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迷いの森で、迷わす係  作者: なかの千五
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 彼らが集結したそこは、王城、謁見(えっけん)の広間。


 そこにノコノコとやってきた少年を迎え撃つように左右にぞろぞろと立ち並んでいたのは、数人の高官と、その他有象無象(うぞうむぞう)の爵位を持つ者達だった。


「そこで止まれ」


 その爵位持ち達のうちの一人が、少年の歩みを勝手に止める。


 王との距離はまだかなりある。

 もともと指示されていた位置よりもずっと手前の、ろくに会話もできないくらいに離れた間合い。


 それでも誰も、その勝手な指示を(とが)めない。

 得体の知れない平民の小僧で、まして渡り人、最初から王と会話させる気など彼らにはさらさら無かったのだ。


 キョトンとして前を見た少年。

 その視線の先には玉座に座る王と、その隣の「王の盾」ルナ・レナリンが立っていた。


 比較的上座(かみざ)の、王に近い位置に立っていた高官達の、その中のほんの数人が一瞬だけ顔をしかめた。

 ルナ・レナリンの口が動いたことを目ざとく見つけて、何かを察したからだ。


 …あれはきっと魔法で、少年に直接――

 ――再びそこに割って入る、身勝手な誰かの「そこで(ひざまず)け!」という独断による指示。


 それでも誰もその指示を咎めないどころか、「確かに陛下の安全を考慮すれば」「その距離が適切ですな」と肯定しだす者達までいる状況。


 その指示に少年は…――静寂に包まれた謁見の広間の出入り口近くで、ゆっくりと跪く少年の姿に、爵位持ち達が満足げにその口元を(ゆが)める中で、



「…これは、見事ですね」



 今度はほぼ全員がルナ・レナリンのつぶやき声に反応した。


 ここでの要注意人物をあげるなら、レナリン、少年、高官達の順番だ。

 そんな彼女が、なぜか、少年のまるで礼儀作法ができていない所作を見て、褒めたたえた。

 それをきっかけに、始まった。



 罵倒(ばとう)が、始まった。



 もともとは、二年前に違法に召喚されて逃げたという渡り人、それが発見されたのを受けてこの謁見の儀となるに至った…という話だった。


 王国側からすれば、とりあえず謁見をという話。

 モリィにしてみれば良く分からぬ誘拐犯たちの親玉からの、ゴナンを介しての強制呼び出し。

 とにかく、王と渡り人が直接、互いの事情を話し合うという場のはず、だった。


 そこに大挙して割り込んできたのが広間の左右に陣取って今、モリィを一生懸命罵倒している、彼ら。


 高官達が臨席するのは、まだ分からないでもない。

 渡り人という国の有事にも関わりかねない存在と王とのやり取りを、行政や防衛を(つかさど)る者達の代表として見届ける必要や義務があるのだろう。


 だが、それ以外の彼らは、国のためではなく利己のために参加せざるを得ない者達だった。

 あの渡り人の正体が、いま中央を騒がせている「迷いの森の森守」らしいという情報も得たうえで、そこから生じる利権や陰謀に乗り遅れる訳にはいかなかったから、この場に駆けつけざるを得なかった。


 そして、跪いたままの少年を、徹底的に罵倒する。


 国の義務とか理念とか品格とか、渡り人の少年には全く理解のできない言葉で彼をひたすら(さげす)んだ。

 逃走は大罪であり、本来ならば即刻死刑であるなどと、どの法にも載っていない勝手な理論で脅しまくった。

 私刑(リンチ)である。

 自分達の土俵で大勢が、何も知らない一人の弱者を、頭の先からつま先までひたすら全否定するという遊戯(ゆうぎ)であった。


 …この後で、それぞれ裏から個別で彼に手を回して「だが条件次第で君の味方になってあげよう」と甘い誘惑話を持ちかけるためにも、その効果をより劇的にするための下準備として、今は彼をどこまで下げ苦しめることができるかという戦略的段階(フェーズ)でもあった。


 もちろん、モリィが発言する(ターン)は来ない。

 永遠に、彼らのターンだ。


 高官達がグッと奥歯を噛むように無表情を通している理由は分からない。

 だが、肯定も否定もしないのならば、都合よく解釈しておけばいいだろう。

 分からないものは、分かろうとする必要は無い。

 チラチラ気にしつつも彼らは罵倒に熱を入れる。


 それ以上に、警戒すべきはレナリンだ。

 彼女の視線は玉座のすぐ前、つまり少年の方を見ていない。

 奴が無視しているのならば、何も問題は無い、はずだ。


 なにより、楽しい。

 ひさびさの獲物をこの最高の舞台で吊るし上げることができる、この愉悦。

 優越感。

 だから貴い一族はやめられない……!



 …そんな趣味の悪い事情聴取という名目の私刑を(こころよ)く思わない、臨席しても不参加だった貴族達は……やがて違和感をおぼえ始めた。



 空気を読むことに()けた彼らは、その場が二つに分かれている気配を察する。

 こっちの罵倒大会と、あっち。

 …あっち? どっちだ?

 目に見えない何か、別の場の雰囲気が……確かにある。


 そもそもこの謁見の儀、本来は何のために開かれた?


 少なくとも陛下が、渡り人から直接話を聞くという名目では無かったのか?



 …では……その陛下は今、何をやって――



「――うん、君の望みは分かったよ」



 唐突(とうとつ)な陛下の言葉にハッとして、即座に見渡せば、他の連中達は「えっ?」という疑問の顔で、そして高官達は青褪(あおざ)めて、レナリンは無言で目の前の少年を見つめたままで……



 ……目の、前!?



 まだ青くなかった者達が、ゾクリとしながら謁見の広間の端から端まで視線を往復させてみれば、


 いたはずの場所にいない少年が、

 いないはずの場所に立っている!?



 陛下はずっと、この少年と会話をしていた。

 …なぜ……見たままのそれに、気付かなかった……!?



 そして、思い出す。


 少年は一体何者で、その渡り人は迷いの森の誰で、その森守は何の使い手、だったのか――



「――王の名において命じる」



 罵倒に(しそ)しんでいた者達が理解を追いつかせることも許されぬまま、事態は進む。

 すでにもう謁見は()めの言葉にさしかかっている。

 だが、王命!?

 滅多に王権など振り回さない今代の王、直々のその言葉に、皆が目を(みは)る中で、



「モリィを名誉公爵に叙する。

 彼の住む森に対する一切の手出しを禁ずる」



 そこに「名誉」という世襲無しの限定条件は付与されているものの、公・侯・伯・子・男爵という序列をすべてすっとばしての、最高位「公爵」という、叙爵だった。


 ここにいるほぼ全員よりも身分が上になってしまった少年当人も「おや?」と目をぱちくりと(またた)いていて、良く分かっていない様子である。


 一体何が起きているのか、まだ混乱に包まれたままの聴衆達に、王は眉を下げた。



「渡り人の誘拐はダメだって言ってるのに、やめないんだから、仕方ないじゃない」



 褒賞では無い、救済あるいは罰であるという王の意図――


 ――これ以上、渡り人なんて召喚するなら、

  君達より上の爵位の者がどんどん増えちゃうよ?――


 ――危険な前例には間違いないが、繰り返さなければ何の問題も無い。

 だからいい加減に、もうやめなさい。

 他の誰かが召喚なんてしないように互いに監視し合いなさい。

 そんな裏の意味を込めた、国王からの警告だった。


 飲み込むしかない。

 納得とか理解とか、関係ない。王命だからだ。

 むしろ、ぜんぜん優しい…かもしれない王命だった。


 行政や立法が各部署の管轄や権限によって行われる中で、最終的には王の承認なしには成立しない業務の一つが「叙爵」である。

 彼の森には手出し禁止という件についても、森を領地とみなすのならばそれは当然の補足とも言えるだろう。

 つまり、王命といえども王の通常業務範囲内だ。


 すべてを(くつがえ)す反則技の「王命」ならば、いっそ「渡り人の召喚に関わった者達は死罪だ」と言ってしまうことも可能である。

 誰の血も流れないで済んだ、あるいはほぼ全員が等しく損をしたという点においてこれは「まだ優しい」ほうの王命だった。


 さらに言えば、中途半端に伯爵や子爵に任命すれば、その上と下の連中の間で必ず揉める。一番下の男爵では抑止力にならない、ならば一番上しかない…という極論だ。

 そして、王の直轄。つまりは王の配下にする……かどうかは別として、逃走中の渡り人と王が強制的に縁を繋いだ、とも言える。


 そう、一度は逃走した渡り人。

 再び中央の手に戻って来たことが、奇跡である。


 そして高官達は、これまで無視してきた問題が突如(とつじょ)として目の前の難題となってしまった悪夢に、頭を痛めて目を細めた。



 それらが徐々に脳に染み渡って来た中で、なお、納得できない者達。

 渡り人の誘拐に関わった者達、迷いの森の利権を得ようとしていた者達。

 目まぐるしい急展開に戸惑いながら、歯噛みする。

 なぜこうなった、と。


 獲物が突然、自分よりも上の存在へと化けた。

 なぜ?

 こんな渡り人()()()がなぜ、俺より――


 ――噂では、

 異世界勇者召喚局の役人が襲撃されながらも、死を免れたという。

 その回復薬を提供したというのが――


 ――数人の男達がバッと振り返った。

 だが、その銀髪の魔女は(にら)みつけてくる視線など歯牙にもかけずに、目の前の少年の反応をただ待っていた。



 そして、モリィ。


 周囲の者達が驚いたり頭を痛めたり恨んだり、いろんな何かが渦巻いているこの謁見の広間で、一人ぼんやりと立っていた。


 ゴナン経由でここに呼びつけられたものの、何だかさっぱり分からない。

 ロリーゼが予測した状況に近い結果になったっぽいけど、なんだかいまいち分からない。

 大した説明もないまま広間に通され、そこで止まれ、気にせず進め、問われるままに答えてみれば、なんかくれた。

 分からない、さっぱり分からない。


 で、どうすれば良いんですか?

 口を半開きにしたままポカンとして立つモリィの耳元に、



「……(つつし)んで拝命いたします」


 と、小さな声でぽそりと、王様の隣に立つ銀髪の人から再び声が聞こえてきたので、モリィはサッと(ひざまず)いて復唱した。



「謹んで、拝命いたします」



 その光景に、前代未聞の「渡り人、モリィ公爵」がいま成立してしまったことにハッとした者達が皆、あらためて絶句したのだった。





「……うむ、(はげ)むが良い」

「ちょっとルナちゃん!? わしには言わなくても大丈夫だよ!?」


 目の前で小声で抗議する王様に、良く分からないが笑いをこらえたモリィであった。




【王様】

 この大陸を実質的に支配している人族の中で一番偉い、はずの人。

 過去には王命とかバンバン発行して混乱させた末に斬首された王なんかもいるなかで、かなり大人しいほうの、みんなに任せるタイプの王様。背は低め、髭はくるっと巻いている、威厳よりも親しさを感じるタイプの王様。

 幼少の頃から彼の護衛、兼、教育係であったハーフエルフのルナ・レナリンとは仲良しというか、頭が上がらない。今回の叙爵の件もルナ・レナリンの入れ知恵である。

 だが、それなりに鋭い王様は、モリィと謁見した後に彼女にこうこぼしたのだった。

「…そう上手くはいかないと思うよ?」



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 次話から、エンディングです。


 世界で2、3人くらいの読者のみなさま(=ブクマ数)ここまでご愛読ありがとうございました。

 ★5やいいねはとてもうれしかったです。

 少しでも作品で返すことができた…ことを祈ります。


 あと3話ほど、お付き合い下さい。




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