!」
「やっぱ、千広狙いかよ。まあどうでもいいんだけどよ」
どういうことなのか、雇い主に対する態度ではない。
そこまで忠誠心がないのか。
「…お前、俺もいるのに撃ちやがって」
少女の低く怒りの籠もった声を聞き男は全てに納得がいった。
少女が目の前にいるのは自分に危害を加える可能があったから。
もし弾がそれてたら少女に当たる可能性がある。
それを龍崎組の跡取りがターゲットだからだとしても少女が見逃すわけがなかった。
銃口を少女のほうに向けた時点で男は少女の敵となったのだ。
「…依頼主の事はよく分からないだ!!金が良かったし、龍崎組の跡取りなら楽な商売だと思って引き受けた!!」
男の話しは本当の事だった。
この業界なら依頼主が素性を隠すなんてよくある話だし、後はターゲットが面倒な相手かどうかだった。龍崎組の跡取り息子を調べれば楽な相手だと判断出来た。
「どーせそうだろうな、いいように使われそうだもんなお前」
少女の言う通りである、依頼主が素性を隠すのは殺し屋が失敗した時に口を割られないためである。
「それと一つ訂正しとくけどよ、俺は千広の護衛じゃねぇよ」
少女がナイフを振り上げる。
「お巡りさんだよ」
怖いお巡りさんは男の首を切り落とした。
「いたいた、梓!」
「…ハァハァ、おじさんに階段はキツイよ」
階段をあがる足音がすると、梓の後を追っていた千広と田中さんがひょいっと顔を出した。
「千広を御指名だとよ」
男の死体を梓は指を指す。
「え、また?俺超人気者じゃん、昨日なんて八回も御指名されちゃったよ」
死体を目の前にいつもの飄々とした態度の千広はやはり日本最大暴力団の跡取りなだけあるだろう。
立場的に四方八方から恨みを買い命を狙われるのも慣れていた。
「お前の場合、ほとんどわざと転がしてんだろうが」
「千広君って器用だもんね」
「イエーイ、昨日もお陰様で大量収穫でした」
実はわざと狙われてりする千広、なかなか食えない男である。
「俺を千広の護衛に間違えたこのクソ野郎どうすんだよ?」
「そうなの、千広君一人でなんとか出来る子なのにね」
実は護衛なしでもなんとか出来ちゃう千広、なかなか食えない男である。
「俺狙いなら俺ん所で処理すんのが筋だよね。顔も綺麗に残ってるからすぐ調べられるっしょ。各方面にはヨロシクねーって今連絡入れといたからさ。とりあえず、お掃除の人もう来んじゃね?」
「千広君、仕事早いね~。それじゃあ後は任せて…今日はバタバタしててお昼ご飯まだ食べてないんだよね、千広君と梓ちゃんがまだお昼ご飯食べてないなら一緒にどうだかな?安くて美味い中華屋なら僕がご馳走するよ」
「やった!行く!ありがとう田中さん!」
「ありがとう!!さすが田中さん!!」
素行が悪そうな少年少女とカツアゲにあいそうな中年サラリーマンが一緒に並べば誰もが心配するだろう。彼らが安くて美味い中華屋に一緒に飯を食べに行くなど誰も思わないだろう。