第二部 社を探す
※これは第1話の分割版です。全編よみきる時間の無い方向けに用意しているものです。一気に読める方は全編版をオススメします
休日。俺たちオカルト研究会のメンバーにとっては取材をするにはもってこいの縛りのない一日。 今回は土日の2日間を使って取材をする予定だ。
現在午前5時前。高級住宅街の最寄り駅にしては始発が早い方なのか、既に出たあとらしい。2つ目の便まで後どのくらいだろう。
そんなことを考えているうちに、乗ろうとしていた電車がホームに入ってくる。こんな早朝に電車に乗るやつはなかなかいないと思いがちだか、意外といるもので、スーツ姿のやつが降りてきた。
こうして遠出するうちに知りあった仲故、社交辞令として軽く会釈をして電車に乗り込む。幼なじみが住む家に近い駅は次の駅だ。起こしに行くことにならなければ良いが。
そう思い、連絡が無いか携帯を取りだし確認する。通知なし。仕方なく通話アプリから電話をかけることにする。無料で通話し放題の世の中でよかった。
コール音を聞きながら、先程会釈した相手のことについて考える。なんでも最近妻の様子がおかしいとか。そこに出張が不自然に重なってそれを問い正せなくて困ってるそうな。
稼ぎが良くて、家事育児にも積極的。妻のケアも考える割と理想的な旦那のどこが不満なのか。まあ所詮は他人の家庭事情。口出しできる立場じゃない以上は考えても無駄である。
あえて彼の欠点を言うなら、趣味のオカルト研究に余念が無い事だ。趣味を持つのは良いが、時に家庭を蔑ろにする程になると考えものだ。
そんなことを考えていたら、通話が繋がる音がした。もしもし。という通話越しだと若干高くなる幼なじみの声と駅のホームにいるであろう声に安堵する。
どうやら起こしに行かなくて良いらしい。そう思いながら、どうせならと乗る電車の確認をする。今乗っている電車にそのまま乗ることになるが、如何せん幼なじみもそれを理解して乗ってくることが出来るか不安だ。
何せつい最近もやらかしたくらいなのだから、不安になるとは当然の話。にもかかわらず、1ヶ月くらい前の話。と、さも子供の頃のことというかのような口振りで返してくるから腹立たしい。
楽観視は行き過ぎると破滅を招くと、実際に体験しないと分からないのかこの馬鹿は。と思いながら通話をなるべく静かに切る。早朝に乗るがゆえの余裕。がしかし、普段電車に乗っている時に出そうになるので、今後は控えるべきか。
そう思っていると、目の前には幼なじみがおり、何考えてんだ。と言わんばかりの顔で見下ろしていた。いつの間にか駅に着いていたようだ。
2人揃ったので、今日明日の予定を確認する。目的地までは2回ほど乗り換えていくことになる。
片道2時間ほどかかる目的地の最寄り駅から更にバスで山奥まで進んでいく。これで最寄駅になるのだからそれほど田舎ということになる。
今日明日で、目的地付近にある目星をつけた神社を全て周り噂の検証をする。と同時に宿屋の女将から噂道理の話が聞けるか確認する。帰りは来たルートを逆戻りする事になるが、注意点が1つ。
バスは1日に3本。午前8時、正午、午後6時に最寄り駅発の往復便のみだ。それを逃すと電車に間に合わなくなる。週明けは通常どうり学校に行かなければならない。当然遅刻するだろう。
日本の電車は異常なまでに正確だ。田舎の電車にはあまり言えたことではないが、それでも世界的に見て病的なまでの正確さは賞賛に値するほどだ。
実際、秒単位で時刻が設定されている国なんて聞いたことがない。日本くらいだろう。逆に困る時は無くはないが田舎に限った話なので、首都圏じゃ関係ない。
思考が逸れた。まぁ、そんな正確な日本の電車故数分遅刻でもすれば週明けの雷は確実だ。もちろん2回。登校してすぐに生活指導の先生に1回と部活中に顧問の先生に1回。ちなみに同一人物だ。
恐ろしい想像を話しながらしたで2人で身震いしたが、遅れなければいい話だ。確認が済んだところで乗り換えの駅に到着。目的地までは新幹線で最寄り駅まで行く。
2人とも朝食がまだなので、弁当を買ってから乗ることにする。幼馴染のチョイスはスタミナ弁当。正直どうかと思ういろいろと。
俺はと言うと1番バランスの良さそうなものを選んだ。幼馴染には「ゲテモノはどうかと思うぞ」と引かれたが気にしない。
新幹線に乗り発車を待つ。予約席故なのかは知らないが一定数人はいる。数人程度で座席がスカスカだが。
電車が動き出す。バカはウキウキが隠せないらしく、楽しそうな表情で窓を見ている。男ふたりの旅の何が楽しいのやら。
かくいう私も幼心と意識しなければ目の前のやつと同じことをしそうになる。こういう気持ちがなかったらオカ研には入ってなかったと思えばイイ子ぶってても結局同類ということだ。
そこから目的地までの旅は非常にゆったりとしたものだった。何せ新幹線では2人とも半分以上寝ていたのだからゆったり以外の表現のしようがない。
目的地に着いたアナウンスの音で目覚めた俺は、まだ夢の中の幼なじみを揺すって起こし、荷物をまとめる。まだ夢見心地のバカは「母さんみてぇ」などと言うが、「アホか」と言いながら叩いて夢から完全に覚めさせる。
駅のある町の周辺は全て観光事業で成り立っており、これらをまとめて一種のテーマパークと称する人もいる程だ。
外国人観光客がメインターゲットなのもあって、和のテイストが強い印象だ。そんな町のバスだからか、ほとんどがサムライを思わせる絵が書いてある。
がしかし、俺たちが乗るのはなんとも普通な田舎のバスと言った感じのもの。新幹線に乗っていた内の何名かは、このバスに乗り合わせになった。
こういう場合は近くの席に座るのが鉄則。単なる観光客ならまだしも、目的を同じくする同士なら話は別。情報共有のために話しかけてみる。
最初は当たり障りのない会話から始める。もし一般人なら、いきなりオカルトの話をされても困るだけだからだ。
会話を進めると、同士だということを確認。バスが終点に着くまで、情報共有をした。バカは珍しく興味津々で聞いていた。すぐにでも雨が降ってこないか心配になった。
普段は実際に目にするまで興味を示さないが、ココ最近は過剰なまでに反応する時がある。そういう時は必ず「当たり」を引いてしまうのは、野生の勘のようなものなのだろうか。
まあ当たりだとしても、食い扶持減らしの隠語のようなものが伝承として語られている。位のものだろう。そう思いたい。同士も、そんなふうに考えているのが透けて見える語り口なので安心しても良いだろうか。
そう思う程に不安感が増していくが、それを押し殺してしまえば好奇心によるワクワクだけ。この感覚はオカ研ならではだ。これから離れがたくて留まっているまであるのだ。日和ったその日には、幼馴染にバカにされる。
だがこの時だけは「行ってはならない」という警鐘が鳴っている気がしたのは、私だけだったのかもしれない。あるいはこのバカも感じていたのかも。
目的地に着く頃には、あたりの雰囲気感でオカ研のスイッチが入っており、どこから取材したものかと揃ってうずうずしていた。
しかし初日に回った場所は全滅で、そもそも無かったり、あっても偽物だった。独自の宗教にしつこく勧誘された時は「別ベクトルでやばい」という感じだった。件の旅館にチェックインする頃には、昼間の嫌な予感をすっかり忘れていた。
部屋に行く途中、バスに乗り合わせた同士がいたので情報共有がてら話をする。こちらの予定を聞いて、別のところを調べてきたようだった。
あちらも全滅だったようで、ガックリと肩を落としながら話していた。こちらも全滅だった事を話すと、「これで調べるところが尽きてしまった」との事。
どうせだからたっぷり観光をして帰るとの言う。それに対し、「実は目星をつけている場所がひとつ残っているんですよ」と言って、こちらも本来取材する気のなかった場所を教える。
言わなかったことについての言及はされたが、しっかりと説明すると納得したようで浴場に向かっていった。
「俺も行ってくる」とこちらにいらない荷物を預け、急ぎ足でバカも言ってしまった。俺が大浴場を使わないのをわかってての行動だろうが、高校生とは思えない我慢の無さに呆れてしまう。
こちらは部屋に入り、各部屋にあるシャワールームを使って済ませてしまう。上がる頃に丁度戻ってきたので、先程廊下で話題に出した場所について確認する。
実の所、調べた話から推測される1番可能性の低い場所だったために候補から外したのだが、チェックイン時に確認した女将の話を統合すると、1番可能性の高い場所に変わったのだ。
一番ないと思ってた原因は、この旅館の裏手の階段を登ったところにあるからだ。この辺りには商店街もあったらしく、それに関した神社だと思ったからだ。
しかしここのルーツを聞くと、話が逆転する。商店街の売り物は他じゃ見ない肉や野菜が中心。単なる特産品ならまだしも、話の内容的に異界のものらしい。
そしてこの旅館も、元は御鑑様への供物である人物をもてなすための施設だったそうだ。こうなると調べない訳には行かない。
機材の点検を済ませてから床に就く。久方振りの敷布団のせいか、それとも明日への期待のせいか。どちらにせよ、眠れないのは幼馴染も同じだったようで、明日の事を話し始めた。
こちらも乗っかって話す。勿論直ぐに飽きるので、話題を変えながらどちらかが寝るまで話す。泊まりがけで取材するようになってからするようになったことで、大抵は幼馴染が先に寝る。
今日も例にならうかのように、先に寝たのは幼馴染だ。が今回は、その後すぐに俺も寝てしまった。疲れていたのだろう。