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ジンジャーの安否

「その、クーヘン司教の様子はどうですか?」

「切断された腕はマール様のお力で繋げた。命に別状はないが……」

「が?」

「かなりお怒りになられている。シンバ、お前も覚悟しておくんだな」

「はい」

「ジンジャーは鬼だけど、チクタックで悪いことはしていないわ! むしろ、人の役に立ってた。司教の腕を切断したのも、ジンジャーに嫌がらせをしたからでしょ? 痛い目にあって当然じゃない!! おかしいのは司教よ!」


 アンバーは、ジンジャーの良い行いと、司教に大怪我を負わせたのは正当防衛だと神父に訴えた。

 シンバもアンバーと同じ気持ちだが、言葉を飲み込む。

 今回はどうあってもジンジャーが悪くなる。それは彼が鬼であり、教会の司教であるクーヘンを傷つけたからだ。


「神父様、ジンジャーに合わせてください。彼と話がしたいのです」

「二年間、共に暮らしてきた情もあるだろうがダメだ」


 神父にジンジャーに合わせてほしいと懇願するが、彼はそれを撥ねつけた。


「それに、ジンジャーは眠っている。いつ目覚めて暴れ出すか分からないから、身柄はギルドに引き渡す」

「……分かりました」


 神父の話を聞くに、ジンジャーは教会ですぐに処罰を受けるわけではなさそうだ。目の前でクーヘンの腕を切断したことによって、教会の人々に手を出したら殺されるのではないかという恐怖心を植え付けたからに違いない。


 それに、ジンジャーの身柄はギルドに引き渡される。

 元々シンバはギルドで働いていた。

 あれからギルドマスターは代替わりしていないし、ここで無理を通すよりも、ギルドマスターに話を通した方がジンジャーに会える確率は高くなる。そう考えたシンバは、神父の主張を素直にきいた。


「その”寄付金”の件ですが……」

「そうだったな。クーヘン殿は私が使っている部屋にいる。お主の足の治療をしていた場所だ」

「ありがとうございます。寄付してまいります」


 ジンジャーの正体が鬼である事が皆にばれ、一刻も早く彼を救い出さないといけない。

 しかし、金に種着のあるクーヘンのことだ、こんな非常時でも”寄付金”のことは見逃してくれないだろう。


「お父さん、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ! すぐにジンジャーに会わなきゃ!!」


 シンバは激昂しているアンバーのほうへ顔を向けた。そして、彼女の後方にいる神父の様子をうかがう。


 この場にアンバーだけがいるのであれば、シンバは自分の考えを彼女に伝えただろう。そうすれば事はすぐにおさまる。だが、彼女の背後には神父がいる。自分の計画が神父の耳に漏れれば、自分とアンバーは不審な行動をしていると教会に拘束され、ジンジャーと会う機会を失うだろう。


「……」


 シンバは無言でアンバーを見つめる。


「お父さんの……、薄情者!」


 アンバーはシンバにそう吐き捨て、そっぽ向いた。

 ジンジャーが拘束されているという部屋のドアをじっと見つめている。

 余計なことを言わず、その場で大人しくしてくれるならそれでいい。

 シンバはアンバーから離れ、クーヘンの元へ向かう。


 コンコン、とドアをノックすると向こう側から「入れ」と返事が返ってきた。

 シンバは部屋の中に入る。

 そこには、神父が使っている椅子にふんぞり返って座っているクーヘンがいた。

 片手でワイングラスを持ち、もう片手で軽食を食べている所から、ジンジャーが切断したという腕はマールが力を使って治療したようだ。


 クーヘンは先ほど片腕を鬼に切断されるという恐怖を味わったというのに、今は酒と食事を楽しんでいる。彼の様子を見て、マールが傍にいなければ、死んでいたかもしれないのに呑気な奴だ、とシンバは思った。


「ん? お主は……、ああ”寄付金”を持ってきたのだな」

「はい。お約束の二十万バリズンです」

「そうか」


 シンバはクーヘンに”寄付金”を渡した。

 クーヘンは”寄付金”を受け取るなり、シンバに関心を無くした。


「では、私はこれで」


 シンバはクーヘンのせいでジンジャーの日常を崩されたのだと怒りの感情を込め、彼を一瞥し、部屋を出た。


 アンバーと神父の元へ戻ると、そこにマールの姿があった。


「おやめくださいマール様! あなたも司教様の様に大怪我を負ってしまいます!!」


 どうやら、神父はマールの行動を阻止しようとしているみたいだ。

 マールは神父の懸命な訴えを聞くも、首を振った。


「安心なさい。わたくしは鬼に対抗する力を持っています。この先に進んで悪いことが起こったとしても、あなたを責めることはありませんわ」

「ですが!」

「わたくしはあの者のことが気になるのです。わたくしの疑問に答えて欲しいのです」

「……」


 シンバとアンバーの時は「ダメだ」の一点張りだった神父であったが、頑固なマールを前に黙り込んでしまった。

 マールは立ち尽くす神父を押しのけ、ジンジャーのいる部屋のドアを開けた。


「まって、あたしも!」

「いけません。自分の身は守れますが、あなたの命の保証は出来ません。ここにいなさい」

「わ、わかりました……、聖女様」

「よろしい」


 アンバーが強引に部屋に入ろうとしたが、マールは優しくアンバーをたしなめる。

 そしてマールは一人、ジンジャーのいる部屋に入った。

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