第三話、園田議員
一人の中年の男が仕事を終え、コンビニに入っていく。
「いらっしゃいませ!!あれ?今日は早いですね」
「ああ、仕事が早く終わってね」
入って来た客が常連の男だと分かって若い女の店員がにこやかに声をかける。
常連と言ってもコンビニに毎日通うようになったのは1ヶ月前くらいだ。
今まで馴染みの店など作らなかった男だが、このコンビニだけは通い続けていた。
おそらく、女の店員の接客が上手く、なんとなくまた足を運びたくなるのだ。
いくつか食品をかごに入れ、レジに向かう。
「今日は仕事でトラブってさー」
会計をしてもらいながら女の店員にちょっとした仕事の愚痴やら世間話をするのが男の日課だった。
「それは大変ですね。唐揚げ、揚げたてですよ~、いかがでしょうか?」
「じゃあ、1個もらおうかな」
「ありがとうございます!」
テキパキとレジを打ちながら男の愚痴を聞き、さり気なく店の売上に貢献している女の店員は仕事が出来るタイプだ。
「実はさ…」
唐揚げを包紙に入れながら女の店員は男の話に耳を傾けた。
襲撃を受けた翌朝、園田議員は記者会議を開くため部署全員に護衛するように命じた。
「俺、戦闘専門じゃないのに駆り出されちゃった」
「私も別に動いてるのに。夕方までには終わればいいんだけど」
短い黒髪を軽くパーマさせ、泣きボクロが特徴の可愛いお姉さん…由美も真名人の言葉に同意する。
「必ず全員で護衛しろとかビビりすぎだろ。心配なら家から出てくんなよ」
ぞろぞろと園田議員の控室に向かうと
「野蛮人共の集まりめ、ちゃんと犯人を見つけて吊るし上げろ」
「その野蛮人に泣き付いて頼んだのはてめぇだろ、タコ」
控室に入るなり園田議員に嫌味を言われれば、梓の性格からしたら言い返すだろう。
しかし梓の言ってる事はもっともである。呼ばれてきたのに嫌な態度を取るのはおかしい。
「おい、長瀬!!この小娘のしつけはどうなっとるんだ!!」
隅で控えてきた秋彦を怒鳴りつけて呼ぶ。
「すみません!!素直で正直な子でして…」
「貴様!!謝ってるようで謝っとらんだろう!?」
園田議員の怒りが余計に増す。
「…アイツいい性格してるよな」
「さすが俺たちの上司だね☆」
しかし、これくらいの性格をしていなければ彼らの上司は務まらないだろう。
「まったく!襲撃の時に犯人を逃さなければこんなろくでもない奴らに頼む事は無かったのに!私の部下は役立たずばっかだったな…殺されるなら犯人を道連れにしてくれれば…ってなんだこの女なんていう顔してるんだ!?」
議員を守るために犠牲になった部下に冷酷な言葉を吐く。
それを聞いて阿鼻叫喚の顔をする凛子。
「すみません!!彼女、思った事が顔に出るタイプでして…」
「だから謝っとらんだろ貴様!?…まっ、狂犬だからしつけが出来んか」
存在しない部署に正式名称があるはずがない。
なので彼らの経歴性格をよく知る連中は彼らを狂犬と呼ぶ。
「狂犬は気に入らなければ噛みつきますから」
秋彦がニコリと笑っていうが、目は笑っていない。
「何んだ、馬鹿にしているのか!?」
「いえ、ただ気を付けて下さいねって話ですよ」