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~ACT2 変化~⑤

「それは、他のピュールヘルツに緊急を知らせるためのものだから」


 リールの説明に2人は納得した。


「笛の確認も出来たことだし、解散としましょうか」


 リールの言葉に4人は2組に分かれて、それぞれモールの街へと散っていくのだった。



 陸路組のリールとピューサは車でモールの街を移動していた。


「やっぱり警戒しているのか、誰も歩いていないねぇ」

「……」

「雲行きも怪しくなってきているし。一雨来るのかなぁ?」

「……」


 リールが助手席のピューサへと言葉を投げかけるが、ピューサは漆黒の瞳をリールに向けるのみで言葉を返さない。これではリールの独り言だ。

 こんなやり取りを一体何度繰り返しただろう。しびれを切らしたリールは短く嘆息すると、


「ピューサちゃん。何か僕に聞きたいことがあるって顔をしているね」


 言葉こそいつもののほほんとしたリールだったが、その雰囲気は一切の隙がない。

 ピューサは無表情にリールを見やると、ようやくその重たい口を開いた。


「あなたは、何を隠しているのですか?」

「隠すだって? 心外だなぁ」


 何の飾り気もないピューサの言葉に、リールはあはは、と笑って答える。


 リールは気付いているのだろうか。笑っているのが口元だけだと言うことことに。

 そんなリールに、ピューサは僅かな恐怖を感じながら続ける。


「あなたが何を企んでいるかなんて、興味はありません。ただ、『アダムの正体』については、俺にも知る権利があると思います」


 ピューサの言葉を聞いたリールは、車を路肩へと停車させた。

 そして真っ直ぐにピューサを見つめる。

 そのリールの瞳はいつもの柔らかなものではなく、鋭い刃物のような視線だ。それは無言の圧力。

 これ以上リールに何を言っても答えてはくれないだろう。

 そう判断したピューサは諦めたように軽く肩をすくめた。そして参ったというように、


「分かりました。時が来るまで待ちますよ」


 そう言って嘆息する。

 ピューサの言葉を聞いたリールは、今までの険しい表情をふっと和らげると、


「ピューサちゃんが頭の回転の速い子で助かるよ」


 そう言うリールの顔はいつもの柔らかなものだった。ピューサはそんなリールを無表情で見やる。


「さてと。そろそろ水路組の様子でも見に行きますか」

「そうですね」


 話がまとまり、車を水路側へと方向転換させた時だった。




 ピ――――――――――――




 高く澄んだ、よく通る笛の音が響き渡った。

 それはピュールヘルツの緊急を知らせるものだ。

 リールとピューサは一瞬互いに顔を見合わせると、砂煙を上げて笛の鳴った場所へと急ぐのだった。



 リールたちと別れてから数分後。

 ヴァルリとサミューは船着き場に到着していた。


 なんだか空模様も怪しくなってきている。分厚い雲がモールの街を覆おうとしている。この時期のモールでは珍しいことだった。

 そんな空模様には気付かず、2人は船着き場で頭を抱えていた。


「船頭さん、いてないやん」

「怪事件が怖くて、仕事放棄しちゃってるのかも」

「悩んでいてもしゃーない。ここは俺が頑張るか!」


 サミューはそう言うと、舟に乗り込みヴァルリに手を差し出した。


「さ、姫。お手をどうぞ」


 一瞬何を言われたのか分からず目をぱちくりさせていたヴァルリだったが、自分の格好を思いつき憮然として、


「自分で乗れるよ!」


 そう言って、エプロンドレスの裾をまくり上げながらズカズカと舟に乗り込んだ。その様子をサミューは面白そうに見つめている。


 舟に乗り込んだ2人は水路へと出るために、オールを無茶苦茶に漕いだ。始めは全く前にも後ろにも進まなかった舟だったが、サミューがコツをつかみ数分で水路へと出ることが出来たのだった。


「なぁ、ヴァルリ」

「何ー?」

「今回の魔物は、何型になるんやろ?」


 水路に出てしばらくして尋ねられたヴァルリは、んー、と天を仰いだ後、


「今朝見た感じだと、水型、かなぁ?」


 自信なさげに言われた言葉に、サミューは舟を漕ぎながら言う。


「水型かぁ。俺、封殺したことないわ……」

「言われてみたら、俺もないかも」


 2人の間に短い沈黙が落ちる。その沈黙を破ったのはサミューのこの言葉だった。


「なぁ、ヴァルリ。水って、刃物効くんやろか?」

「え?」


 サミューの言葉にヴァルリが一瞬で固まってしまう。


 ピュールヘルツが王宮から魔物退治に支給されているものは、刃物である。その刃物を使い、魔物の核を破壊することで倒すことが出来るのである。


 しかし、今回の相手はおそらく『水型』に分類されるだろう。水が相手では、どう戦って良いのか全く見当も付かない2人にとっては、


「核ならきっと、刃物も通る、はず……」

「厄介な相手やなぁ……」


 心なしか遠い目をしている2人。サミューはぼそりと、


「魔物が出ないことを祈るか……」


 そんな小さな呟きと共に、漕ぎっぱなしだった手を止めた。


 空からはとうとうポツポツと雨粒が降り出してきた。ヴァルリたちが空を見上げた時だった。


 突然舟全体が大きく揺れた。ヴァルリとサミューは舟から振り落とされないように、とっさに船の縁へとつかまった。

 大きな波が起こり、その波がヴァルリたちの目の前で1つの大きな塊になっていく。

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