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すずろ記  作者: 真波馨
7/10

6_花に祈りを


 前回の詩のエッセイで、花のことに少しだけ触れました。ですので、今回は「花」をメインテーマにお話します。

 真波は花について特別詳しいわけでもなく、趣味で花を育てているわけでもないのですが、なぜか昔から花言葉は好きでした。

 花言葉には神話や伝承など色々な由来があるため、「小説のネタになるだろうことを無意識のうちに察知していたのか」と今となっては考えたりするわけですが。

 何にせよ、ひとつの分野がきっかけで興味の範囲が広がるのは良いことではないかなと思います。


 真波が出会った花言葉の中で、由来がとても印象的だったものがあります。

 それは、女優の夏帆さんが主演していた『ヒトリシズカ』というドラマを観ていたときのこと。タイトルにもなっている「ヒトリシズカ」の花が気になって、ちょっと調べてみたのです。


 ヒトリシズカは、四月から五月にかけて咲く多年草の花。細いブラシのような形の花びら(と思われるもの)が特徴的で、ヒトリシズカという名前に反して群生する植物だそうです。

 華やかさよりも、山道にひっそりと咲いていそうな控えめな雰囲気のヒトリシズカ。その花言葉は、「隠された美」「愛にこたえて」です。切なさを感じさせる言葉ですが、由来となった出来事もまさに悲しい愛の物語でした。


 舞台は、平安時代末期。物語の主人公は、源義経の寵愛を受けていた女性・静御前です。源平の合戦後、兄の源頼朝によって京を追われた義経。静御前は九州を目指す義経らに同行しますが、愛する女性の身を案じた義経は、吉野の山で静御前に京へ戻るよう説得しました。

 ところが、京へ引き返す途中に捕らえられてしまい、頼朝のいる鎌倉に連れられます。そこで、頼朝に白拍子(舞の一種)を舞うように命じられました。妻の北条政子の希望もあり静御前はやむなく舞を披露するのですが、そのときに下記の歌を歌いました。



(一)しづやしづ しづのをだまき くり返し 昔を今に なすよしもがな

現代語訳:倭文(しず)の布を織る苧環(おだまき)から糸が繰り出されるように、時を昔に戻ることができたなら。


(二)吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき

現代語訳:吉野山の峰の白雪を踏み山に入った、あの人の跡が恋しいことよ。


※(一)および(二)の番号は、真波が説明のため仮に付けたものです。



(二)の歌に出てくる「人」とは、いわずもがな義経のこと。離れた地で愛する人を想う静御前のエピソードが、ヒトリシズカの花言葉の由来となっているのです。ちなみに、(一)の歌に出てくる苧環とは、糸を巻いて玉状あるいは環状にしたもの。苧環の漢字を当てた「オダマキ」という花もありますが、オダマキの植物から糸が作られるわけではありません。オダマキの花言葉は「愚か」です。


 静御前は上記の歌を歌ったことで頼朝の怒りを買うのですが、妻の政子がそれを宥めたことにより事なきを得ます。しかし、その後に義経の子を出産したときは、母親の切願も虚しく赤子は海に沈められてしまいました。頼朝の冷酷な判断にも実は理由があったのですが、だからといって生まれたばかりの子の命を奪っていいことにはならないでしょう。


 最近は、親が生まれたばかりの子どもを手にかけるというニュースをよく目にする気がします。そこには並々ならぬ事情があったのかもしれませんし、何より真波はまだ親になった経験がないので、その気持ちを安易に「判る」などとは言えません。しかしどんな理由があろうとも、決行してしまう前に踏み止まってほしい。母親が子どもを殺して、それで未来が良くなるなんてことは決してない。それだけは強く感じます。


 控えめながらも凛とした姿で咲くヒトリシズカをどこかで見たときは、我が子を悲惨な形で奪われた静御前を想いましょう。そして、この世に生を受けたその瞬間に死を迎えてしまう子どもが一人でも減るよう、花に祈りたいと思います。


 ただ花や花言葉についてつらつら書く予定だったのに、なぜこんな締め方になったのでしょう……着地点がどこになるかもわからない、それもエッセイの楽しみだということにしておきますか。

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