【鐘突き】の少年
新作の連載を始めました。
完走(完結)まで、よろしくお願いします。
チクタックの町には、高い時計塔が建っている。その時計塔は町のシンボルマーク。鐘の音は町全体に響き渡り、それを聞いた人々は活動を始める。
「……時間だ」
時計塔の頂上、ハンチング帽を被った少年は古い懐中時計で時刻を確認する。
懐中時計の針はあと三十秒で七時だ。
時刻を確認した少年は紐を思い切り引っ張り、鐘に打ち付けた。
ゴーン、ゴーン。
朝の七時。鐘の音が鳴り響くとき、この町の一日が始まる。
時計塔の鐘を鳴らすこと、それが少年の仕事である。
「耳栓忘れた」
耳栓するのを忘れ、大きな音を直に聞いた少年は顔をしかめた。耳鳴りが収まるまでその場でじっとする。
仕事を終えた少年は、階段を下ってゆく。
少年がいる時計塔はチックタックで一番高い建物。前任の人は階段を上り切るのに一時間かかったという。
少年は一階十二段ある階段を一歩で飛び降りる。リズムよく階段を降りていると、時計塔の外に出れた。
今日は月給が貰える日。少年は時計塔の傍にあるシンバの家へ向かった。
赤レンガの土台の上に白と赤色の蔓薔薇のフェンスに囲まれた、木造二階建ての大きな家。庭には多種多様な植物が植えられている。短く刈り揃えられた芝生の上には、手入れが行き届いた庭を鑑賞するための青銅色のガーデンテーブルと二脚のチェアが置いてある。
シンバはよくそれに座り、紅茶を味わっていたりする。
「お父さん! 私の言う通りにすれば、もう時計塔の鐘を鳴らす人を雇わなくて済むの!」
庭でシンバと見知らぬ女性が言い合いをしている。
様子を見るに、女性が一方的な主張をシンバに浴びせているだけだが。
「ああ、ジンジャー。おつかれさま」
話題を逸らせるかのように、シンバが声をかけてきた。
少年、ジンジャーは頭を下げる。
頭を下げたジンジャーは違和感を覚えた。彼は挨拶をする際、ハンチング帽が落ちぬよう頭上を手で押さえる癖がある。今日は生地の感触がしなかった。
しまった――!
「きゃああああ!」
ジンジャーが気づいたと同時に、女性が悲鳴をあげた。
「鬼! 町に鬼が!!」
女性はジンジャーの頭上を指し、声を荒げた。
ジンジャーは咄嗟に自分の頭上にある物を両手で隠した。そして自分の頭にちょこんと付いている五センチほどの出っ張りに触れる。
「お父さん! 早くギルドの人たちを呼ばなきゃ」
「ジンジャー、アンバーを担いで家に入りなさい」
「は、はい!」
シンバはジンジャーに指示する。
ジンジャーはシンバの指示通り、怯えている女性、アンバーの腰を掴みひょいと自分の背に乗せた。
恐れている人物に突然担がれ、身動きがとれなくなったアンバーに、手足をじたばた暴れられたが、それに動じず、ジンジャーは家の中に入った。
担いでいるアンバーをリビングの二人掛けのソファへ下ろす。
「お父さん! どういうこと!? 鬼を家に入れるなんて、正気!?」
「アンバー、落ち着いて聞きなさい」
シンバは水のはいったコップをアンバーに渡す。彼女はそれを受け取らず、父親をキッと睨む。状況は受け入れていないが話は聞いてくれるまでに落ち着いたみたいだ。
「この少年はジンジャー。鬼だ」
「だから――!!」
「現在、彼が時計塔の鐘を鳴らしている」
シンバは娘の主張を遮り、ジンジャーの事を簡単に説明する。
「アンバーさん、初めまして。時計塔の鐘突きをしているジンジャーです」
「……いつからやってるのよ」
「縁あって二年前からやらせてもらっています」
「二年前!? 私が家を出てからじゃない」
ジンジャーはアンバーの質問に答えた。そして、簡単な身の上話をする。
早速ジンジャーがピンチに!?
何故、ジンジャーが正体を隠してまで人間の町で働いているのか、昔話が語られます。
次話は19時頃更新予定です。気になる方はブックマークよろしくお願いします!
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それでは、次話お楽しみに!!