寄付金
「クーヘン司教、私はこの町に来て、一万バリズンを毎月、二〇年間欠かさず”寄付”しております。それでも、マール様の恩恵を得られないのでしょうか」
「ふむ、それはチクタックの”寄付金”だろう? そなたの足の治療にかかる”寄付金”は別である」
「……そうですか」
シンバは、クーヘンの主張を聞き、顎に右手の親指と人差し指を包み込むように当て、考え事を始めた。寄付できる金額を考えているのだろう。
シンバは主張した通り、役場から【鐘突き】の給与が支給されると、すぐに一万バリズンを教会へ寄付していた。
その給与は寄付の他に、ジンジャーの給与、アンバーの学費と仕送り、生活費に割り振られると、ほとんど残らない。
【鐘突き】の仕事を始めたばかりの頃、肉や干し魚のない質素な食生活を心配したジンジャーは教会への寄付金を半額に減らしては、と提案したことがあるが、シンバはそれをしなかった。そのため、ジンジャーが貰っていた給与を一万バリズン減らし、それを食費に充てている。
アンバーが学校を卒業し、チクタックに帰って来て、生活に余裕が出るといった時に、足の治療費を求められるとは。
「私がすぐに出せる”寄付金”は……、二十万バリズンです」
シンバはクーヘンに寄付できる金額を述べた。
二十万バリズンはシンバの全財産である。
それを聞いたクーヘンは嘲笑う。
「ブルータ王国でたった五人しかいない聖女の奇跡を得るための”寄付金”が、たった二十万プリズンだと? 少なすぎて笑ってしまった」
「では、幾ら支払えば私の足を治して頂けるのでしょうか」
「……少なくとも百万バリズンだ」
「百万……!?」
「それが払えねば、我らは首都へ帰る」
「……」
提示した五倍の金額を請求され、シンバは苦渋の表情を浮かべていた。
百万バリズンとなると、誰かから借金しないといけない。全額返すには三年ほどかかるだろう。
聖女の癒しの力で難病を治療したい者は首都に山ほどいるはず。それを神父がクーヘンに懇願し、特別にチクタックに招いたのだ。
神父がシンバのために動いたのは、長年欠かさず”寄付”していたからに違いない。
「シンバ、その話、受けて」
「だが、私の判断で君とアンバーを苦しめることになる」
「足をマールに治してもらう機会は今しかない」
「だが――」
「ガイアスから貰ったお金、全部貯めてた。総額四十万バリズンある」
悩んでいるシンバの背中をジンジャーが押した。
ジンジャーの名義で銀行に預けているお金は、四十万バリズンになっていたはずだ。使うのであれば、今だろう。
シンバの全財産とジンジャーの貯金を足せば六十万バリズンになる。残りの四十万バリズンを借金したとしても、一年で返済出来るだろう。
「そなたとそいつの金額を足せば、六十万バリズンになるのか。ふむ、頭金としてはいい額だな」
クーヘンも納得している。
ジンジャーの説得で周りが少し借金すれば無理のない金額だろうという考えに向いている。
「……分かりました。足の治療費として百万バリズンを教会に”寄付”いたします」
「あい分かった」
寄付金の話が、クーヘンとシンバ双方で納得する形で終わった。
クーヘンは話が一段落する間、ソファに座り、紅茶を飲みながらクッキーを食べていたマールに、シンバの足を治療するよう促した。
マールはシンバに近づき、その場に跪く。彼女が目を閉じ、唇を噛みしめ、強く念じると彼女の手のひらから眩い青白い光が現れた。
その光を見たジンジャーは急な眩暈と吐き気に襲われる。