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迷いの森で、迷わす係  作者: なかの千五
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 自称勇者の遺体を返却するという連絡が、森の周辺三家ではなく、冒険者組合経由の書簡で送られてきた。


 迷いの森でとれる希少な動植物の素材は冒険者組合の利益にもなっているはずだから、彼らが「森側」の肩を持ったとしてもなんら不思議な話では無い。

 それなりの組織が正式に仲介した上で送られてきた書簡であれば、受け取らないわけにもいかなかった。


 そして、その連絡を受け取ることになった中央の、異世界勇者召喚局。


 自称勇者とは関係ないはずの部署だったのだが、英雄の指輪を森守から受け取った関係で連絡が来てしまったのだろう。

 指輪は襲撃で奪われたとはいえ、夜会で「正しく託せ」と渡された結果が、それを付けた勇者が森守に襲い掛かって、返り討ち……もうこいつはお前達が引き取れ、という流れである。


 その担当部署に限らず、自称勇者に関わる全ての者達が頭を抱えた。


 自称とはいえ、勇者の敗北を人々に知られるわけにはいかなかった。

 向こうもそれが分かっていて、返却するという連絡をわざわざ秘密裏に寄越して来たのだろう。


 だからこそ、受け渡しの場所は王都となった。



 ◆ ◆ ◆


 森守と面識のある4人の冒険者達が、その自称勇者が入った(ひつぎ)を護送しながらやってきた。


 王都のどこかの事務担当者に引き渡すだけの簡単なお仕事の予定だった。

 仕事が終わった後に、王都のどこを観光しようかと考えていた4人である。


 大陸に点在する転送門を経由しながら、彼らを乗せた馬車がやがて王都にさしかかる頃に……兵団に囲まれた。

 兵団は、護衛である冒険者達を護衛するための者達だという。

 冒険者達は呆然として、棺と一緒に護送された。


 王都の大通りを兵団が進むこと自体は、それほど珍しいものでもない。

 だが、そこに自分達が混じることになるとは考えてもみなかった冒険者達。

 凱旋(がいせん)でもなく荷物を運ぶようにただひっそり進むだけだったのだが、冒険者達の緊張感が跳ね上がった。


 護衛に囲まれたまま向かった場所は、どこかの庁舎ではなく城壁に囲まれた中央地区。

 冒険者達はゾッとした。

 平民は入っちゃいけない…と思っている場所である。


 文官も武官も、見かける者達は制服か正装姿の者達しかいない。

 周囲の景色も、やたら立派で重厚で上品な大きな建物しか存在しない。

 やがてそんな建物の一つに連行された彼らは、こちらにお願いしますとさらに屋内へと連行された。


 棺を運ぶのは建物の中から出てきた職員達で、もはや冒険者一行は何も仕事をしていない。

 もう、俺達は帰って良いですか? と言わせてもらえぬまま彼らは最後まで一緒に連行された。


 礼拝施設か魔法関連施設か、そういう神聖さか崇高さのような何かが(ただよ)う大きな広間に通された。



 奥に待つのは、魔法使いらしき杖を持った白い長衣(ローブ)の銀髪女性と、身分の高そうな身なりの男性。そしてその男性の護衛らしき者達が4人。



 冒険者達と棺と、それらを手引きした商人の男が、ついにその引き渡し場所へと到着した。

 魔法使いらしき銀髪の女性が彼らに告げた。


「ご足労おかけ致しました。そちらの棺が、(くだん)の勇者の遺体でしょうか?」

「あ、いや、まだ一応、生きてはいるんですがね」


 冒険者達の代表が少しどぎまぎしながら答えると、魔法使いは特に驚かずに棺を運んだ職員達に(ふた)を開けるように指示を出した。


 その勇者は、あの「英雄の指輪」を付けていたのだから不死であってもおかしくはない。


 だが、蓋を開いて、魔法使いと他の者達は目を丸めた。


「…なんですか、これは?」

「…てんぷらこ(?)、だそうです」


 自称勇者はなぜか、棺の中でフワっとした白い粉の中に半分埋まって眠っていた。


 謎の光景に受け入れ側の全員が頭の上に「?」マークをひねり出す中、魔法使いだけは淡々と「なるほど緩衝材(かんしょうざい)()わりですか」と勝手に解釈しつつ次の指示を出そうとした、その時、


「「!?」」


 カッと、棺の中の男が目を見開いて、跳ね起きた。


「やめろっ!! や、やめろおっ!!

 俺を、俺をもうカラッと()げるなぁーー!!!」


 そこにスッと割り込んできた魔法使いの女が素早い詠唱と共に杖を振り下ろした。


(あま)(いざな)睡魔(すいま)()(ごえ)


 コツンではなくゴッ! という(にぶ)い音と共に勇者の(ひたい)に落とされたその睡眠魔法の一撃(?)が勇者を(したた)かに寝かしつけた。


 バフッと粉の舞う中に再び倒れ込んだ勇者を前に、魔法使いが指示を出した。


「蓋を」

「「!?」」


 だが魔法使いの命令には逆らえないのか、数々の疑問はそのままに職員達はその棺の蓋を閉じてしまった。


「さて」

「さてでは無かろう! これは一体――」


 どういうことだ! ともう一人の高貴そうな男の方が声が荒げようとしたところに、魔法使いがスッとその杖を男に向けて、男はピタリと口を閉じた。


 護衛をいっぱい引き連れた身なりの良い男の方が身分が高そうに見えたのだが……この場で最も力があるのは魔法使いの彼女らしい。その彼女が冒険者達に礼を述べた。


「これで無事、引き渡しは完了致しました。ご協力ありがとうございます」


 無事に(?)終わったようだ。

 終わってしまいそうになって、冒険者の一人が声を発した。


「あ、あの!?」


 恐る恐る発言する冒険者に魔法使いは無言で続きをうながして、それを受けて冒険者がゴソゴソと腰鞄(ポーチ)の中を(あさ)りながら、言葉を続けた。


「そ、その、できれば買い取って頂きたいものが、あるの、ですが…」

「なんでしょう?」


「えっと……これ、です!」


 彼が取り出したそれは、指輪だった。


「英雄の指輪…です」

「「!?」」


「買い取りましょう。言い値で」

「「!?!?」」


 魔法使い以外の受け取り側全員が、驚きの状況についていけていない間に商談がトントン拍子で進んでいく。


「えっ!? 言い値、ですか!?」

「…買取価格は後で相談のうえで決めて頂いても構いませんよ?」


 冒険者達が驚きながら後ろの商人の青年にチラッと視線を向けたのを見て、魔法使いがそう答えたのだが、その商人の方からすぐに値段が提案された。


「金貨15枚」

「「!!」」


「よろしい。買取成立です」

「「!!!」」


 二人以外の全員が絶句した。


 冒険者達にとっては金貨は「高すぎる」即金で、他の者達には神器である英雄の指輪の値段にはあり得ないほどの「安価」での叩き売りだった。

 それでも二人は、そのまま話を進めていく。


「ですが今は持ち合わせが無いので……ひとまずこれを手付けとして、どうぞ」

「!?」


 魔法使いが【収納】スキルとは少し異なる空間から取り出したそれは、(こぶし)を超える大きさの魔石だった。

 むしろそれ自体が金貨15枚では済まないものを、手付けとして差し出されてしまった商人は引きつった笑みで平静を(よそお)うのが精一杯だった。


「ところで」

「おい、貴様っ! ロザリーは――」


 後ろから割り込んで来ようとした高貴そうな男に対して、


(だま)れ」


 と沈黙の詠唱とともに一瞥(いちべつ)だけした魔法使いが、再びそのまま商人の青年に話しかけた。


「ドイール家のご令息でよろしかったでしょうか?」

「…はい。商人の、ゴナンと申します」


 面識のないはずの辺境領の五男である自分を知る魔法使いに、少し警戒の色を見せたゴナンに対して、彼女は軽く頭を下げた。


「失礼、名乗りが遅れました。私の名はルナ・レナリン。宮廷魔術師団の副団長を拝命しております」


 レナリン!? 王国の盾!!

 その悲鳴を商人としての根性でどうにか飲み込んだゴナンだが、いつの間にかその手の上に載せられてしまっていた魔石のずっしりとした感触には気づくことができなかった。


 王国の盾とは、その名の通り、王の隣に立つ護衛である。


 たしかに勇者で高官を()ったつもりはあったのだが……いきなり大物がかかり過ぎだ!

 即座に戦略的撤退に移ろうとするゴナンを前に、同じくゴナンの捕獲に動いたルナ・レナリン。


「すぐに売買契約書を作成いたしますので、少々お時間を頂けますか?

 あちらの部屋で、二人で、お話ししたいことがございます。

 冒険者の皆様には護衛を付けて、宿までお送り致しましょう。

 では、こちらへどうそ」


 たとえここで逃げたとしても契約書の件で呼び出すし、護衛という名の見張りもつけて逃がさない。

 そもそも逃がす気は無く「こちらへどうぞ」と奥へとうながしてくる、後ろで沈黙したまま口をパクパクさせている王子様を歯牙(しが)にもかけない王国最強の魔法使いがゴナンの目の前で、返事を待った。


 …こういう時にあいつらがいれば逃走に便利なのに、と現実逃避ぎみに考えながらも、もはやぐうの()も出せずにただ「…はい」という力無い音を口から吐き出すだけの、ゴナン。


 そんなゴナンに、銀髪の魔女は妖艶(ようえん)微笑(ほほえ)み返したのだった。


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