サフラ
ジンジャーはシンバと共に鬼の隠れ里へ入る。
二年いなかったが、ジンジャーにとっては代わり映えのない光景が広がる。
女の鬼たちが、森で捕ってきた木の実、山菜、魔物の肉を使い、夕食の支度に取り掛かっていた。男の鬼たちは、夕食が出来上がるまで別の建物にいる。彼らはそこでエリオルが欲しがる”商材”を作っている。
ここの隠れ里はジンジャーの家族を含め、三家族で共同生活を送っており、食事は皆集まって食べている。
「ハジカミ!!」
鬼の女たちの輪の中にいた人間の女性がジンジャーの姿に気づくと、調理の手を止め、ジンジャーに飛びついた。
ジンジャーは女性を受け止め、ぎゅっと抱きしめる。
「ただいま……、サフラ母さん」
ジンジャーの母親、サフラに強い力で抱きしめられ、ジンジャーは身動きが取れなくなる。料理をしていた鬼の女たちも作業を止め、二人の周りに集まる。
「ようやっと帰ってきたねえ」
「サフラさん、心配してたんだよ」
「エリオルがついてるとはいえ、人間の町は危険だからね」
彼女たちもジンジャーの帰郷を喜んでいた。
そして、彼女たちの関心はジンジャーからシンバへ移る。
「あら、エリオルかい?」
「それにしては、いつもより若く化けているけど……」
「ジンジャー! 家族との再会の邪魔をしてすまないが、どうなってるんだ? 説明してくれ!!」
鬼の言葉が通じないシンバにとって、巨体の鬼に囲まれ囁かれていると心が落ち着かないらしい。
「ジンジャー? ハジカミ、この人は……、人間に化けたエリオルではないの?」
人間の言葉を聞いたサフラは、ジンジャーとの抱擁を解き、息子が違う名前で呼ばれていることに疑問を持った。その違和感から、目の前にいる人間がエリオルでないことを見破る。
「この人はシンバ。僕は二年間この人の家で暮らしてた」
「ああ! この人がシンバさんね!!」
ジンジャーは人間の言葉で母親にシンバの事を紹介する。
「シンバはエリオルの後継者。これからシンバが物資を持ってくる」
そしてジンジャーは鬼の言葉で、周りにいる鬼たちにシンバが隠れ里にいる理由を話した。
「シンバのことを人間に化けたエリオルだと思ってるだけ。いつも皆ここに集まってご飯を食べてる。今は夕飯を作ってたところ」
「そうかい。スープの材料にされるのかとひやひやした……」
彼女たちがシンバをスープの具材にするはずがないが、言葉が通じなければ、そう勘違いしても不思議ではない。大剣のように巨大な包丁を持って集まって来たのだから。
ジンジャーはシンバにただ料理をしていただけだと伝えた。
それを聞いたシンバは安堵のため息をつく。
シンバの言葉を聞き、サフラはふふふと笑った。
「私も始めは貴方と同じ反応をしていました。次第に慣れますよ」
「は、はあ!?」
現状を把握し、気持ちが落ち着いたシンバはサフラを見て唖然としていた。
「シンバ?」
目を見開き、シンバは今までにない驚き方をしている。
だた、サフラのこと、母親が人間であることはシンバに話したはずだ。
ジンジャーはシンバが何に驚いているのか分からず、声をかける。しかし、シンバは反応してくれなかった。
「聖女サフラ様……、生きていらしゃったなんて!!」
シンバはサフラの前で跪き、頭を下げた。




