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ジンジャーの新たな夢

 チクタックの人々の声援と、サフラに背を押されたジンジャーは死ぬのではなく戦う道を選んだ。

 戦うと決まれば、ジンジャーは対峙する兵士たちを殴る蹴るですぐに無力化した。

 残るはマールとクーヘンである。


「マール! 何をしている、早く力を使ってあやつの身動きを止めろ!」


 クーヘンはマールに命令する。

 だが、マールはジンジャーに力を使わなかった。


「ジンジャー、サフラ様の息子だというのは本当ですの?」


 マールの問いにジンジャーは頷いた。

 以前、マールに「どうしてジンジャーの肌は白いのか」と尋ねられた時、ジンジャーは「半分人間の血が混ざっているから」と答えている。ジンジャーが頷くだけで、マールは全てを理解するだろう。


「でしたら、わたくしはジンジャーに力を使いたくありません。クーヘン司教、あとはご自身で解決してくださいまし」

「マール! 我にそのような態度をとっていいのか!? 国に帰ったら、聖女の身分を取り上げてやる!!」


 マールはジンジャーに道を譲った。

 クーヘンはマールの態度に憤慨し、聖女の身分をはく奪すると彼女を脅した。


「わたくし、自分の立場よりも二十年前、クーヘン司教がサフラ様を傷つけたお話のほうが気になりますの。後で詳しく訊かせていただけませんこと?」

「くっ、役立たずめ!!」


 ジンジャーを無力化することのできる唯一の味方を失ったクーヘンは、マールに暴言を吐いた。

 マールは髪をかきわけ、ふんっと鼻で笑っていた。


 マールとクーヘンの仲間割れを見た所で、ジンジャーはクーヘンに近づく。


「近づくな、化け物!!」


 クーヘンはその場に尻もちをつき、身動きが取れなくなっていた。

 ジンジャーはクーヘンの前に立ち、彼を見下ろす。


「ひいっ」


 追い詰められたクーヘンは、頭を押さえその場にうずくまった。

 ジンジャーは握った拳を振り上げた。

 無抵抗の人間を殴るのは良心が痛む。

 だが、クーヘンは母親のサフラを傷つけ、時計塔の鐘の音を止めた人物。

 ジンジャーはクーヘンの頭を殴った。

 ジンジャーの一撃で、チクタックの騒動は幕を閉じる。



 ジンジャーが教会の兵士とクーヘンを倒してから一週間が経った。

 チクタックに【鐘突き】の仕事が戻り、毎朝決まった時間に時計塔の鐘が鳴る。


 ジンジャーは鬼の隠れ里に帰らず、チクタックにいた。

 母親のサフラも騒動の後始末をするため、チクタックに残っている。

 あの後、クーヘンは二十年前の罪を認め、首都へ帰っていった。

 クーヘンの罪が教会本部に知れ渡れば、彼は司教の座を降りることになるだろう。

 サフラはチクタックで起こった事件を教会本部へ報告するために残っているのだ。


「ジンジャー、どうだった? 私が突いた鐘の音は!」


 仕事を終えたアンバーが帰宅するなり、ジンジャーに感想を聞いてきた。


「いい音だった。隠れ里の皆の目覚ましになってるはずさ」

「……心がこもってないわ」

「それは、アンバーがジンジャーに毎日同じ質問をしているからじゃないかな」


 ジンジャーの感想にアンバーは文句を言った。

 感想に心がこもっていないのは、シンバの指摘した通りだ。


「毎日聞かれて感想の内容がマンネリになるのも分かるが、隠れ里へ帰るまでの間、どうか娘に付き合ってほしい」

「お父さん! まるで私がジンジャーに迷惑かけているみたいじゃない」

「実際そうだろ?」


 シンバの答えにふてくされたアンバーは、ジンジャーの腕を引っ張った。


「そろそろパン屋さんが開くよ。一緒にミルクパンを買いに行こう!」

「……そういうところだぞ」


 アンバーに引っ張られ、ジンジャーは彼女と共にパン屋へ出掛ける。

 玄関に置いてあるハンチング帽に手を伸ばすとアンバーに止められた。


「もう、帽子被らなくていいんだよ」

「そうだった。つい癖で……」

「じゃ、いこ!」


 ジンジャーはハンチング帽を被らずに、シンバの家を出た。

 家を出ると、近所の人たちに声をかけられる。


「おはようジンジャー!」

「お、今日はアンバーとデートか?」

「ち、違うよ! ジンジャーの大好きなミルクパンを買いに行くの!!」


 ハンチング帽で角を隠さずとも、町の人たちと普通に会話が出来ている。

 チクタックの住人はジンジャーが鬼であることを受け入れ、普通に接してくれる。【鐘突き】としてチクタックで過ごした二年間は無駄ではなかったのだ。


「一緒にパンを買いに行くんだろ? なら、デートじゃないか」

「だからーー」


 アンバーが言い返す言葉を考えている間に、その住人は「じゃあな」と言い、仕事場へ向かった。


「ただのジョークだよ。真面目に受け取ることないって」


 気の利いたことを言ったはずなのに、アンバーにきっと睨まれる。

 

 ジンジャーとアンバーは近所の人の冷やかしを受けた後、いつものパン屋へと向かった。そこでミルクパンを三つ買った。それまでの間、二人は会話はなく、静かだった。


「あの……、さ」


 パン屋を出て少し歩いたところで、アンバーが沈黙を破る。


「ジンジャーはサフラさんの用事が終わったら、隠れ里に帰っちゃうの?」

「うん」

「私の家で居候したいとか……、思ったり、する?」

「え!? うーん、そうだなあ」


 サフラが後片付けを終えたら、ジンジャーは彼女と共に隠れ里へ帰ると決めていた。

 勝手に出て行って、イズチや鬼の皆を心配させてしまっているからである。

 

 実のところ、ジンジャーはそのあとのことを考えていなかった。

 アンバーに問われ、ジンジャーは自分がやりたいことを考える。


「このミルクパンを自分で作れるようになりたい」


 すぐに答えが出た。

 それは、赤子の肌のように柔らかくて、優しいミルクの味がするパンを毎日食べられるように、作り方を覚えたいという願いだった。


 ジンジャーの答えを聞いたアンバーはぷっと笑った。


「なら、今度はパン屋で修行しないとね」

「そうする」


 パン屋の亭主はジンジャーの弟子入りを認めてくれるだろうか、そんな話をしながら、ジンジャーとアンバーはシンバが待つ家へ帰る。

完結まで読んでいただきありがとうございました。

また、新作でお会いしましょう!!

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