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すずろ記  作者: 真波馨
5/10

4_目を肥やす


 前回、絵画の話がちょこっと出たので、今回は絵画をメインにお話します。


 といっても、真波は芸術を専門に勉強したこともなければ、趣味で美術館巡りをしているわけでもありません。身近に画家の知り合いもいませんし、まして自分で絵を描いているなんてこともないです。


 それでも、美しい絵を見たり楽しんだりする機会はあるわけで、そういったものを気軽に手軽に楽しめる今の時代って幸せだよな、と思います。


 真波の手元には、西洋美術に関する本が一冊だけあります。

 きっかけは、これも前回のお話で出たのですが『ジョーカー・ゲーム』アニメの次回予告でした。その予告映像の中で「ミレーのオフィーリア」というワードが飛び出してきたのです。


「ミレーのオフィーリアとは何ぞや」と思い、まずは文明の利器インターネットで調べました。ヒットした絵を見た瞬間、しばらくその画像に釘付けになってしまいました。真波にとってはそれほどまでに美しい絵でした。そして、「ネットを開く手間なしにこの絵をいつでも眺められるようにしたい」という思いから、西洋美術の本を購入するに至ったのです。


『オフィーリア』は、イギリスの画家ジョン・エヴァレット・ミレーの作品です。

 残念ながら作品の説明は真波の持つ本には載っていなかったので、またまたウィキペディアで得た知識ですが、オフィーリアとはシェイクスピアの『ハムレット』に出てくる登場人物だそうです。真波は『ハムレット』を未読なのですが、主人公ハムレットの妃候補になっているのがオフィーリアみたいです。しかし、何やかんやあってハムレットと気持ちがすれ違い、最終的に川で溺れ死んでしまう悲壮な人生を歩みます。『オフィーリア』は、物語の後半でオフィーリアが川に沈んでいく場面を描いたもののようです。


 川の周囲を囲む緑は、青々としたものから枯草まで本物の草木のように忠実に描かれています。またオフィーリアの手や川面に浮かぶ花々は、作品に華やかさと彩を添えています。そんな美しい自然風景の中、川に身を横たえる女性……死を目前にして、彼女は何を考えているのでしょう。その表情は、自身の死を憂いているようにも、はたまたすべてを受け入れ心穏やかな最期を遂げようとしているようにも見て取れます。


 オフィーリアの死は、あらゆる文学作品の中でも最も詩的な死の場面として、高い評価を受けているのだとか。その美しさを損なわずに絵画で表現した『オフィーリア』も、後にサルバドール・ダリから絶賛され、また日本でも夏目漱石が自作の小説の中で紹介したことを機に、国内での知名度が高まったということです。


 推理小説では、ときどき死体遺棄現場を花やら何やらで美しく飾り付ける殺人犯が登場します。彼らの中には、殺人や人間の死を一種の芸術として作品化するようなとんでもない性癖の持ち主もいるわけですが、『オフィーリア』ほどの完成された芸術的な死には、真波はまだ出会ったことがありません(もちろんフィクションの中での話です)。そもそも、オフィーリアの溺死は自殺ということになっているらしいですが。


 人の死を美しいとか美しくないとかで語るつもりはありませんが、『オフィーリア』を見ていると「人生のフィナーレをこんな美しい形で迎えられたら」とつい考えてしまいます。

 ところで、水死体は水に流されているあいだ魚などに食べられたり、腐敗ガスによって体がパンパンに膨れ上がったりしてひどく醜い見た目になるのだとか。そこから日本では水死体のことを「土左衛門」と呼ぶのですが、そう考えると現実の水死と『オフィーリア』の死はみごとに対照的なのですね。土左衛門のことを知って以来、真波は「いろんな死の方法を選択できるとしても、水死は嫌だな」と思うようになりました。


 絵画のことを話していたのに、随分と脱線してしまいました。

 ちなみに、真波が持っている西洋美術の本は『世界でいちばん素敵な西洋美術の教室(三才ブックス)』です。『オフィーリア』以外にも『モナ・リザ』『真珠の耳飾りの少女』『叫び』など有名どころの作品たちが網羅されており、時代ごとに流行した美術作品やその背景なども丁寧にわかりやすく紹介されています。西洋美術の入門書としておすすめですよ。

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