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ジンジャーの日常

 ジンジャーはよくガイアスに力仕事を頼まれる。内容は商品の荷だしや配達など様々だ。仕事を終えると、彼は労働に見合った賃金をくれる。貰ったお金はチクタックの銀行に全額預けており、何を買うかまだ考えていない。


「この荷物なんだが……」


 ガイアスの仕事場には木箱が山積みになっていた。木箱は両手で抱えられる大きさで中に入っているもの次第で重さが変わる。ガイアスがジンジャーを助っ人に呼んだのも頷ける忙しさだ。


「じゃあ、僕はこっちの荷物を運びます」

「いつもお願いしてるやつな。頼むぜ」


 ガイアスの手伝いをよくしているジンジャーは、木箱の種類を理解していた。彼は運び慣れているものを選び、それを持って配達先へ向かう。

 あの木箱の量だと運び終える頃には夜中になってしまうだろう。

 ジンジャーは自分を観察しているアンバー以外、周りに人間がいないことを確認すると軸足に力を込め、飛び上がった。

 ジンジャーの跳躍は二階建ての建物を飛び越え、彼は民家の屋根に着地する。

 人が通る通路よりもこっちのほうが全力を出せる。

 ジンジャーは息を深く吸い、目的tに向かって走る。民家の間の屋根はもちろん、通路の向こう側にある屋根さえも飛び越える。こうやって移動すれば、配達にかかる時間は大幅に減る。


「荷物をお届けに参りました!」


 目的に近づくとジンジャーは人がいない路地に着地し、普通の配達員を装う。

 頭を撫で、角が隠れていることを確認したのち、依頼人に荷物を届けた。届け終えると、ジンジャーは再びガイアスがいる仕事場へ戻り、次の荷物を運ぶ。

 それを繰り返していると、山積みになっていた木箱があっという間に無くなった。


「やっぱ、ジンジャーがいると早く仕事が終わるな」

 

 仕事が一段落したガイアスが呟いた。


「これ、今日の駄賃な」

「ありがとうございます」


 今日はいつもより貰う金額が多い。払う金額を間違えたのではないかとジンジャーはガイアスを見るも、彼はニコニコしている。


「いつもより多く荷物を運んでくれただろ。だから今日の駄賃は弾んでおいたぜ」


 ガイアスの言う通り、ジンジャーは少し力を使って荷物を多く運んだ。納得できる理由だったので、お金を素直に受け取る。


「じゃあ、僕はここで」

「おう! また頼むな」


 ガイアスの手伝いを終える頃には夕方になっていた。銀行の窓口はもう閉まっているだろうし、貰ったお金を預けるのは明日にしよう。

 これといった用事のないジンジャーはシンバの家へと帰った。


 シンバの家へ帰ると、彼は夕飯の支度をしていた。隣にはアンバーもいて、料理の手伝いをしている。


「おかえり、ジンジャー」

「ただいま」

「……ふんっ」


 ジンジャーが帰ってきた事に気づくと、シンバは声をかけてくれたが、アンバーは不機嫌な表情を浮かべる。


「あともう少しでスープが出来る。座って待っていておくれ」


 ジンジャーは玄関にある物掛けにハンチング帽とコートをかけ、うがいと手洗いを済ませると、食卓の椅子に座り、夕食が出来上がるのを待った。

 しばらくすると、ジンジャーの目の前に湯気のでた暖かいスープ、ドレッシングがかけられた葉物のサラダとパンが置かれた。

 シンバとアンバーも座り、皆で祈りの言葉を口にした後、夕食を食べる。


「今日は帰りが遅かったね。何かあったのかい?」

「パンを買いに行ったら、途中でガイアスさんに会って。なりゆきで配達の仕事を手伝ってた」

「ちゃんと見返りはあったのかい」

「お金を貰った。今日は多く荷物を運んだので多めに」

「それは良かった。それにしても、ガイアスはジンジャーによく仕事をふるね。【鐘突き】の仕事から引き抜かれなきゃいいけど」

「それはない。鐘突きの仕事が一番大事」

「……」


 ジンジャーとシンバは夕食を食べながら今日の出来事を話す。

 チクタックの町で二年過ごしていると、パン屋の亭主、ガイアスなど顔見知りの知り合いが増えてきた。


 【鐘突き】の仕事は、高い時計塔が有名で観光資源となっているチクタックでは、重要な仕事である。そのため、見知らぬ人から”鐘突きのジンジャー”とよく声をかけられたりする。二年間でジンジャーはチクタックで欠かせない人、もとい鬼となっていた。


 アンバーは会話に加わらず、ぶすっとした顔をしていた。

 夕食のサラダを口にせず、フォークで野菜をぶすぶすと刺していた。


「アンバー、行儀が悪いぞ。何か言いたいことがあるのか」

「……こいつ、町の人たちに好かれた。鬼なのに」


 シンバに促され、アンバーはぼそぼそと話し始めた。


「ジンジャーは人気者だよ。【鐘突き】をしていた私よりもね」

「あたしはお父さんの仕事を継ぐために帰って来たのに! もう【鐘突き】はこいつの仕事になってるじゃない」

「突然アンバーに代わったら、皆驚いてしまうだろうね」

「……負けたわ」


 アンバーがふてくされていたのは、ジンジャーがチクタックの人々から【鐘突き】として認められ、好かれていると感じたかららしい。

 今、【鐘突き】の仕事をジンジャーから引き継いでも、チクタックの人たちの評価を覆せないとも思っているようだ。


「【鐘突き】は時計塔の鐘を朝七時に突く仕事。勝ち負けはない」

「あんたにだけは言われたくない!」

「……鬼もこの鐘の音を頼りに生きてる」

「え?」


 ジンジャーはシンバにさえ告げていない秘密をアンバーのために明かした。


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