第五話、よくあること
「だから何度も仕事だって言ってんだろ!?」
金髪少女は大変機嫌が悪かった。
「…だから何度も言ってるけど、君中学生だよね?仕事出来る歳じゃないでしょ?」
それもそのはず、目の前の人物は交番勤務のお巡りさん。
すなわち補導中である。
「だから中坊じゃねぇ!!」
しかも、この若いお巡りさんは梓の事を中学生だと勘違いしている。
昼に記者会見が終わり、やっとのことで園田議員から開放されて街を歩いていたところお巡りさんに平日の昼間に中学生が彷徨いていると勘違いされあれよあれよと言う間に交番に連れてかれたのだ。
「今日は逃げないでちゃんと話してよね。いつも途中で逃げちゃうんだから」
しかも梓、このお巡りさんに補導されるのは今日が初めてではない、超がつくほどの常連さんである。
嘘は言ってないが、交番勤務のお巡りさんが極秘扱いの梓達の事を知るはずがない。
詳しくは言えないし言ったとしても貴方と同じお巡りさんですと誰が信じるものか。
このお巡りさんタチが悪いと思う。当たり前だが殺気がないものだから反応できずお巡りさんのペースに呑まれいつも連れてかれてしまうのだ。
梓からすれば仕事してただけなのにと思うが、誰だって梓を見て補導しないお巡りさんはいないだろう。
いつも隙を見て逃げるの繰り返しであり、今も梓は隙を伺っていた。
「…ぶっ!ぐふふ!!梓さんまた補導されてるよ…!!」
「馬鹿…!!笑ったら殺されるぞ…!!」
お巡りさんがお巡りさんに補導されるのを見たら笑いたくなるだろう。
梓が声のするほうをギロリと睨むと、若い男二人組がギクリと反応する。
梓をお巡りさんと知ってる二人組はお巡りさんが許可している殺し屋達だ。
協力関係は龍崎組だけではない、他の裏社会の奴らもいる。
「…ったく、あいつら騒ぎやがって…!!」
「ん?どうしたの?」
お巡りさんが梓を不思議そうに見る。
「いや…外の声がうるさかったんだよ」
「声?そんなうるさかったかな?」
お巡りさんは気になるほど感じなかったが、感性は人それぞれだからときっと梓は音に敏感なんだろうと納得する。
「…だから生徒会長の仕事があっただけなんだって!!」
「はいはい、何度も聞いたよそれ。いいから入って」
今度はお巡りさんにも聞こえた。
入口の引戸が引かれて入ってきたのは年配のお巡りさんに連れてかれた千広。
「…よう」
「…やっほ」
気まずそうに宿敵同士は交番で再会を果たした。