代理の【鐘突き】
「よそ者を鐘突きに? お前、正気か?」
「すぐに代わりを見つけるのは難しい。君たちもこいつの身体能力見ただろ」
「おう、すばしっこくて捕まえられなかったな」
ジンジャーはシンバと男たちの会話を聞いていた。
話からして【トケイトウ】という仕事は身体能力の高さを求められるらしい。
鬼にとって人間より身体能力が高いのは当然のことだが、人間たちに認められると嬉しい。
「彼なら【鐘突き】の仕事も楽勝さ」
「シンバ、歩くならこれを使いなさい」
「神父様ありがとうございます」
シンバは神父から松葉杖を貰う。シンバはそれを支えに歩く。その姿はおぼつかなく、転んでしまわないか見ていてひやひやしてしまう。
「皆もありがとう」
「おう」
「彼についてはーー」
「事情は俺たちがあいつらに話しておく。シンバは家に帰れ」
「ありがとう」
シンバは男たちと別れる。
「さあ、行こうか」
その場に突っ立っていたジンジャーは、シンバと共に教会を出た。
ジンジャーは松葉杖を使うシンバに歩調を合わせる。
「助けてもらった上に、私情に巻き込んですまない」
「……」
「もう少し、私を助けてもらえないだろうか」
ジンジャーは街並みを見つつ、シンバの頼みごとに応えるべきか考えていた。
大勢の人間が住んでいる場所に入ったのは仕方がない。だが、鬼である自分が長くここにいてもいいのだろうかという葛藤があった。
鬼は人間にとって脅威であり、差別される対象である。
もし、帽子が風に飛ばされ、角を大勢の人間に見られてしまったらーー。
最悪の事態を想像したジンジャーは首をぶんぶんと横に振った。
「そうか……。せめて明日の【鐘突き】は手伝って欲しい」
「カネツキ?」
「そうか、君には分からないか」
シンバは立ち止まり、高い建物を指した。
その建物は、チクタックに入る前から見えていた。あんなに高い建物をジンジャーは初めてみた。
「あれがチクタックの【時計塔】だよ」
「トケイトウ……!」
先ほど、シンバと男たちの会話の中で出てきた単語である。知らない言葉を覚え、ジンジャーは時計塔についてもっと知りたくなった。
「この町にはね、時計塔の鐘を朝七時に鳴らす決まりがあるんだ」
時計についてはジンジャーも知っていた。
人間が腕に付けているもので、耳をすますとそこからカチカチと聞こえる。
「アサ、シチジ?」
「すまない。君に時間のことを話さなくてはね」
シンバはポケットから丸い物を取り出した。親指に力を入れると、ぱかっとフタが開いた。聞き覚えのあるカチカチという音に合わせて針が規則正しく動いている。その針が一周すると長い針が動いた。
「これが時計。この短い針が七をさしたら”七時”だよ」
時間を覚えたジンジャーはシンバの仕事内容を理解した。
シンバは七時にチクタックの時計塔の鐘を鳴らす仕事をしている。すぐに代役を立てられる仕事ではないらしい。
「私が鳴らす鐘は、時計塔の頂上にあるんだ」
「チョウジョウ……」
ジンジャーは時計塔を見上げた。頂上が見えないほどに高い。
「時計塔に上って鐘を突こうという人はあまりいなくてね。明日中に私の代わりを見つけるのは難しい。頼れるのは君しかいないんだ」
シンバが真剣な顔つきで、ジンジャーを見つめる。
見上げても頂上が見えないほどに高い時計塔の鐘を鳴らすのは人間にとって脚力と体力が必要な仕事でやりたいと思う者は少ないだろう。鬼であるジンジャーを除いては。
「トケイトウ、カネ、ツク」
人間であれ、困っている人をほおっておけないジンジャーは、シンバの仕事を手伝うことにした。
「ありがとう!! 続きの話は明日しよう。今日は私の家でゆっくり身体を休めておくれ」
その後、ジンジャーはシンバの自宅に招かれ、一夜を過ごした。
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