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足の対価

 仕事を終えたジンジャーは、パン屋に寄らずに家へ帰る。

 家に近づくなり、アンバーはジンジャーの後ろに隠れる。父親のシンバから身を隠すためだ。


「おかえり」


 家へ帰ると、朝食を作り終えたシンバが待っていた。

 食卓には、葉物のサラダ、パン、昨夜のスープに目玉焼きが三人前並んでいた。ジンジャー、シンバとアンバーの分だ。


「ただいま」

「さて、朝食といきたいところだけど……、アンバー!」


 ジンジャーの背後でビクッとアンバーが震える感覚がした。


「ごめんなさい。鍵は返すわ」

「勝手に持ち出して! 罰として、家の掃除と食材の買い出しに行ってもらうからな!」

「……わかった」


 シンバに叱られ、アンバーの弱い返事が聞こえた。


「さて、食べようか」


 それぞれの席につき、三人は朝食を平らげた。

 ジンジャーは空になった食器を集め、洗い場へ置いた。

 罰を受けたアンバーがそれらを洗う。


「アンバー、ジンジャーと一緒に教会に行ってくる」

「うん」

「買い出しに出掛ける時は、戸締り頼むね」

「はーい」


 ジンジャーはシンバを背負い、彼の松葉杖を持った。

 アンバーに見送られ、ジンジャーたちは教会へ向かう。

 ジンジャーは小走りで通りを抜ける。人通りが多い場所は、周りの人たちが道を譲ってくれる。これも、背負っているシンバが有名人だからである。今も「シンバ、足、治るといいな!」「ジンジャー、教会まで頑張れよ!」と応援してくれる。

 町の皆もシンバの足が治るよう望んでいる。

 もし、シンバの足が治ったら、彼は【鐘突き】の仕事を再開するのだろうか。

 シンバが仕事を再開したら、ジンジャーは隠れ里へ戻る。チクタックの人たちとはもう会えない。

 シンバを背負って教会へ向かう度、ジンジャーは不安にかられる。

 そのようなことを考えている内に、教会に着いた。


「シンバ、わざわざ来てくれてありがとう」

「神父様。こちらこそ私の治らない足のことを気にかけてくださり、ありがとうございます」


 教会の聖堂へ入ると、ジンジャーと彼に背負われているシンバの姿を見かけたシスターが「神父様が待っております」と声をかけられ、別室へ通された。

 別室では神父の他に、司祭の服を着たふくよかな体型の年配の男性と豪華で色鮮やかなドレスを着た若く美しい女性がそれぞれソファに座っていた。

 部屋の近くに用意されていた椅子にシンバを座らせ、ジンジャーは一歩後ろに下がる。


「こちらの方々は、司教のクーヘン様と聖女マール・ブランシュ様だ」


 神父は二人の素性をそれぞれ簡単に紹介した。その名を訊いたシンバは、今にでも泣きそうな顔をして「神父様、ありがとうございます」と感謝の言葉を告げていた。

 シンバの様子を見て、二人は彼の足を治すため、神父がわざわざ遠方からチクタックに呼んできた偉い人たちなのだろうとジンジャーは思った。

 紹介された二人は、品定めをするかのように、シンバとジンジャーをじっと見ていた。


「椅子に座っている中年の男が、手紙で書いていた『足が不自由な患者』かね?」

「はい。魔物に襲われた傷が深く、私の治癒魔法では完治させることが出来ず……」

「だから、私を時計塔しかない田舎に呼んだのでしょう? 司祭様の頼みだから仕方なく来ましたけど……、私の力を使わなければ治らない怪我ですの?」

「そ、それは……」


 クーヘンとマールのきつい発言に、神父がたじろぐ。


「シンバの足……、治らない?」

「ジンジャー、少し黙っていてくれないか」


 二人の立場が分からないジンジャーは、思ったことをその場で口にした。

 ジンジャーの余計な一言で、マールの眉が吊り上がり、不機嫌な表情を浮かべる。

 不穏な空気になったと感じ取った神父は、ジンジャーに注意をする。彼はすぐに黙った。


「私の力を疑っているの? 見てなさい」

「待ちなさい、マール。私たちはタダで怪我を癒しに来たわけではない」


 ジンジャーの言葉に誘発されたマールはソファから立ち上がり、こちらへ近づいてきた。マールの行動をクーヘンが止める。


「怪我を完治させるかは、彼の”寄付金”で判断する。さて、君は幾ら払えるんだ?」


 クーヘンは聖職者には似合わぬ、ゲスな笑みを浮かべ、シンバに金銭を要求した。


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