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やや暗い展開あり。苦手な方は「◆」まで読み飛ばしてください。
渡り人であるモリィさんの復讐劇(?)です。
画面の向こうで笑われながら、すべての言動にいちいち字幕が付けられているその男。
別の世界からやって来た自称貴族、という設定らしい。
服装が違う、髪色が違う、職業が違う、身分が違う、言葉づかいが違う、常識が違う、文化が違う、
おもしろい。
周囲の困惑が読めていない、視聴者の反応が読めていない、上司の顔色が読めていない、時代の流れが読めていない、空気読めない、
たのしい。
何を言っているのか分からない、何を考えているのか分からない、どういう意味なのか分からない、どういう前提なのか分からない、どういう条件で何を成し遂げれば何を得られるのかが分からない、ルールが分からない、助けてくれ!! 私は、私はっ――
もう、あきた。
はぁ? 異世界人?
そういうのはもう、良いんだよ。
使い捨てではない、短期雇用契約だ。
お互いの利益のためにやっていたのだから、Win-Winだ。
視聴者が欲している。つまり、皆のためにやっているんだ。
お前は世界に貢献できて、役に立ってイタンダ。ヨカッタナ?
違う!? 分からないんだ、私は――
「はぁ? そんなことも知らないの? バカじゃないの?」
人気があったり、目障りだったり、妬ましかったり、邪魔だったり。
出る杭は打ちたい、ストレス解消に。
罪は裁いてよし、悪は滅ぼしてよし。
気に入らないものは全て悪人に仕立て上げてしまえば良い。
理由はあとから付いて来る。
違う、私は何もやっていない――
「あ゛? なにもやらねぇから、そうなるんだよ」
契約、常識、空気読め。
あらゆる制約で縛り上げ吊るし上げ孤立させて、
自分以下の存在へと叩き落して不幸を絞り出す。
人の数だけ、悪がある――
魔法は無い、剣は違法、自身を守る術がここには無い。
人の不幸は蜜の味がする。
いいね!
復讐じゃない。お礼だよ。
僕ら渡り人をお招きしてくれた君達を、
僕らの故郷に、日常に、招待してあげる。
僕はこっちが気に入ったから、
君もそっちが気に入ると良いな?
夢幻泡影。
その異世界で一生を終えたなら……
…きっと僕らと、一緒だね?
魔法では無い、剣でもない、魔物の正体は常に――
再生動画の「いいね」の数値がまた、1上がった。
◆ ◆ ◆
王都庁舎内の一角にある、とある会議室、その会合の出席者達が襲撃を受け、昏睡状態で発見された。
彼らの半数以上はそのまま変死、あるいは発狂。
残りの者達は目覚めたものの、もとの生活には戻れぬほどに憔悴し、家業や役職を他の者へと引き継がざるを得ない状態になったという。
異世界はだめだ、と恐慌状態でつぶやいているという。
犯人が侵入した形跡あり、魔法の痕跡あり。
だが、それは侵入と言うにはあまりにも正面玄関からの堂々とした来訪だったようで、にもかかわらず、誰一人として目撃者はいなかったらしい。
防衛のための結界は無反応で、監視のための魔道具には……美しいお花畑の映像だけが残っていた…そこは屋内のはず、なのに。
謎だらけのその怪事件は、さらに突然、捜査が打ち切られることになった。
その被害者達の過去が明らかになったからだ。
とある渡り人の召喚に深く関わった者達であることが判明し、その会合が後ろ暗い内容の密会であったことまで裏が取れると、犯人が誰なのかの察しがついてしまったのである。
関わるな。
つい先日発行されたばかりの「王命」を踏まえて皆が動いて、全ては無かったことにされたのだった。
その後、渡り人の誘拐が無くなったのかどうかは分からない。
もともとが禁止されていて、なお、行われていたくらいなのだから。
だが、人々の心には深く刻み込まれた。
森の奥から、森守は見ている、と。
余力があれば人族の蛮行を阻止してくれ、という女神様の最初の願いをモリィはちゃんと覚えていました。




