第六話、騒ぎ
街中を梓と千広がトボトボと歩いていた。
「…やっと逃げられたぜ」
「…俺、マジで生徒会長なのに」
隙を見てようやく逃亡出来た梓と千広は疲れ果てていた。
千広も梓と同じく常連である。もっとも彼の場合は学校に確認を取ってもらえば真実だと分かるのだが生徒会長が補導されたと生徒や先生に知られれば威厳がなくなりそうなので逃げるしかないのだ。幸い、かなり着崩してるので制服で学校を特定出来ないのが救いだ。
あの交番勤務のお巡りさん達は殺しの専門家と龍崎組の跡取りの唯一の天敵あろう。
「ああ腹減った…昼飯食いにいくけど梓も行く?」
「俺も行くわ」
一応宿敵同士なのだが本当に仲が良い。
「よし、決まり!何食おうかな…梓何が食い」
千広が横にいる梓の方を見て言葉を途中で止めた。
梓が突然ナイフを出して振り上げたのだ。ナイフを出したまま遠くを睨みつけている。
「…ああ」
けれど、千広は何故か納得するような声を発した。
「きゃああああ!!女の子が刃物持ってるわ!?」
「危ない!!今振り回したぞ!?」
街中でナイフを出せば騒ぎになるのは当然だろう。
しかし梓は騒ぎをよそに高々と宙に飛んで物凄いスピードでどこかへと消えてしまった。
「ビルと同じ高さまでジャンプしてるけどどうなってんの!?」
「いつの間にか女のコがいないぞ!!」
梓の行動に騒ぎはどんどん大きくなる。
「やべ」
千広がやれやれどうしよっかなって顔をする。
「なんか痴話喧嘩らしいよ!!」
「それはちがう!!」
顔を赤くしながら千広必死に否定する。
「なんだ映画の撮影か。最近の学生が作る映画は凝ってるな」
ふと聞こえたその言葉に、
「映画の撮影らしいよ」
「じゃあ、見えづらいロープでも吊るしてジャンプしたんじゃない?」
「最近の学生さんって凄いね~」
人々はあっさり納得して騒ぎが収まっていく。
それして人々はそれぞれの日常に戻っていった。
「…助かったよ、田中さん」
千広まだ少し赤い顔を救いの言葉を発した男に向けた。
「偶然通りかかってね、上手くいって良かったよ」
ヨレヨレのスーツを着て、薄くなってきた頭とお腹が出てる事を気にしてそうな…どこでもいそうなおじさん。
うっすら汗を描いていて、仕事で日中歩きまくってるのかなという印象をあたえる。
「さすが田中さん」
裏社会とは無縁そうな田中さんは不思議な事に梓達の知り合いだ。
「…さてと、梓ちゃんはあっちの方向へ飛んでいったよね?梓ちゃんを迎えに行こうか」
田中さんは人の良さそうな笑みを浮かべた。