第一話、特殊な部署
日本は平和だ、平和過ぎる。それはそれは優秀な警察がいるおかげで。
警察機関の中で表向きでは存在しない部署が一つある。
日本の平和を守るため優れた専門達が集まる特殊な部署が--
部署内の会議室にて長テーブルを囲うように四人の男女が座っていた。
「毎回毎回、同僚を踏み台にしよって…どうゆう考えしてんのよ!!」
そんな特殊な部署に所属する遠崎凛子は現場から帰ってくるなり横で漫画を見ていた金髪ピアスの少女に怒りをぶちまけた。
「次の展開が気になるな」
「漫画の感想を聞いたんじゃないわ!!」
長い黒髪をきちんと束ね警察官の服装基準を守ってる凛子とは真逆なガラが悪そうで…見た目補導されそうな少女であり、並んでいると補導した警察官と補導された少女に見えるが、この部署は補導は担当してないし、二人はれっきとした同僚である。
まだ十六歳の梓が警察官をしていることがこの部署の特徴をよく表している。
梓は戦闘の専門家であり、警察官になる前は裏社会で有名な傭兵であった。
存在しないのをいいことにやりたい放題、それがこの部署の実体である。
「とはいえ、そのおかげで毎回命拾いしているからな」
「そうそう、踏み台にされてなかったら今頃俺の解剖室でこんにちはしてたよ?」
凛子と梓の日常茶飯事のやり取りに他の二人の同僚も加わる。
一人は眼帯をつけた軍服を着た妙齢の女…ソフィア。いくつかの国の血が混じったソフィアは部署のまとめ役であり指揮の専門家である。警察官であるのだが軍服…しかも他国のものであり、長年他国で指揮官であった彼女は軍服のほうが落ち着くという理由で、日本警察として雇われてる現在でも他国の軍服を着用していた。ちなみに本名で呼ばれることはめったになく警察である今も軍人時代の階級の司令官と呼ばれてる。周りも本人も司令官と呼ばれるほうがしっくりくるらしい。
もう一人は白衣を着た眼鏡の男…真名人。日に当たってないような不健康そうな肌色でまだ二十代半ばくらいなのに白髪で不気味そうな男だが、見た目とは裏腹にハイテンションな声、陽気な表情がなんともミスマッチである。この男は元は裏社会で有名な闇医者で現在は医療と科学の専門家として雇われている。こちらは本名を文字ってマットと呼ばれている。本当に本名なのか胡散臭い男なのだが。
もっともこの特殊な部署には凛子以外を見た目で警察だとわかる者は少ないだろう。なんとも胡散臭い奴らが集まった部署である。
「まさか、アタシを助けるために…!」
凛子が撃たれる前に踏み台にされてるお陰で助かってるは事実である。
不良が雨の中子猫を拾うのを目の当たりしたかのような気持ちで凛子の目は感動でウルウルしている。
「いや、邪魔だっただけ」
しかし、梓は子猫を拾うタイプにはなかった。
「少しは同僚に優しくしろ!」
「梓に優しさを求めても無理だろ」
「それ言われたら反論できないですよ」
司令官にごもっともなことを言われ凛子は肩を落とした。
「おっ、もうアイツ来んじゃねぇの?」
梓が扉をちらりと見ると男がちょうど入って来た。
三十代前半のスーツを着たいかにも真面目そうな男だ。
「皆さん、すみませんお待たせしました」
「きゃー、先輩!」
凛子がキラキラとした目で男を見た。秋彦はこの部署の上司であり凛子の大学時代の先輩であり憧れの人でもあった。
「由美さんは次の任務にすでに入っているので、不在のまま会議を始めます。まず司令官報告をお願いします」
この部署には由美という潜入捜査の専門家を合わせて五人で構成されている。由美は大体先に任務に入っているので滅多に会議にいない。
「武器密輸犯人グループ全員の殺害を実行し死亡を確認、ビルが半壊したがすでに対応済みだ」
司令官が報告書を読み上げるのだが、その内容が普通の警察官の報告ではない。
「ありがとうございます、無事解決ですね」
けれど、本来あり得ない報告聞いて秋彦はニコリと笑う。
「先輩!私大活躍でした!」
「お前気絶してただけじゃねぇかよ」
「原因を作った張本人が言うな!」
「いつも言ってんだろ、自分から的あてになるようなマヌケな突入の仕方だって」
「だって動くな警察だはやらねばいけないことなんだ!」
「ドラマの影響受け過ぎなんだよ、ボケっ!」
誰も疑問に思わない。それがこの存在しない部署。
何もなかったように二人の日常茶飯のやり取りを聞いて笑っているのがこの部署だ。
「…では次の仕事の内容に移りたいと思います。園田議員を皆さんよく知ってますよね?」
「はい先輩!慈善活動に力を入れてる良き議員です!」
秋彦の質問に凛子が小学校の授業かのように手を上げて答えた。
「はい、正解です。凛子君よく勉強してますね」
「やったたあぁぁ!」
秋彦に褒められて浮かれる凛子。
「…んな茶番はいいだろ。確かによく知ってるぜ、裏面もな」
二人のやり取りを見て梓がうんざりした顔した。
「やはりご存知で?」
「すっとぼけやがって…知らねぇわけねぇだろが。表じゃ良い人ぶって裏では派手にやってんだろ」
「薬に武器に人身売買に手広くやってるよねぇー」
「邪魔者は消す、しかも警察の上層部に取り入ってるから揉み消し放題」
凛子以外の裏社会に詳しい面々が次々に答える。
「さすが、皆さんお詳しいですね」
「な、なんと悪ではないか!?なるほど今回の任務は園田議員という悪を倒すのだな!!」
瞳に正義の炎をメラメラと燃やす凛子。
「いえ、違います」
けれど秋彦があっさり否定したので凛子はずっこけそうになる。
「裏で色々とやってるため非常に敵が多い園田議員です。そのためまだ報道されてませんが襲撃を受けました、本人は無事でしたが犯人はまだ捕まっていません。今回の任務は園田議員の護衛と犯人逮捕…っという園田議員本人の依頼です」
秋彦の言葉に静まり返る。
「…んな散々やっといて助けて下さいお願いしますってか!?虫が良すぎるだろ!」
まさかの本人依頼…誰もが思った事を梓が声に出す。
「絵に書いたような小悪党だな」
「わぁー、久しぶりに言葉が出なかった☆」
凛子にいたっては阿鼻叫喚を表す顔をしている。
「だって上層部からもお願いされちゃいまして…」
「気に入らねぇな…まあ仕事ならやるけどよ」
仕事は仕事でちゃんとやる、梓は根は真面目な子である。
「任務は遂行する…だが、確かに気に入らんな」
司令官の言葉に肯定と捉える沈黙が流れた。
「皆さん有難う御座います!これが襲撃当時の防犯カメラの映像です」
壁に埋め込まれた大きなモニターに襲撃映像が映し出された。
必死で逃げる園田議員、襲撃で殺された警察の死体、鳴り止まぬ銃声の数々。
「手慣れに紛れて一人だけ殺す気満々の顔した素人の爺さんいんな、クソ議員に復讐したい奴だったら老若男女問わず的な感じで集めたんだったら爺さん以外随分といいメンツ集まったな」
襲撃者は十数人、見る限り銃の扱いや動きが戦闘慣れしていた。ところがその辺に歩いてそうなお爺さんが慣れない手付きで銃を撃ってる姿に梓は違和感を覚えた。
「色々と裏がありそうだな。これだけの武器の出処も気になるし…梓と凛子は武器の出処の聞き込みを。マット先生は死亡者の解剖と防犯カメラの映像の解析を頼む」
司令官の指揮に部署の奴らは動き出す。