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迷いの森で、迷わす係  作者: なかの千五
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 森の奥にひっそり(たたず)む一軒家。


 郊外の別荘、なんて説明を受けたとしても違和感を感じさせない古めかしくもおしゃれな雰囲気を(かも)し出している一階建ての小さな家。

 その周囲は、きれいに整地されて穏やかな日差しに温められた芝生の庭が広がっていた。


 そんな庭の片隅には、夢魔の宿敵(?)である触手魔獣。


 すぐさまロリーゼはそいつに向かって構えを取った、が………触手魔獣は庭の端っこで警戒するようにウネウネしたままこちらに来ない。


「? どうしたのだ? …穴?」


 庭の真ん中にぽっかり空いた小さな穴。

 その穴と触手魔獣に視線を往復させてみれば、触手魔獣も「そうだ」とでも言いたげにウネウネをゆらりと縦に振った。


「……」


 じりじりと穴に近づいていくロリーゼ。

 触手魔獣は近づかない。警戒なのか不安なのか、マナーモードでブブブと震えて彼女の歩みを遠くから見守っている。


 我が家に増えたその不思議穴をそーっと(のぞ)き込んでみると……


「……何をやっているのだ?」


 罠の正体は、(ひざ)を抱えて座っていたモリィだった。


「…うん? 中に?

 いや、その穴はどう見ても一人用なのだ…一人用?

 …いやいや、待つのだ、そんな引っぱ……なぁー!?

 ちょ、ちょ、ちょっと待つのだ!?

 そんなとこ、つかんじゃダメぇ!?

 ちょっとモリィ、モリィいいいーー!?」


 触手魔獣がマナーモード(強)でブルブルと震える前で、白昼堂々とその惨劇(?)が加速していく。

 モリィ穴に囚われた哀れな夢魔(プリンセス)は悲鳴を上げるが、彼女の騎士(ナイト)はすでにその穴の住人というか牢名主(ダンジョンマスター)と化している。


 そこに颯爽(さっそう)と現れたのは我が家の守り手、家妖精。

 必殺の紅茶休憩(ティー・ブレイク)が、モリィの脳天にダバダバと襲い掛かった。


「よいではないか、よいではなぁーーあぁ熱っっつ!?

 熱いっ、熱いからっ、待って家妖精さん、僕はそこまで上級者じゃないからぁ!?」


 ほのかな甘さを含んだ良質なアールグレイの(かぐわ)しい熱湯で討伐されかけたモリィが、穴の下から見上げてみれば、家妖精さんがご立腹だった。


「ひどいよ家妖精さ――あ、はい、スミマセン!?」

「ごめんなさい!?」


 ダンっ、という強い足音でモリィとロリーゼを黙らせて、家妖精さんはビシッと家の方を指さした。


 そこにあるのは、扉が開いたままの家。我が家。

 つまり――家妖精さんは「やるなら家でっ!」と主張しているのである。


「…うん、昼間っからは、ちょっと、うん……気を(つか)ってくれてありがとう?」


 香り高くなったモリィと赤面したロリーゼが小さな巣穴から這い上がると向こうの方から妖精さんが二人、飛んできた。


「お客さんー」

「お客さんが来たよー」




 ◆ ◆ ◆


 急いで身なりを整えなおしたモリィはロリーゼと一緒に妖精達に(いざな)われるままに森の中を歩いて行く。


 途中で(つた)にからめ取られた帽子人を助けたり、賢い熊に新しい挨拶(あいさつ)を教えたり、妖精達と歌ったりしながら二人は森を歩いて行く。


 そして二人を待っていたのは、こんな場所があったのかと疑うほどの、太く大きな樹木だった。


「育つのが早い種類なのでしょうなー」


 と感心する帽子人にモリィが「このまま育つとまずいのでは?」と問いかければ「そのうち飽きるはずですなー」と返された。

 全体的に謎だらけの森である。モリィとロリーゼは「そうですか」と納得してしまうことにした。


 樹木の根元には、獣耳の少女が杖を抱きしめて震えていた。


「…大丈夫?」


 とロリーゼが問いかけると、こちらに気づいた少女が「ひぃ!?」と息を飲んだ。


 (おび)えるのも無理はない。

 夢魔のロリーゼの後ろには、モリィ、帽子人、熊、妖精達と謎の集団がぞろぞろと取り囲んでいる。

 彼女の脳内に「まものがあらわれた!」か「にげられない!」の字幕の一つも表示されていたっておかしくはない。


 ロリーゼは少女を見て、モリィを見て、もう一度少女を見てから「大丈夫だよ?」と微笑(ほほえ)んだ。


 そして帽子人と熊と妖精達が、「どうぞどうぞ」とモリィに対して前をゆずった。


「森守様が話を聞くのですなー」

「森守様、なかま」

「森守様だよー」


「えっ!? 森守様っ!?」


 獣耳少女が立ち上がり、「助けて!」とモリィの前に駆け寄った。


「うん、良いよ、助けるよ? ボロボロだけど大丈夫? おにぎり食べる?」


 森の奥まで逃げ込んで、ついに立ち会うことができた森の守り手に、彼女は必死に(すが)りついた。


「森守様、森守様! この杖を、お願いっ!」


 …その一方で、この流れで受け取るときっとまずいことになるのであろう杖を前に、逡巡(しゅんじゅん)するモリィ。

 彼はグッと奥歯を()んで覚悟を決めて、目を(うる)ませながら差し出されたその杖を――受け取った。


 そんなモリィの背中にロリーゼが抱き着くように、肩越しにモリィと一緒にその杖を(のぞ)き込んだ。


「なんの杖かにゃ?」

「うん、今【鑑定】して――」



「――英雄の杖、ですっ!」



 それがたとえ、剣でも盾でも指輪でも、すべてを守り、あるいは処分してみせるのが森守だ。



「…えっと、この杖を、どうして欲しいですか?」

「森守様が認めた人にっ、渡して下さい!」



 つい最近、その一式(シリーズ)の指輪を渡した相手が襲い掛かってきて、剣と盾を粉々にしてやったばかりであるその二人は………互いに無言で、見つめ合うのだった。




 ここは迷いの森。


 追われし者達にとっての最後の楽園。

 何人(なんぴと)たりとも、その奥へと触れさせぬ、

 (いにしえ)よりの森の守り手の……




「おお、ロリーゼよ、勇敢(ゆうかん)なる(なんじ)に、この杖を――」

「――身内に押し付けちゃダメなのだ」



 …そんな森守と、一緒にがんばる夢魔の少女の物語。


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