帰郷
シンバと出会った場所から、少し馬を走らせたところにジンジャーの故郷がある。
入口は森の木々に隠れているのと、人間が採取するものが付近にないため、隠れ里の存在は知られていない。
入口を超えると、懐かしい光景が広がる。
大木を加工した家、景色に溶け込むように計算して建てられているのは相変わらずだ。これも人間に鬼の集落があると悟られないためである。
入口に入り、ジンジャーは馬車をとめた。
「ここが、君の故郷か……」
シンバはジンジャーより先に馬車を降り、隠れ里の様子を見ていた。
馬車の到着を音か匂いで知ったのか、前方から全身を布で隠したものがこちらに歩み寄ってくる。それは身長と体格がジンジャーの倍あり、向かい合うように立たれるとその差は際立った。
ジンジャーはこの人物が誰か、匂いで分かっていた。
「戻りました……、イズチ父さん」
ここにいるのはジンジャーの父親だ。
イズチは鬼の中でも背が低いほうだ。息子のジンジャーは人間の血を強く引いているため更に小さい。小さいとはいえ、長身と言われているシンバよりも背が高い。
ジンジャーは二年ぶりに使う鬼の言葉で、イズチに帰還したことを告げる。
イズチは地鳴りがするような低い声で、ジンジャーに語りかけた。
「隣にいるのは、シンバという人間か?」
「はい」
「何故、人間を連れてきた? 恩があるとはいえ、人間をここに連れてくるのはーー」
「今後はシンバがエリオルの仕事をします。シンバはエリオルの後継者です」
「……エリオルの仕業か」
イズチは開口一番にシンバを連れてきた理由をジンジャーに問う。
人間が鬼を恐れているのと同様に、鬼は人間に存在を知られることに怯えている。人間のシンバを隠れ里の奥に連れて行けば、大混乱になる。
訪れた人間がジンジャーを二年間保護してくれた恩人のシンバでなければ、イズチは敵意をむき出しにし、最悪、殺しただろう。話を聞いてくれているだけ、譲歩しているほうである。
ジンジャーはイズチを納得させるため、エルフの行商人、エリオルの名前を出した。
シンバがエリオルの知り合いであると知ると、イズチは全身を隠していた布を地面に置き、真っ赤な肌と筋肉粒々な肉体、そして頭上にある角を露わにした。
本で書いた通りの鬼を目の当たりにしたシンバは、強張った表情を浮かべていた。馬車の中では「他の鬼が現れたとしても今更気にしない」とジンジャーに話していたものの、想像をはるかに上回ってしまったようだ。
「ジンジャー……、この鬼は誰? さっきから私を睨んでいるけど、襲われたりしないよね」
イズチの迫力に圧倒され、シンバに目の前の鬼の機嫌はどうだと尋ねられた。
ジンジャーとイズチの会話は鬼の言葉でかわされており、シンバには通じていない。
ジンジャーは人間の言葉に戻り、シンバに状況を説明する。
「ああ、よかった。さて、荷物はーー」
ジンジャーの話を聞き、安堵したシンバは仕事に戻る。
木箱は力持ちの成人男性が四人で運んでやっとの重さがある。シンバは一人でどうやって運ぶか考えていた。
イズチはシンバの傍に立った。
イズチは荷台を指し、入っていいかと仕草でシンバに伝える。
シンバは両手を荷台へ向け、どうぞと伝えた。
イズチは中腰の体勢で荷台に入ると一人で木箱を押し、外へ持ち出した。あっという間に荷台に入っていた木箱が全て外に出されていた。
「注文したものは全て入っている」
イズチが全ての木箱の中身を確認し、問題ないことをジンジャーに伝えた。
「……そいつを連れて中に入れ。ハジカミの恩人に礼もせずに帰すわけにはいかないからな」
イズチは全ての木箱を積み上げ、それを両手で持ち上げた。彼は荷物を運ぶ途中でジンジャーに言った。
ジンジャーはシンバを連れ、二年ぶりに故郷へと帰る。




